人を動かす「個人の取り組み」「企業の仕組み」 

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今のご時世、気合と根性だけでは人は動かない――。人的資源管理講座の第2回は、企業の目標達成に向け、人を効果的に動かす方法論を、「個人の取り組み」と「企業の仕組み」の両側面から詳説する(本稿は、グロービス・オーガニゼーション・ラーニングが発行するメールマガジン「グロービスNews」の2003年11月18日号に掲載されたものを加筆修正のうえ再掲したものである)。

前回は、企業の目標達成に向け、人を効果的に動かすための基本的視点として「モチベーション」と「インセンティブ」の関係性について概説した。これに続き今回は、人を動かす方法を「個人の取り組み」と「企業の仕組み」という切り口に大別して考える。

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まず、「個人の取り組み」とは、上司が部下を褒めたり、部下の能力や意欲に合致した仕事を与えたりするなど、特定の個人が他者に働きかけ、その人らを効果的に動かすことを指す。一方の「企業の仕組み」とは、新たな評価制度を導入したり、組織形態を変更したりするなど、組織に一定の制度や枠組みを導入することによって、その組織を構成する人々に影響を与え、動かすことを指す。

この「個人の取り組み」は、経営学における「組織行動学」、「企業の仕組み」は「人的資源管理」に該当することを特記したい(図1、「組織行動学」が「人的資源管理」を包含する、より広い概念として使われることもある)。また、「個人の取り組み」と「企業の仕組み」の双方が巧みに絡み合って初めて効率的な戦略の遂行が可能になることも強調しておく。

個人の取り組み=組織行動学によって人を動かす

では、「個人の取り組み」において注視すべき点とは何か。ここでは、「認識」と「行動」を複眼で捉えることの重要性を指摘したい。

一般に、「人を動かす」というと、すぐに何らかの「行動」を起こすことを考えがちだが、その前段階として、働きかける相手の特徴や状態、取り巻く環境などを「認識」しておかなければ、人を効果的に動かすことは難しい。単純な例を挙げれば、人に何かを依頼する際、相手の能力や忙しさ、或いは置かれた立場などを無視して臨めば、断られたり、面従腹背となってうまく実行してもらえなかったりすることは想像に難くない。逆に相手の状況を正しく認識できていれば、そこで打つべき手が何か、どのように依頼すれば良いかが、具体的に検討可能となる。

状況の正確な認識を基盤にした、ここでの「行動」は、なんらか人に影響を与え、アクションを引き起こすものでなければいけない。この行動の特性を示すのが、いわゆる「リーダーシップ」だ。

リーダーシップには、様々なスタイルがあり、そのスタイルに絶対的な良し悪しは存在しない。あるべきリーダーシップは状況によって異なり、とある状況下で効果的に人を動かしたリーダーシップ・スタイルが、別な状況下でも機能するとは限らないからである。

ここでは「命令型」と「権限委譲型」という二つのリーダーシップ・スタイルを例に考えてみよう。

仮に、動いて欲しい相手が、その仕事を初めて行うのであれば、おそらく、具体的な指示を出す命令型のリーダーシップが機能しやすいだろうし、既に熟練しているのであれば、ゴールや方針だけを伝えて後は個人の裁量に任せる権限委譲型のリーダーシップのほうが、より良い成果を得られそうだ。

あるべきリーダーシップのスタイルは、外部環境の変化とも連環する。例えば、経済が右肩上がりに成長し、大量生産が求められた時代には、多くの従業員が計画に基づき、決められたことを正確かつ効率的に行うことが求められた。ここでは、個人の裁量を認めるよりも、命令によって人を動かすことの方が効果的だったといえる。ところが、需要が多様化するなど、変化の激しい今日では、大きな流れとしての将来予測は難しく、現場の個別判断による柔軟な対応が競争優位を決している。このため、権限委譲型のリーダーシップのほうが重要視させるようになっている、という具合である。

繰り返しとなるが、戦略遂行に向けて人を効果的に動かすために求められる「行動」は、このように働きかける相手の状況や外部環境によって変わってくる。だからこそ事前に、状況を適切に「認識」することが肝要となる。

企業の仕組み=人的資源管理によって人を動かす

「個人の取り組み」と双璧を成す、「企業の仕組み」としての「人的資源管理」は、「HR(Human Resource)ポリシー」「組織構造」「HRシステム」「組織文化」の主に四つの要素から構成され、「HRシステム」は更に、「人員配置」「能力開発」「報償」「評価」に分類できる(図2)。

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これらの要素は、いずれも経営理念に基づくビジョン実現に向け、戦略を効率的に実行していくための「ツール」と捉えられる。即ち、これらのツールによって組織の構成員を一定の方向に動かしていくわけである。

では、「(企業の)仕組み」によって人を動かすとは、具体的にどのようなことを指すのか。

例を挙げて説明しよう。A社は当初、売り上げに基づく評価制度を導入しており、営業部員は自身の評価を上げるため、強力なプッシュセールスを実施していた。結果として、顧客から「売上至上主義」との批判を浴びるようになってしまう。そこで同社は、評価制度の改訂に着手。新たに利益に基づく評価制度を導入したところ、営業担当者は、これまでの売り上げ一辺倒の行動を改め、顧客のリピート率を高めるようなサービスに注力するように変化していった・・・。

これは、評価の仕組みが営業部員の行動に影響を与え得ることを端的に示した例である。

ここで失念してはならないのは、こうした仕組みを活用する目的だ。仕組み導入の目的は、あくまで企業の戦略を効果的に実行することであり、そこからズレが生じないよう留意する必要がある。

例えば、A社の場合は当初、市場が急速に拡大しており、シェアを上げることが全社戦略上、重要な課題であったため、売り上げによる評価制度が選択されていた。つまり、この時点で戦略と評価制度は整合していたのである。しかし市場の成熟に従い、シェア拡大よりも既存顧客の長期的な維持のほうが戦略上、より重要視されるようになってきた。売上至上主義との顧客の批判も、実際には市場変化に伴い顕在化してきたものである。つまり、A社が売り上げを基本とした評価制度を、利益を基本とした評価制度に改訂したのは、顧客の批判を受けて行った安易な打ち手ではなく、環境変化に伴う戦略の変更と同期したものであった。

このように、「企業の仕組み」が戦略の効果的な実行を促すためには、仕組みと戦略の整合性が重要であることを、是非、念頭に置いていただきたい。
なお、ここでは分かりやすく身近な例として評価制度を取り上げたが、このように施策と結果が1対1に呼応するものだけではなく、「仕組み」によって人を動かすとは、上述の「人的資源管理」を構成する各要素を高度に組み合わせて人々の行動に影響を与え、一定に方向に導くことを指す。これを機会に読者の皆さんも、自社の人的資源管理に関わる仕組みについて、「それが人の行動にどう影響しているか」「その影響が戦略の実行上、好ましいものなのか」「それらが相互にどのように連環し、機能しているか」といった視点で見直してみていただきたい。

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