おカネの動きを予測して将来の利益を高める 

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前回は、株主・天野さんの視点から、財務諸表といわれる会計報告がどのような情報を提供しているのか、どのようなポイントに注視すべきかを解説しました。今回は、経営者・森田さんの視点から、企業の将来のアウトプットを高めるために財務諸表の何に着眼すべきか、考えてみましょう。

業績を向上させる打ち手を考える際には、以下の四つの道筋を取ります。

1)現在までのアウトプット、つまり、「実績」を測定する
2)将来達成すべきアウトプット、つまり、「目標」を設定する
3)「目標」と「実績」のギャップを解明する
4)目標を達成するための具体的なアイデアを出し、評価する

これらは、いずれも、おカネの尺度で表現することが不可欠です。企業の経営は、おカネの裏づけがあってこそ成り立ちます。時系列での変化や、競合との差異を、定量的に把握することで、課題がどれほど大きいのか、解決策がどの程度の効果を見込むものなのかを、具体的に測ることができるからです。

再びA社の例で見ていきましょう。前回は、株主・天野さんがA社の昨年度の財務諸表を見ながら、社長の森田さんに質問を投げかけていく場面を想定しました。さて、森田さんの説明を受け、天野さんはA社の実績を把握したものとします。次の天野さんが考えるのは、将来のことでしょう。例えば、「今年度は自己資本5億円に対してROEが5%になるように、当期純利益で2500万円は確保して」というように、目標を提示します。森田社長としては、目標を達成するために、例えば売上や費用を、どのように構成していくかを考えなければなりません。ここで有効なフレームワークが「損益分岐点分析」です。

固定費と変動費

順をおって解説しましょう。まず、経営者の立場から会計報告を分析する際に、よく使われるのが、「売上高」と「費用」の関係に焦点を当てた方法です。「売上高―費用=利益」となるわけですが、「費用」については「変動費」と「固定費」に分けて考えます。

「変動費」とは、一定の生産・販売能力の下、生産量や販売量の変化に比例してかかる費用のことです。例えば原材料費、外注費、運賃、(販売量に比例するタイプの)販売手数料などが、これに当たります。一方、「固定費」とは、生産量や販売量の変化に関わらずにかかる費用、言い換えると、生産量がゼロであっても発生する費用のことです。例えば人件費、家賃やリース料、借入金の支払利息などが、これに当たります。

費用をこのように大別することで、「売上高の変化に応じて利益がどう変わるか」が推計しやすくなるというメリットがあります。売上高から変動費だけを差し引いた利益を「限界利益」、また、限界利益を売上高で割ったものを「限界利益率」と呼びます。限界利益率は、「売上高が一定額、増加したときに、そのうちのどれだけの部分が利益の増加に結びつくか」を表しています。ここまでを、簡単にまとめてみましょう。

売上高―変動費―固定費=利益
限界利益=売上高―変動費(=利益+固定費)
限界利益率=限界利益÷売上高

損益分岐点

さて、利益と損失が分岐する点、すなわち利益がゼロとなる状態のことを「損益分岐点(Break-even-Point)」といい、この状態にある売上レベルのことを「損益分岐点売上高」と言います。損益分岐点を把握することで、ある一定の費用の下で利益を出すために最低限、必要な売上高は幾らか、またある一定の売上高の下で利益を出すために削減が必要な費用は幾らかなどを把握することができます。このように、損益分岐点を用いた分析を「損益分岐点分析」といい、利益予測をしたり、利益計画を立てたりするために有効なフレームワークです。

損益分岐点売上高とは「利益=0」の時の売上高なので、損益分岐点売上高では

  損益分岐点売上高―変動費―固定費=利益=0
  損益分岐点売上高―変動費=固定費

となり、損益分岐点売上高では、

  限界利益=売上高×限界利益率=固定費

が成り立つので、

  損益分岐点売上高=固定費÷限界利益率=固定費÷(1-変動費/売上高)

