自動車業界再編に見るM&A成功の法則 中編 

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前回に引き続き、2000年前後に盛んになった自動車業界の再編劇を例に、M&A(企業の合併・統合)成功の法則を検討する。

1998年、独ダイムラー社による米クライスラー社買収に端を発した自動車業界の大掛かりな再編劇。前回は、この根拠となった「400万台クラブ」説を例に引きながら、M&Aを推進する企業の狙いに迫った。即ち、「規模を生かして、コスト削減し、そこから産み出されるキャッシュで更に強力なR&D投資を行い、世界的な地位を磐石にする」という戦略である。

一見、しごく真っ当に見えるこの戦略は、400万台クラブ説に乗った合従連衡の結果から見ると、販売台数の面でも企業価値向上の面でも机上の試算通りに進まなかったことは明白だ。なぜか。

再編前後の各社の動きからは、主に以下3つの(M&Aに係る)教訓が読み取れる。
1)同じ業界と言えどもノウハウのない不慣れな事業の買収は要注意
2)コスト削減期待よりも統合コストによる短期的負担を考えよ
3)ブランドアイデンティティと製品の独立性との関係を軽視するな

以下に事例を挙げながら詳説していこう。

同じ業界内でも、ノウハウのない不慣れな事業の買収は要注意<独BMW社の失敗>

現在、世界的に見て最も安定的に利益成長を続けている自動車会社の一つが独BMW社である。BMWは、元々優れた戦略のみを打ち出し、規模化に走った各社とは一線を画してきたのか。

実は同社にも、手痛い失敗はあった。BMWは、世界的な自動車再編が始まる数年前となる1994年、規模拡大を狙うには大衆車市場への参入も必要との狙いから、当時経営不振に陥っていた英ローバー社を買収。その結果として、大手各社が規模化に向かった2000年には、大幅な赤字に見舞われていたのである。BMWは結局、ローバーを地元の投資家にわずか2000円程度で売却、社長も引責辞任する事態に追い込まれた。

ローバー買収が不発に終わった理由の一つは、既存事業とのシナジーの少なさであった。まずそもそも、大衆車のローバーと高級車のBMWでは顧客層に接点が少なく、マーケティングや販売面での共有化・効率化がほとんどできなかった。

また車体構造も、BMWが車体前部にエンジンを配置し、プロペラシャフトを介して後輪を回転させる「FR(フロント・エンジン・リア・ドライブ方式)」を採用しているのに対し、ローバーは前輪を駆動させる「FF(フロント・エンジン・フロント・ドライブ方式)」を採っており、開発や生産コストの効率化といった製造面でのシナジーも出づらかった。

「同じ“自動車メーカー”であっても、市場や製品に関する取り組みの方向性やノウハウが大きく異なる企業との合併は規模化によるメリットを享受しづらい」。BMWは、M&A戦略を進める際に軽視してはならぬ大きな教訓を学び取り、それ以降は、規模のみをひたすらに追う企業買収からは距離を置いてきた。

そしてその後、この教訓を活かし、「高級小型車のMINI」と「超高級車のロールスロイス」という、いずれも「BMW」と同じプレミアムセグメントのブランドをラインアップに追加。共通するセグメントの顧客に的を絞り、その収入やライフスタイルの変化に合わせて既存のBMWとは異なるアイデンティティを持つ新たな製品を提案、確実に利益を取っていくという、成功の方程式を不動にものにした。

コスト削減期待よりも統合コストによる短期的負担を考えよ。<GM・フィアットの蹉跌>

物理的な数値としては表れづらい、企業と企業の文化をすり合わせるための「統合コスト」の軽視もM&Aの成否を分ける要因の1つである。この統合コストの大きさを見誤ったのが、米GM社と伊フィアット社の事例だろう。
元来、GMのM&Aは、「おっとり型」或いは「大旦那さん型」だった。米国国内でM&A繰り返しながら事業規模を拡大してきた企業であるため、M&Aへの見識は高く、海外でも古くは独アダムオペル社の買収、いすゞへの資本参加などをし、一定の成功を収めてきた。オペルは、競合厳しい欧州市場で常に上位争いをしているし、いすゞは「GMがいなかったら、今の世界企業としてのいすゞはなく、日本に閉じたローカル企業であっただろう」と同社幹部に言わしめる結果を出している。基本的には経営は現地に任せ、必要な部分だけをGMが手助けをするという、理想的な大株主の像を為していたのである。

そんなGMが2000年に出資したのがフィアットであった。狙いは、GMの欧州での最大拠点、オペルとの車台共通化などによるコスト削減。従来の「経営は現地に任せる」という基本姿勢を変え、「オペルとフィアットを統合すれば、独フォルクスワーゲン社を抜いて欧州NO.1メーカーになり、コスト戦略上も優位に立つ」という絵を描いたのである。しかし、この提携は設計図通りには行かなかった。

