財務諸表から企業を理解する 

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前回は、A社という仮想の会社を通じ、資金提供者(株主と債権者)は企業にどのような関心を持つのか、会計データの何を見るのか、ということを見てきました。社長の森田さんは経営活動のアウトプットをアピールし、株主の天野さんと債権者の安岡さんはアウトプットを評価するという緊張関係にあり、その中間点に財務諸表に代表される“お金の報告書”が置かれることを感じ取っていただけたと思います。今回は、その財務諸表について注目すべきポイントを、主に株主である天野さんの目を通じて見ていくことにします。

「財務諸表」は一定期間(通常は1年間)でどれだけ儲かったかを示す「損益計算書(P/L)」、ある時点でどのような経営資源を保有しているかを示す「貸借対照表(B/S)」、一定期間(通常は1年間)の資金(キャッシュ)の動きを示す「キャッシュ・フロー計算書(CF/S)」、純資産の部の変動要因について記載される「株主資本等変動計算書(S/S)」から成り立っています。特に最初の3つが重要ですが、それぞれを端から端まで順を追って見て行くのではなく、まずは全体像をつかむことが必要です。

損益計算書(P/L:Profit and Loss Statement)

天野さんが最初に気にするのは、「昨年度どれだけ儲かったのだろうか」ということでしょう。その疑問に直接答える財務諸表が損益計算書です。損益計算書は昨年度1年間活動して、いくら儲かったかという情報を与えてくれます。その最終結果は「当期純利益」であり、提供した自己資本(一般には株主資本に評価・換算差額を加えた額)に対する利回りであるROEの分子になりますが、それだけ見ていたのでは全貌はわかりません。随所で更なる疑問をぶつけ、財務諸表から答えを探してくるような読み方をすべきです。そのためには、損益計算書の構成を押さえておく必要があります。

損益計算書の基本になる考え方は、「収益-費用=利益」です。この収益、費用、利益を企業活動の種類によって、1)営業活動、2)財務活動、3)臨時的・特別な活動の3つの段階に分けて表現します(図1)。このそれぞれの段階における利益、つまり、企業の生産・販売している製品からの儲けである「売上総利益」、事務所経費などを差し引いた本業での儲けである「営業利益」、銀行からの借入金に対する利子などを加味した「経常利益」にも注目する必要があります。

たとえば天野さんが当期純利益の金額がライバル他社に比べ見劣りすると思ったなら、ライバル他社の損益計算書と比べ、どの段階の利益で水をあけられているかを調べます。調べたところ、営業利益はほぼ同額で経常利益で差がつけられていることがわかれば、営業外費用すなわち支払利息などの項目を調べて行くという方向です。またライバル企業と規模の違いがあれば、2社の各種利益の売上高に対する比率で比較します。

図1 損益計算書と貸借対照表

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貸借対照表(B/S:Balance Sheet)

次に天野さんが気にする疑問は、「将来の収益や資金を生み出すために、A社はどのような経営資源を持っているのか、そしてそのための資金をどう調達しているのか」というものではないかと思います。この疑問には貸借対照表がある程度まで答えてくれます。前回、簡単に触れましたが、貸借対照表では、左側に資金の運用形態、右側に資金の調達源が示されます(図1)。

左側にある「資産」は、企業が保有する経営資源です。資産の価値は、企業活動の中で活用して、将来の収益や資金を生み出すことにあります。たとえば、売掛金は来年度ほとんどが現金に変わるでしょうし、たな卸資産(在庫)も来年度売れることによって収益を生みます。機械設備は、それを使って製品を製造することによって将来の収益に貢献するものと考えられます。右側の「負債」と「純資産」は、資産の獲得のために使われた資金の調達源が、資金の種類別に、記載されています(詳細は省略します)。左側と右側の合計額は必ず同額となり、バランスがとれます。このため、貸借対照表は、英語ではBalance Sheetと呼ばれています。

天野さんはまずA社はどのような資産をどれだけ保有しているかを把握することから始めます。注意しなくてはならないのは、役に立たない資産もあるかもしれないことです。たとえば売掛金のなかで相手企業が倒産する恐れが高いものがあれば、将来現金にならないリスクを把握しなくてはなりません。資産をこのように調べることにより企業の戦略にあった経営資源を取り揃えているかを確認することができます。

