口達者なセールスパーソン -四個概念の誤謬 

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問題です

以下の主張のどこに問題があるか考えてみましょう。

「台湾や韓国、中国の製造業の技術レベルの向上には目を見張るものがあり、彼らに技術的にキャッチアップされた業界は、コスト差をカバーできず、大きな苦境に立たされる。エレクトロニクス業界はまさにその例であり、どの企業も非常に対応に苦労している。これからは自動車産業もアセンブルの技術的難易度が比較的低いとされる電気自動車にシフトしていくだろうから、自動車業界にも同じことが起きる可能性は高い。IT業界も然りだ。我々製薬業界も対岸の火事と見ることはできない。これからは、彼らとの競争で大いに苦境に立たされることが考えられる」

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解答です

これは専門用語で「四個概念の誤謬」と呼ばれるものです。

いわゆる演繹的な論理展開(三段論法)では、

「哺乳類は肺呼吸をする」(大前提、もしくは前件)
「猫は哺乳類である」(小前提、もしくは後件)
「よって猫は肺呼吸をする」

となります。大前提および小前提に含まれる、「哺乳類」「肺呼吸」「猫」という三つの関係から必然的に結論が導かれるのです。

先の例であれば、

「台韓中に技術的にキャッチアップされた業界はコスト差ゆえ大いに苦しむことになる」
「エレクトロニクス業界は台韓中に技術的にキャッチアップされた」
「エレクトロニクス業界は台韓中とのコスト差に大いに苦しんでいる」

であれば、非常に分かりやすい三段論法になっていたでしょう。

ところが、ここに四つ目の言葉が入ると、論理展開の良し悪しをしっかり見分けなければならなくなります。途中で自動車産業やIT業界の例が入っているのでさらに分かりにくくなっていますが、論理展開の重要な点を抽出すると以下のようになります。

「台韓中に技術的にキャッチアップされた業界はコスト差ゆえに大いに苦しむ」
「エレクトロニクス業界は台韓中に技術的にキャッチアップされた」
「我々は製薬業界である」
「製薬業界は台韓中とのコスト差に大いに苦しむだろう」

これは明らかに論理展開として成立していません。これを成立させるのであれば、台韓中の技術キャッチアップ度合いが、製薬業界とエレクトロニクス業界と同じ、もしくは近いという条件が必要です。つまり、

「台韓中に技術的にキャッチアップされた業界はコスト差ゆえに大いに苦しむ(エレクトロニクス業界はその典型)」
「製薬業界は台韓中に技術的にキャッチアップされつつある」
「製薬業界は台韓中とのコスト差に大いに苦しむだろう」

であれば全く正しい議論となっていたでしょう。現実を見ると、特に新薬開発について言えば、欧米企業が先行しており、エレクトロニクス業界とは様相は異なります。

このケースでも分かるように、四個概念の誤謬は、その箇所だけ切り出せば、おかしさに気づくのは難しくありません。しかし、このケースのように、途中に自動車産業やIT業界など、余計な情報を立て板に水のように入れられてしまうと、なんとなく、本来は当てはまらない大前提が、自分にも当てはまるように錯覚するのです。

このテクニックは、口の達者なセールスパーソンがよく使うテクニックでもありますから、日常の購買シーンなどでも注意したいものです。

次回は「代表性ヒューリスティック」を取り上げます。どうぞお楽しみに。

 

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