人と組織のマネジメントがなぜ必要か 

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企業が戦略を効果的に実行していくためには、“人”という経営資源をいかに動かしていくかが重要となる。人的資源管理に関する講座の第1回は、人と組織のマネジメントについて、どのような手法があるのかを説明する。(本稿は、グロービスのメールマガジン「グロービスNews」の2003年10月22日号に掲載されたものを加筆修正し再掲したものである)

戦略を実行するにはヒトを動かすことが不可欠

まずは、人や組織のマネジメントがなぜ必要なのかを考えてみたい。

日本企業の経営者としては、松下電器産業・先代社長の中村邦夫氏が注目を集めている。その最大の理由は、さまざまなメディアで取り上げられているとおり、2000年6月に社長に就任後、「創生21計画」という改革プランを実行し、2001年度には4000億円以上の赤字であった同社を2005年度には1000億円以上の黒字決算にまで回復させたことである。

彼の改革が成功を収めた理由には、まず「創生21計画」で打ち出された内容が、松下電器が当時の電機業界の競争で勝者となるために適切であったことが挙げられる。戦略の方向性が正しかったのだ。しかし、実はこれだけでは十分とはいえない。

同計画の内容をもう少し詳細に見ると、「超・製造業」と呼ばれる工場の生産システムの見直し、「垂直立ち上げ」と言われる製品発売の迅速化など、同社の製造や流通、販売に関わる人間が一丸となって動かなければ達成できないものだった。つまり、同社の戦略は、実行に移すための適切な人材管理がベースとして必要不可欠であった。

では、戦略の実行のためには何が必要だろうか――。それは、関係する人々に企業の目指す方向へ実際に動いてもらうことである。頭で理解したことを実際の行動に移して初めて、戦略は効果を発揮するのだ。

「わかっていながらなかなか実行できない」という話は、日常業務の中でもよくあることだ。これを解決できるどうかかが、企業の業績に大きな差をもたらす。

人と組織のマネジメントとは、様々な外部環境要因を認識した上で、経営理念とビジョンの実現へ向けて戦略を効果的に実行していくために「企業が求める方向に人をいかに動かしていったらよいか」を考えることに他ならない。戦略立案も実行も、どちらかが欠けると企業は組織としての目標を達成することができない。そのことを、日頃から十分に意識しておくことが大切だ。

人を動かすための燃料はモチベーションとインセンティブ

では、どうすれば、人は動いてくれるのだろうか。まずは、人の行動メカニズムという視点から、モチベーションとインセンティブについて考えてみよう。

そもそも、「自分はなぜ働いているのか」自問してみてほしい。お金を得たい、社会的地位を得たい、楽しく働きたい、あるいは、自分の力を伸ばしたい――というように多岐に渡る内容の動機が出てくるだろう。それぞれの項目が、モチベーションと呼ばれるものだ。

次に、「自分はなぜ、今の会社で働いているのか」を考えてみる。期待する水準の給与や賞与をもらえる、有名な会社である、やりたい仕事ができる、仕事を通じて実力がつく――。おそらく、今の会社で働くことによって、自分のモチベーションを満たすものが得られていることに気づくはずだ。このように、金銭的なものに限らず、広くモチベーションを満たすために企業が与えるものを、インセンティブと呼ぶ。そして、個人のモチベーションに合致したインセンティブを与えることで、人は働こうという意欲を持ち、企業は人という経営資源を動かすことができるのだ。

これを言い換えると、人には、自分のモチベーションを満たすインセンティブがあると、それを得るために行動するという、いわば行動のメカニズム(法則性)があることがわかる。したがって、経営者や管理者、あるいは組織の一員として、他者を動かそうとする場合は、動いて欲しい人のモチベーションがどこにあるのか把握した上で、それを満たすために組織が提供できるインセンティブを明確にしていくことが重要となる。

インセンティブを与える際には個人差や事業のコストを勘案して

ここで、インセンティブを与えるに際して、注意しておきたいポイントが、二つある。

ひとつは、与えるインセンティブが、個人のモチベーションを満たすだけでなく、組織の要求も満たすものとなっているかをチェックすることだ。例えば、いくら個人が高い給与を望んでも、事業への貢献度以上の給与を与え続けることは、会社にとってマイナスにしかならない。同様に、個人がやりたい仕事であっても、会社として重要性の低い仕事であれば、それを優先的にやらせることは無駄になる。

期待できる事業への貢献度とコストのバランスを勘案し、個人の意欲が最大限引き出される給与を設定し、個人がやりたい仕事と会社にとって必要な仕事とのマッチングを考えて業務を配分するといった工夫ができれば、企業の目標実現のためにより効果的に人を動かすことができる。このように、インセンティブを与えるときには、企業が目指すべき方向との整合性を常に考えておくことが不可欠だ。

もうひとつの注意点は、モチベーションは人によりけりだということ。さらに言えば、タイミングによっても異なるという点だ。
人には、意思や感情や能力がある。これらは、“モノ”や“カネ”といった他の経営資源にはない特徴だ。これらはモチベーションに大きな影響を与える要素であるため、人のモチベーションも千差万別となり、タイミングによっても異なる。したがって、インセンティブを与えるときには、異なるモチベーションに対し個々に対応するか、あるいは組織全体でみて最も多数を占める内容のモチベーションを優先して対応するなどして、その効果を最大化することが必要だ。同時に、インセンティブの内容を適宜見直すことも求められる。

ここで、冒頭の松下電器の例に戻ってみよう。ともすれば強引とも言われる中村改革への従業員の受け止め方は、一様ではなかっただろう。ただし、総じて言えば、従来に比べてやる気を起こした人が多く出てきた結果、改革が大きく進んだと考えられる。

では、このやる気はどうやって生まれたのだろうか。例えば中村氏は、マーケティング部では意志決定をそれまでと比べてフラット化したことで知られる。30歳代の若い社員の意見が、本部長に連絡し、すぐさま役員の耳に届くような意志決定プロセスを敷いた。また、ベテランの社員のためには「パナソニック・スピンアップ・ファンド」と呼ばれるベンチャー起業支援制度を導入。経営に関する研修や実践を積んだ上で、企画を事業化し、経営の醍醐味を味わってもらった。

このように、モチベーションとインセンティブは、人の行動を理解し、組織目標へ向け人を動かすために理解すべき、極めて有効な概念だと言える。

次回は、人を動かすための具体的方法を、「個人の取り組み」と「組織の取り組み」の二つの面から解説する。

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