旭山動物園(2)…シナジーという幻想 

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本文を読み進める前に、ちょっと考えてみてほしい。あなたが経営不振に陥っている動物園の経営者だとして、建て直しの策としてどんなことを思いつきますか?(ヒント:売上=ユニーク来園者数*1×来園頻度×客単価)

・・・せっかちなあなた、まだ先を読まないで、最低1分は考えてみましょう。

たとえば、動物園に遊園地を併設するというアイデアはどうだろう。ジェットコースターや観覧車などの遊戯施設は、新しいセグメントの顧客を誘引して「来園者数」を増加させ、しかも「客単価」アップにつながる。遊園地という付加価値によって、動物園全体の魅力もアップし「来園頻度」も上がるだろう・・・どうでしょう?堅実な戦略だと思いませんか?実はこれ、旭山動物園が実際に採用したアイデアなのです。

1967年に開園した旭山動物園は、初年度に45万8000人が来園し、来園者数はその後も徐々に伸びたが、80年代に入って伸びが鈍化しはじめた。来園者と収入を増やすためのてこ入れ策として、83年、観覧車やメリー・ゴー・ラウンドなど10数種のアトラクションが設置され、大きな期待とともに旭山動物園の遊園地は営業を開始した。動物園と遊園地のシナジー効果で、成功は確実かと思われた・・・。

以下のグラフは、遊園地が設置された後の来園者数の推移である。皮肉にも、遊園地が設置された83年を境に、来園者が減り続けたことが見てとれる。遊園地の設置が、期待とは裏腹に客足を遠のかせる一因になったのである。これは一体なぜだろうか?旭川動物園の特殊事情によるものなのだろうか?それとも、この手のいわゆる「経営の多角化」がはらむ共通の構造的問題があるのだろうか?

旭山動物園入園者推移

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私の経験則によれば、旭山動物園のように、経営の多角化が、結果として経営の衰退を招くケースは実に多い。たとえば、ユニクロを展開するファーストリテイリングの野菜事業*2 、夕張市のテーマパーク事業*3 、ダイムラー(高級車事業)のクライスラー(大衆車事業)買収*4 などなど。

多角化がうまくいかない理由を説明するために、分かりやすい事例として、とある鰻屋の多角化戦略を考えてみよう。鰻屋が、売上を伸ばすために寿司もメニューに加えることにした。顧客にとっては選択の幅が広がり、良さそうにも見えるが、どんな問題が発生するのか。

(1)専門イメージの低下
「鰻」と「寿司」を両方出す店と、「鰻」専門店と、あなたはどちらの店で鰻を食べたいですか?単機能の方が、専門性イメージが高く、その分野では優れているように思える。鰻&寿司店が受けるのは、「鰻と寿司を同時に食べたい!」という特殊なニーズを持つ人にだけだ。

(2)マネジメントの煩雑化
鰻のような焼き物と、寿司のような生ものを同時に管理するのは難しい。また、鰻の仕入れに優れた店が、マグロの目利きができるとは限らない。多角化すると、慣れない仕事が増え、マネジメントの難易度が上がる。

(3)競争環境の激化
以前は近所の鰻屋とだけ競争すればよかった鰻屋が、多角化以降は、寿司屋との競争にもさらされることになる。「多角化」は、自己本位の用語であり、大局的に見れば競争相手を増やすことになる。

動物園を併設した旭山動物園の多角化と、上記の鰻屋の多角化とは本質的に違いはない。論理的には、多角化はうまくゆきにくい戦略である。ではなぜ、成功確率が小さいにも関わらず、世の中にこんなに多角化事例が多いのか。それは、コンサルティング会社や証券会社にとって「多角化」が商売になるからである。「多角化して事業間のシナジーを創出しましょう」「事業規模拡大のために多角化しましょう」などの一見理にかなった美辞麗句や、「おたくの競争相手は、○○社を買収するらしいですよ」などの半ば脅し文句で、彼らは企業や事業の買収を持ちかける。結果として、買った会社や事業はお荷物になり、儲かったのはコンサルティング会社や証券会社だけ、という事態になる・・・。

私が旭山動物園を訪れた2007年10月13日も、「ほっきょくぐま館」には長蛇の列ができる一方で、遊園地は閑散としていた。7歳になる私の娘は遊園地を思う存分楽しんだが、それは、どのライドも待ち時間がなく(待ち時間があったのはライドの方)、まるで貸し切りの遊園地のように感じられたことによる。そして、奇しくも私たちが訪問した翌々日の10月15日、旭山動物園は、遊園地を廃止し本業に専念することを発表した。旭山動物園もまた、その華々しいサクセスストーリーの影で、「シナジーという幻想」に高い授業料を払っていたのである。

 

*1 延べではなく、来園した個人の数の総和。決して、ユニークな(面白い)来園者のことではないです。
*2 2002年、ファーストリテイリングは子会社エフアール・フーズを設立、永田農法の青果を通信販売する「SKIP」ブランドを立ち上げたが、2004年に撤退
*3 2007年、夕張市は実質上の経営破綻により、財政再建団体に認定された。かつて
炭鉱の町として栄え、また特産の「夕張メロン」により全国に名を馳せたが、炭鉱閉鎖後の「石炭の歴史村」「夕張めろん城」といったテーマパーク事業への展開が裏目となり、破綻に至った
*4 1998年、独ダイムラー・ベンツ・アーゲー社は米クライスラー・コーポレーション社を(実質上の)吸収合併、ダイムラー・クライスラー社が生まれたが、2007年、同社はクライスラー部門を米サーベラス・キャピタル・マネジメント社に売却。ダイムラー・クライスラー社は、ダイムラー・アーゲーに社名を変更した

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