MacBook Air…「凝り」の記号的価値 

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2月7日、MacBook Airが発売となった。

今年に入って、そのテレビCMを目にした方も多いのではないだろうか。印象的な歌声*1とともに、白い部屋のテーブルに置かれたマニラ封筒からMacBook Airが取り出される映像が流れるだけの、シンプルなCMである。
発売前からMac売り場には、予告コーナーが設置され、CEOのスティーブ・ジョブス氏、自らが製品発表会でプレゼンテーションする映像*2が流されており、その様子は、ジャパネットたかたの高田明社長が演じるテレビ通販を彷彿とさせた*3。

発売当日、私は横浜のヨドバシカメラのMac売り場を訪問した。天井から、「MacBook Air展示中」というサインが吊られており、人だかりの中にもその場所をすぐに見つけることができた。先客の頭越しに、現物を見た時、「薄い!」と感じた。それは、本体もディスプレイもエッジが先細りしていて、見る角度によっては刃物の刃*4のようにも見えた。また、貝殻のようなエルゴノミックな形態とアルミの質感は、これまでの、どのノートパソコンにも似てはいなかった。

バレンタインデーが近かったせいか、売り場には多くのカップルが訪れていた。私は、彼らの表情や言葉を観察した。多くの人は、MacBook Airを見ると、まず驚きの表情が浮かび、すぐに「参りました!」という笑顔になり、パッドを二本指で触ってみたり、持ち上げてみたりする。そして、「ほしいねー」とか「これがほんとのノートパソコンだよね」などの言葉がでる。彼らの表情や言葉を聞いて、私はMacBook Airの成功を確信した。

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MacBook Airは多くのメディアでも取り上げられている。その中に、MacBook Airと、同じく薄型のレノボのThinkPad X300を、主要なスペックごとに比較している記事があった。薄さではMacの勝ち、重さではThinkPad、容量ではThinkPad・・・、そして総合的にMacBook Airがやや優勢、という内容だ。これを読んで私は、見当はずれの評価だと思った。確かに「世界最薄」というのはMacBook Airの価値だ。それは、客を店頭に引き寄せる大きな要素である。でも、本当の価値は、そのスペックとは違うところにあるのではないか。

話は飛躍するようだが、私はMacBook Airを見て、古代の石器を連想した。今から60万年以上前のアシュレアン石器について、歴史学者の松木武彦*5氏は、次のように述べている。

高度な技術と時間をかけて細かい打ち欠きの作業(調整)を重ね、ほぼ完璧な左右対称性と、精緻な打製石器独特の表面の質感を実現した逸品だ。動物を解体して肉をはずすという機能に、ここまで注意深く手の込んだ細工はいらない。ただ使うだけの目的には不必要な「凝り」だろう。(「旧石器・縄文・弥生・古墳時代 列島創世記[全集 日本の歴史]」(松本武彦・著、小学館・刊))

私がMacBook Airに感じたのも、石器の「凝り」と同種のものである。MacBook Airのアルミの質感、貝殻のようにエルゴノミックな曲面はまさに、実用性を越えた「凝り」だ。そういえば、iPodの鏡のように磨かれたシルバーの鏡面は、新潟の金属加工会社*6が熟練職人の手作業で請け負っているが、それも実用性とは関係ない(というか、実用的にはむしろ指紋や傷がつきやすいなどの問題が生じている)「凝り」である。

石器の「凝り」は、「俺はこんな見事な道具をつくる力と余裕がある」という無意識のメッセージで、そこには異性を引きつける記号的価値があると主張する考古学者*7もいる。歴史を振り返れば、縄文式土器、正倉院御物、戦国時代の甲ちゅう・・・歴史上のあらゆるモノには、何らかの実用を超えた「凝り」が施されており、記号的価値は石器に限らず、全ての人間の創造物に備わっているのではないか。この仮説を借用すれば、MacBook Airの「凝り」には「自分はこの美しさを理解し、それを所有できる人間である」という記号的価値があると言えよう。

「凝り」は、60万年以上も昔から、人間が無意識のうちに感じてきた本質的な記号的価値である。それは、「薄さ」「軽さ」「スピード」などのように、定量的なスペックで表現することはできない。しかし、人間の存在の本質に関わる部分であり、購買決定に与える影響はスペック以上に大きい・・・MacBook Airを眺めながら私は、そんなことを考えていた(先進技術を見ながら古代史を思う自分も、相当アノマリーだと感じつつ)。

 

*1 フランスの女性シンガー、ヤエル・ナイムの「ニュー・ソウル」。この音楽、店頭でも使われていた。
*2 1月15日にサンフランシスコで行われた発表会の映像。そこには、ところどころ「ウォー」などの驚きの声が重ねられていたが、これは確実に演出である。昔のアメリカンドラマの「録音笑い」と同様の。
*3 ジョブス氏と高田氏、語り口は違っても、トップ自らセールスするという行動は同じである。
*4 最も薄い部分は4ミリ、最も厚い部分で1.94センチ。
*5 岡山大学文学部准教授。大阪大学大学院文学部研究科博士課程修了。専攻は日本考古学。ヒトの心の現象の科学的な分析・説明による、科学としての歴史の再構築をめざしている。
*6 新潟県燕市の東陽理化学研究所。「研究所」というより、熟練工を擁する「大きな町工場」といった趣の会社である。
*7 考古学者マイケル・コーンとスティーブ・マイズンの学説。

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