旭山動物園(1)…顧客本位の罠 

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2007年9月16日、自由民主党総裁選挙の所見発表演説会で麻生太郎候補は、地方自治体が自力で活路を開いた成功例として「旭山動物園*1」を挙げた。恐らく、総理大臣候補が言及した初めての動物園であろう。

旭山動物園は、北海道旭川市にある、月間来園者数が日本一になったことで有名な動物園である。珍しい動物がいるわけでもなく、予算が潤沢にあるわけでなく、しかも、かなり不利な立地にある(冬場、最低気温がマイナス20度になる極寒の地の動物園にあなたは行きたいですか?でもここは、冬場もコンスタントに来園者があるのです!)。そんな、一見地方のありふれた小さな動物園の人気の秘密は何か。それをつきとめるべく、前々から気になっていた旭山動物園に行ってきました。

折しも私が訪問した10月13日、旭川では初雪が降り、真冬の東京並みの寒さとなった。近代的な展示舎に様々な動物がいるモダンな動物園を勝手に思い描いていた私は、到着するなり、肩透かしをくらった。園内には、何やらひなびた檻や獣舎が点在している。パネル類は手作りで、風雪にさらされたまま。そしてそれらは、明らかにお金がかかってない(心はこもっているが)。手書きの案内版に従い、まずは「ほっきょくぐま館」に向かう。

「ほっきょくぐま館」:水面がちょうど目線の高さの水槽越しに白クマが歩いている。白クマは、岩場からこちらをめがけて飛び込んでくる。陸上では、自分の巨体をもてあましぎみの白クマも、水の中では重力から開放され敏捷に動く。後ろ足で舵を取りながら自由に泳ぐ。水中で白い毛が揺れる。私の目の前まで近寄ってきて、さっと向きを変えた(なぜこんな都合よく観客の方に向かってくるかというと、陸上の白クマからは、観客の頭が好物のアザラシのように見えるからだという)。

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「ペンギン館」:ペンギンとこちらをさえぎるものは腰の高さの柵しかなく、私のすぐ目の前にキングペンギンがたたずんでいる。時折、ペタペタと不器用に歩く(冬場には、運動不足解消のため、ペンギンたちが園内をパレードするという。そのペンギン見たさに、マイナス20度の真冬でも来園者が殺到するとのこと)。館内の水中トンネルを通ると、ペンギンがすごいスピードで頭上を横切る。まさに空を飛んでいるように。ペンギンも鳥の仲間であることを再認識する。

ほかにも、円柱水槽をこちらを見ながら通り過ぎるアザラシや、来園者の頭上のロープを悠々と渡るオランウータンの親子を見ることができる(しかも、オランウータン舎には檻がない)。ついでに言えば、チャンティーという名の犬もいる(犬も動物なのに、犬のいる動物園は初めてだ)。旭山動物園にいる動物自体は珍しくないのに、どの動物も新鮮に映る。その理由を考えながら見学を続けるうち、あることに気づいた。

「この動物園では、観る側と観られる側の立場が逆転している!」

枠にはめられた動物を人間が観るのではなく、枠に嵌められた人間を、自由に動きながら動物が観る。そして、その動物の様子を枠の中から人間が観る。そんな構造がこの動物園にはある。

小菅正夫園長は語る。「旭山動物園ではすべての動物に対して環境エンリッチメントを施し、彼ら(動物たち)が少しでも楽しく暮らしてくれるようにしてきました。すると、彼らの行動に変化が出たのです。何にでも興味を持ち、自らの意志で動き、いきいきとした活動が見えるようになったのです。」*2。

動物園において、動物は「従業員」である。ディズニーランドのミッキーやミニーと同じ立場である。飼育係も従業員であることに間違いないが、彼らはいわば従業員のサポートスタッフである。園長のコメントから分かるように、旭山動物園は、顧客視点ではなく、従業員の視点に立って運営されている。そして、ここに旭山動物園が例外的な成功を遂げた秘密がある。逆に言えば、これまでの動物園は、顧客満足を意識するあまり、肝心の従業員に犠牲を強いてきたのではないか。かつて「動物園の動物はかわいそう」と感じた、子供の頃の私の直感は正しかったと確信した。

世の中のマーケティング書の多くは、「顧客本位」をうたっているが、行きすぎた顧客至上主義は従業員の疲へいにつながる。企業はまず、「顧客本位」である前に「従業員本位」であるべきではないか。従業員を大切にして初めて真の顧客満足は実現できる(例えばラーメン屋でも店員が活き活きと働いている店は、例外なくおいしい!)。そんなことに気づかせてくれた旭山動物園の動物たちでした。

 

*1旭川市旭山動物園は、北海道旭川市に立地する市営動物園。1967年開園。1980年代半ばから入園者数が減少し、1996年には年間の入園者数が26万人と底を打ったが、その後、行動展示と呼ぶ展示形態に転換したことで人気を博し、2006年度には年間の入園者数300万人超を達成した。行動展示とは、動物の行動や生活を見せる展示形態であり、従来の日本の動物園において主流であった動物の姿かたちを見せる形態展示と対照を為す。
*2旭山動物園ホームページ「園長室」のコラム「行動展示」より引用。

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