サントリー黒烏龍茶…免罪符としての健康飲料 

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快楽には罪悪感が伴う。というか、罪悪感こそが快楽の源泉と言えるかもしれない。人は、年齢を重ね、分別をわきまえるようになるにつれ、快楽と罪悪が表裏一体であることを実感し、ついつい快楽の追求を自主規制してしまうことがある。

快楽の一つに、「おいしいものを腹いっぱい食べる」ことがある。ところが、皮肉なことにおいしいものは同時に脂っこく体に悪いことが多い。特に、自分の健康が気になる中高年層は、血中コレステロールが気になり、脂っこい料理を食べたくても控えてしまうことが多いのではないか。

「サントリー黒烏龍茶」のテレビCM*1には、美味しそうな料理を幸せそうに食べる中高年が登場する。脂っこい中華料理、霜降り牛肉の鉄板焼き、深夜の屋台の排骨麺*2・・・食べたいものを好きなだけ食べることこそが最高の快楽である。一方で、これらが体に良くないことも分かっており、そこには罪悪感もつきまとう。そんな時、「サントリー黒烏龍茶」を飲めば脂肪を洗い流してくれるから大丈夫、というのがCMの基本的なメッセージである*3。

私の友人に、「ラーメン二郎*4」の大ファンがいる。40代半ばの彼は、中性脂肪が高いという健康上の問題を抱えているが、「二郎」だけはやめられない。それで、ぎっとりと豚の背脂が浮いたスープに、脂身の多いチャーシューが乗った「二郎」を食べた後は、必ず「サントリー黒烏龍茶」を飲む。本音を言えば、黒烏龍茶が脂肪を流してくれることを信じきってはいない。彼にとって、黒烏龍茶が洗い流すのは、脂肪でなく罪悪感なのである。

「サントリー黒烏龍茶」と同じような効能を持つ商品に「花王ヘルシア緑茶」があるが、そのメッセージは対照的である。ヘルシア緑茶のTVCM*5は、香川照之扮する中年男性が健康診断やプールで他人のお腹を見、自分のお腹の脂肪が気になってヘルシア緑茶を飲む、という内容である。ヘルシア緑茶は、「お腹をスリムにする」という言わば禁欲的生活をめざしているのに対し、黒烏龍茶は、「脂っこいものを好きなだけ食べる」という快楽的生活をめざしている。

人間は元来、弱い存在である。往々にして、「正しい行い」よりも「悪い行いを許してくれる免罪符」を求めてしまう。ヘルシア緑茶が人間の意志の強さを前提としているとすれば、黒烏龍茶は人間の意志の弱さを前提としている。黒烏龍茶が健康茶市場でトップシェアを維持*6している秘密は、サントリーが人間の本質的な弱さを受け入れるマーケティングを実践していることにある。黒烏龍茶は、「健康志向」という時代のプレッシャー*7の中、中高年が人生を楽しむための免罪符なのである。

*1 実際のCM
*2 豚肉の唐揚げをのせたラーメン。
*3 2009年8月現在、サントリー黒烏龍茶は、松坂牛・前沢牛が当たる販促キャンペーンを実施中であるが、まさにCMのメッセージと一貫性のあるプロモーション施策である。
*4 東京・三田の慶應義塾大学正門近くに本店を置くラーメン屋のチェーン。その独自性ゆえに、「二郎のラーメンは、ラーメンではなく『二郎という食べ物』」と言われる。また、その熱狂的ファンは、「ジロリアン」と呼ばれている。
*5  実際のCM
*6 「特定保健用食品」に認可された商品を含む、機能性健康茶の2008年度の市場規模は570億円。そのうち、黒烏龍茶はシェア40%でトップ、ヘルシア緑茶はシェア25%で第2位。
*7 実際、過度の健康志向は不健康でさえある。

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