他方、負債と純資産は、資産や売上げと比較して、バランスをチェックします。たとえば、株式による資金調達に比べて借金(負債)が大きすぎないか、負債返済の原資になる(損益計算書に記載された)利益に比べて負債が大きすぎないか、といったところです。さらには、資産同様、負債の中身や、負債の中身と資産の中身との対応も見るでしょう。

キャッシュ・フロー計算書(CF/L:Cash Flow Statement)

続いての天野さんの疑問は「資金の動きはどうだったか」という点でしょう。企業活動は将来の布石として投資を行い、過去投資した成果を受け取ることの繰り返しといえます。そうした企業活動は資金(キャッシュ)の動きを通して観察できます。企業活動は本業の活動を表す営業活動、将来の布石を表す投資活動、資金の過不足を調整する財務活動から成立ちます。これらの合計が、企業全体のキャッシュ・フローの増減分になり、同時に貸借対照表の「現金および預金」の増減分に相当します。キャッシュ・フロー計算書はこの3つの企業活動別に資金の収支を表した財務諸表です(図2)。

図2 キャッシュ・フロー計算書の構成

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天野さんはまず3つの活動すべて合せ、資金がいくら増えたかを知ろうとします。次に知りたいのは、3つの活動の構成です。一般に企業は将来の布石を打ちつづけるため、投資活動によるキャッシュ・フローはマイナスですが、過去の投資が軌道に乗ってくると、営業活動によるキャッシュ・フローがプラスになり、両者の過不足分は財務活動によるキャッシュ・フローで調整されるというパターンが多く見られます。しかし、まだ立ち上がったばかりの企業では投資活動、営業活動によるキャッシュ・フローともにマイナスであることもあります。天野さんはA社の発展段階、ライバル他社との比較を通して納得できるキャッシュ・フロー構成になっているかをまず確認することになります。

そして、活動ごとにキャッシュ・フローを見て行きます。営業活動によるキャッシュ・フローでは本業で獲得したキャッシュの主要な源泉は何かをつかみます。投資活動では発展段階に応じて必要な投資を行っているか、本業と関係の薄い納得できない投資を行っていないか、財務活動では必要額以上に資金調達を増やしていないだろうかなどを把握します。

ところで、損益計算書で儲けがわかるのに、なぜキャッシュ・フローを見るのでしょうか。実は、損益計算書では、主に「この期間の収益、費用はどれだけか?」を求めるために、さまざまな前提を置いて金額を出しています。そして前提の置き方によって収益や費用の金額が違い、利益額が大きく変わってきます。しかし、資金の動きは前提の置き方に左右されない実態を示しています。損益計算書上は当期純利益が大きな金額でも、実は営業活動によるキャッシュ・フローはマイナスという場合もありえるのです。

なお、今回は財務諸表について、主に株主の視点から説明してきました。しかし、財務諸表が提供する情報はこれだけではありません(例えばここでは、財務諸表の構成要素の一つ「株主資本等変動計算書(S/S)」についての解説は、やや高度に過ぎるので割愛しています)。例えば債権者、取引先、社員など、見る人によって会計報告書を通じて得たいと考える「答え」は異なり、従い、重点的に見るところも変わってきます。経営者の森田さんの立場からすれば、こうした多様な関係者の持つ疑問に対する「答え」を用意しておく責任があります。「今までどうなっているのか」「なぜ、そうなっているのか」と問われたら実態や理由を、「今後、どうするのか」と問われたら、どこをいつまでにどうするのか、具体的な打ち手を説明できなくてはなりません。

今回、触れられなかった点や財務諸表の詳細については、財務会計や財務諸表論の書籍やビジネススクールのクラス受講などで補っていただければと思います。その際には、「誰の視点から読むか」(今回で言えば株主)という立場を明らかにし、様々な視点から数字と対峙するといいでしょう。それにより、個々の項目の意味をより具体的に感じ取り、理解することができるはずです。

次回は、経営者・森田さんの立場から、財務計画の策定について説明します。
(本稿は、グロービス・オーガニゼーション・ラーニングが発行するメールマガジン「グロービスNews」の2003年3月3日号に掲載されたものを、2006年5月の新会社法施行を踏まえ、加筆修正のうえ再掲したものです)。

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