となります。

算式の他、以下の手順で、グラフを用いて損益分岐点売上高を求めることもできます(下の表)。

1. y=xであらわされる売上線(この線上では売上高=費用となる)をグラフに記入する
2. y=F(F:固定費の額)の固定費線をグラフに記入する
3. y=ax+Fの総費用線をグラフに記入する(aは変動費率を表す)
4. 売上高線と総費用線の交点が損益分岐点で、そのxの値が損益分岐点売上高となる

図表1 損益分岐点分析のグラフ

5891

戦略策定に損益分岐点売上高を活用する

損益分岐点売上高の活用法の一つは、損益分岐点と現状の売上高とのギャップを把握することです。これから事業を始める場合や、赤字の場合は、売上高がどこまで伸びると利益を生み出すことができるのかを見極めなくてはなりません。黒字の場合でも、どの程度、損益分岐点を上回っているかを押さえておく必要があります。ギリギリで上回っている状態では、売上高が少しでも落ちると赤字になる可能性が高いので、経営の安定度が低いと見なくてはなりません。損益分岐点売上高と現状の売上高との間にどのくらいの差があるのかを見る比率を、「安全率」と言います。比率が低いほど経営が安定していることを示します。赤字の会社では、100%を超えます。

安全率=損益分岐点売上高÷現状の売上高
損益分岐点売上高の活用法のもう一つは、利益計画を立てるのに活用することです。目標とする利益を達成するためには、いくら売上高を上げたら良いかが、算出できます。この場合は、

売上高-変動費―固定費=限界利益-固定費=目標利益

となるので、

目標利益達成売上高 =(固定費+目標利益)÷限界利益率
=(固定費+目標利益)÷(1-変動費/売上高)

さらに応用すると、予想される売上高の下で、目標利益を達成するために、コスト削減がどのくらい必要かを算出することもできます。

図表2 固定費/変動費の削減

5892

変動費の削減だけで達成する場合、固定費の削減だけで達成する場合は、上記の式を解くことで求められます(上表のイメージ)。変動費と固定費を共に削減する場合、あるいは一方を削減して他方を増やす場合は、上記の式に変動費と固定費の数値を当てはめてシミュレーションを行います。

変動費について注意したいことは、変動費の総額ではなく、変動費率(変動費/売上高)または1単位当たりの変動費で見ることです。これは、コストが増減する効果と生産量・販売量が増減する効果を混同しないためです。変動費率を下げる施策には、たとえば、原材料の購入単価の低下、購買先や購買のやり方の変更、省エネルギー化(光熱費の低下)などがあります。

固定費において注意したいのは、固定費の削減は、設備の売却、生産・販売拠点の統廃合、人員削減といったかなり大がかりな変革を伴うことが多く、通常、簡単にはいかないことです。固定費は一旦上げると削減が難しいので、固定費を上げるような投資は、売上高の動向を見極めて慎重に検討し、なおかつ変動費率を下げる施策もあわせて行う必要があります。

損益分岐点売上高の活用法は、他にもあります。例えば、複数の製品を生産・販売している企業の場合には、どの製品の売上げが伸びると利益が上がりやすいのかを予測したり、利益を最大化するにはどの製品に力を入れるのか(どれだけ経営資源を配分するのか)を見極めたりするのにも有効です。

ここまで読んで、「変動費と固定費と、きれいに分かれるものだろうか」と思われた方もいるかもしれません。厳密には、変動費と言っても売上高に比例する度合いには差がありますし、固定費と言っても全く不変というわけではありません。実際には、費用の性格や過去の動きに基づき、前提をおいて単純化して分析します。

損益分岐点分析は、仕組みが単純なため、企業のコスト構造(売上高、費用、利益の関係)の全体像が把握しやすいのが、最大の長所です。企業の利益予測や利益計画においては、まずはコスト構造の全体像をつかんだ上で、詳細に見る必要があるところは、費用を細かく分類し、費用の動き方や発生する要因を掘り下げて分析します。

(本稿は、グロービス・オーガニゼーション・ラーニングが発行するメールマガジン「グロービスNews」の2003年3月24日号に掲載されたものを、加筆修正のうえ再掲したものです)。

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