本来的には「おっとり型」のGMに加え、提携先のフィアット社も、元々、国営企業であったことから、基本的には「おっとり」。加えてイタリア最大の財閥であり、プライドも高かった。

GMは、車台統合について、基本的にはテーブルにつかせた後は、フィアットとオペルの両当事者の合意に任せていたが、両社の性質が災いして、なかなか話は前に進まない。そうこうするうちに、GMが資本参加後のフィアット社の業績は、「GMがバックにいる」という緩みもあってか、どんどん悪化していった。労働組合が反対するなかリストラも進まず、最終的には2005年2月にGMがフィアットに約2200億円もの巨額な和解金を支払って、契約を解消するという事態で終焉を迎えたのである。

GMは、当初の設計図に反して、実現には時間コストなどが莫大となることを知り、結果として多額の授業料まで払うことになったのである。

ブランドアイデンティティと製品の独立性との関係を軽視するな<サーブ、アルファロメオらプレミアムブランドの大衆化>

M&Aの成否を占うもう1つの要素が、ブランドアイデンティティへの尊重である。

例えば、「サーブ」「アルファロメオ」「ボルボ」「ジャガー」。これらは販売台数こそ少ないが、いずれも伝統ある素晴らしいブランドとして世界的に認知されている、いわゆるプレミアムブランドである。ところが最近、これらのブランドに影が差し始めている。

実はこれらのブランドは、2000年前後の業界再編時にGM、フォードなどの大手メーカーの傘下に入ったのだが、M&Aから距離を置いたBMW、アウディの快進撃とは間逆に、成長鈍化に喘いでいるのだ。

M&A当初は、各社とも「ブランドの独自性は維持し、不足気味のR&D費用を投入することにより高収益会社に変身させよう」という狙いを持っていた。ところが、R&D投資をしても、なかなか利益面での即効性は出ない。そこでこれらの親会社が考えたのが、車体の共通化だった。

自動車の開発で最もコストがかかるとされるのが車体であることは事実である。だが、大衆車とプレミアムブランドの車体の共通化は、「消費者はブランドや外見に付加価値を見出しているだけであり、車台そのものを理解しているわけではない」という消費者軽視の姿勢に他ならない。本来、ブランドの独自性とは即ち製品の独自性であろうことは誰にでも推測できるはずであるが、そこをこれら親会社は軽んじた。

サーブは航空機会社の伝統を持ち、ユニークなスタイルとコックピットで有名で、日米のヤッピーに大人気になったこともある車である。が、親会社のGMの指示で今は車台からエンジンから多くの部品をオペルと共有化している。つまり現在のサーブは、オペルのスキンを変えただけのスウェーデン・ノックダウン車となってしまったのだ(しかも、一部報道ではドイツ生産に切り替えた方がコストはもっと下がる、という話も出ているという)。

またジャガーは、「猫足」とも表される独特の足回りを持ち、世界中で垂涎の的となっている英国の伝統ある車である。ブランドイメージ的にはメルセデスやBMWに対抗できる価値を持っていることからメーカーは、高級車市場で好調なBMWの3シリーズに対抗するべく、タイプXというジャガーとしての入門車種を企画した。そこへ親会社のフォードが出した判断が、「大衆車のフォードモンデオの車台とエンジンを共有化せよ」であった。これもサーブと同じく、「消費者が欲しいのはブランドとジャガーらしいスタイルだけ」との姿勢を表れであろう。

フィアットの子会社であるアルファロメオに至っては、提携先のGMの指示で車台やエンジンをオペルやサーブと共有化しろとの指示の下、車台を共同開発したが、その後GMとフィアットが契約を破棄したため共同開発相手がいなくなり、結局その開発した車台を使うのは、アルファロメオだけという不遇の事態に見舞われた。しかもエンジンはGM製を使う羽目になり、独自のエンジンを「売り」にしてきたものがGM製の凡庸なエンジンに替わったため、新車が出たばかりであるにも拘わらず、「アルファロメオ本来の官能的エンジンではない」と既に辛口な雑誌の餌食になっている。

プレミアム車の本来の個性やエンジニアリングの独自性を無視し、見えない部分は大衆車と共有化してコスト削減につなげようという、これら親会社の発想はあまりに短絡的だ。この姿勢を消費者がどう受け止めているかは、販売台数の鈍化、そして個々のブランドを尊重する姿勢を見せるBMWの好調ぶりなどを見れば、明白に理解できる。

これらを踏まえ、9月28日掲載予定の最終回では、M&Aはいかにすれば成功に導くことができるのかについて、検討していこう。

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