サザンオールスターズ(1)…「不易流行」のマーケティング 

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サザンオールスターズ(以下SAS)は、音楽業界のアノマリーである。1978年のデビュー以来、30年間、第一線で活躍してきた。その事実だけでも、浮き沈みの激しい音楽業界の中では奇跡に近い。ただ、SASのアノマリーたるゆえんは、それだけではない。普通ならミュージシャンが年齢を重ねるにつれ、ファンも高齢化してゆく*1。ところがSASの場合は、同世代のファンを維持する一方で、常に若年層のファンを開拓し続けている。

海に行ったときにききたいアーティスト

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出典:「ケツメやレンジも人気!~海で聴きたいアーティスト」(2007年8月9日、ORICONSTYLE)

2007年6月にオリコンが実施した調査によれば、SASは、中高生から40代まで、すべての年齢層で「海に行ったときに聴きたいアーティスト」の第1位にランクされている。SASが単にロングセラーであるだけでなく、10代の若い層も引きつけている理由は何か。その秘密を探るべくSASの作品を分析する中で、「不易流行」というキーワードが浮上した。(念のため、「不易流行」とは、「不易」=不変性・一貫性、「流行」=変化・新しいこと、という一見矛盾することを両立すべき、という松尾芭蕉の教えである)。

(1)「不易」としての「湘南」
「砂まじりの茅ヶ崎/人も波も消えて」で始まるデビュー作*2「勝手にシンドバッド」には、その後、一貫してSASの曲に使用されるキーワードが登場する。それは、「茅ヶ崎」「湘南」「江ノ島」という固有名詞、「波」「夏」「涙」*3という一般名詞。これらのことばは、30年間にわたり、曲のタイトルや詞の中に繰り返し登場する。それは、マンネリとも言えそうなくらい徹底した不変のテーマであり、SASが「湘南サウンド」という確固たるカテゴリーを獲得できたゆえんでもある。

(2)「流行」としてのアレンジ
「勝手にシンドバッド」というタイトルは、当時流行していた沢田研二の「勝手にしやがれ」*4とピンクレディの「渚のシンドバッド」*5を連想させる(というか、そのまんまだ)。この「流行を取り入れる」という方法論は、特にSASの曲のアレンジに顕著に現れる。80年代、サンプリングなどのコンピュータを駆使した音作りが流行れば直ぐにそれを取り入れる。90年代にラップが流行ればそれを取り入れる…。SASは、時代の先端をゆくアレンジで、常に若いファンを引きつけてきた*6。

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SASの人気の秘密の一端は、このような「テーマの不変性」と「新しいアレンジ」の両立という「不易流行」にある。そして実は、音楽業界に限らず、他の業界でも例外的なロングセラーを維持しているブランドを調べてみると、共通して「不易流行」を実践していることに気づく。たとえば…。

・栄養ドリンク市場の50%のシェアを誇る「リポビタンD」。「ファイト一発!」というテレビCMのセリフは、過去30年間、全く変わっていない。「友情・努力・勝利」というテーマのもと、2人の男が力を合わせて危機を乗り切るというストーリーも同じ。ただ、何年かごとに、若いタレントにバトンタッチを繰り返してきた。

・富士フイルムのキャンペーン「お正月を写そう」。「綾小路さゆり」役の樹木希林が、30年以上前から、その時々の共演者と、時代性を感じさせるお正月を描いてきた(今年は、綾小路さゆりがボディビルの着ぐるみを着て、長瀬智也と堀北真希扮する店員の前で「でも、そんなの関係ねぇ!」*7と叫んでいた)。

・1969年に放送が始まったテレビドラマ「水戸黄門」。結末は毎回全くワンパターン*8なのに、飽きられることなく、現在もTBS系列全国ネットのゴールデンタイムで放送されている。実は、現代に通じる社会問題をテーマにするなど、同時代性を感じさせる工夫もある。

単に「不易」なだけでは飽きられる。逆に、「流行」に乗っているだけでは定着しない。激しい競争環境の中で定番の地位を維持し続けるには、「不易」と「流行」の両方が必要である。SASが例外的な成功を収めている理由は、逆に言えば「不易」か「流行」か、どちらか一方しかない音楽が世の中に氾濫していることの象徴でもある。そしてそれは音楽に限ったことではない。

 

*1 2006年9月、31年ぶりに開催された「つま恋コンサート」の来場者の中心は、50歳前後の完全なおじさん・おばさん達だった。
*2 デビュー作には、そのミュージシャンの本質が凝縮していると思う。
*3 これらの言葉は、いずれもなぜか「な」で始まる。また、「TSUNAMI」「真夏の果実」「涙のキッス」など、主要ヒット曲のタイトルにも含まれている。
*4 1977年のヒット曲。ジュリーのまねして帽子を投げる人が続出した。
*5 1978年のヒット曲。その大胆な衣装と振り付けに、少年の目は釘付けになった。「勝手にシンドバッド」は、SASからピンクレディへの「勝手な」アンサーソングである、というのが私の勝手な解釈である。
*6 加山雄三も「海」という、一貫したテーマでロングセラーを続けていたが、SASほどファン層の広がりはなかった。それは、彼のアレンジがいわゆるエレキサウンドから抜け切れなかったからではないか。
*7 このフレーズを知らない人はいないと思いますが、2007年の「ユーキャン新語・流行語大賞」の一つ。
*8 ワンパターンなのは結末だけではない。由美かおるの入浴シーンなど、番組には様々な“お約束”がある。

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