私たちはみんな同じで、みんな違う ―『異文化理解力』 

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夏休み、海外旅行で羽をのばした方も多いかもしれない。どんな異文化体験があっただろうか。それはあなたの想定の範囲に収まるものだっただろうか。喜怒哀楽、どんな感情とセットで記憶されただろうか。

今回は、「カルチャーマップ」、ビジネスにおいて異文化にどのように対応するかの指針となる強力なツールを紹介したい。フランスとシンガポールに拠点を置くビジネススクールINSEADの客員教授、エリン・メイヤーが本書で提唱しているものだ。私自身、シンガポールでの多国籍クラスに参加する前に出会い、大いに助けられた。グローバルビジネスに関わる人だけではなく、リーダーシップやビジネスコミュニケーションに関心のあるビジネスパーソンにとって、すぐに使えるアイデアが満載だ。

異文化理解力とは、相手の言動の真意を理解し、自分の言動を相手がどう捉えているかを理解すること。育った環境や価値観が異なる人と働くときに、行き違いや誤解を生むことなく、確かな信頼を築き、仕事を前に進める技術、スキルである。カルチャーマップは、著者が10年超の研究、数千人の経営幹部への取材をもとに開発した異文化理解ツール。問題が起きやすいビジネステーマを指標とし、国民文化の違いを可視化してくれている。たとえば、中国人やアメリカ人と仕事をする上で、「自分は相手と、何が、どう違うのか」が一目で分かるようになっている。イメージはエリン・メイヤーのサイトを参照してほしい。

国民特性の研究においては、オランダの社会学者ヘールト・ホフステッドの「国民文化の6次元」が有名だ。また、ホフステッドの研究を発展させたGLOBE調査について耳にしたことのある方も多いだろう。カルチャーマップの新しさ、有用性は、これらを下敷きにしながらも、よりビジネスパーソンに寄り添った切り口を提示――異文化への対応を「コミュニケーション」「リーダーシップ」「意思決定」「信頼関係構築」といった、我々の日々のビジネス体験をそのまま表現した8つのテーマによって整理――してくれていることだ。

グロービス経営大学院が2014年に新科目「異文化マネジメント」を開講するにあたり、先行研究をレビューした際にも、最も重視する実践性という観点でピカイチだった。ビジネスにおける数々の異文化衝突のエピソードについて、それぞれの指標の比較分析から紐解き、抽出される「なるほど!」という背景説明、そういったトラップに陥りがちな人間心理、ギャップが生じやすい指標の組み合わせ、それを防ぐための対処方法をセットで具体的に提示してくれる。今、異文化マネジメントに悩みを抱える方には、即効性のある処方箋が含まれているに違いない。

国民文化を指標化することに対しては、過度なステレオタイプではないかという違和感、「インド人に対してはこう対応しよう」といった単なるハウツー本ではないかという軽率感を抱く方もいるかもしれない。誤解を恐れず表現すると、カルチャーマップが促す観察の目線は、相手よりも自分へと向かうものになっている。8つの切り口、いずれの指標にも共通していえることは、「自分の文化、そこから自然発生的に生まれる自分の感情や言動に対して自覚的であれ」というメッセージだ。異文化マネジメントの世界では、“マインドフル“な状態とも表現される。加えて、「1つ、2つの個別の指標にとらわれないこと」「ある国の指標ではなく、2カ国、3カ国の相対的な指標の距離感に着眼すること」が繰り返し強調されている。

「私たちはみんな同じで、みんな違う」

私が筆者から受け取った最大のメッセージはこれだ。異文化との遭遇に際して、「皆同じ人間じゃないか、話せば分かるはず」といった違いの矮小化に陥らず、かといって「違うから分かり合えるはずがない、めんどうくさい、関わりたくない」と回避するのではなく、「私たちはみんな同じで、みんな違う」と胸を張って言えるように、違いをこそ楽しむ姿勢を持っていたい。昨今、環境変化に応じた組織の生き残り戦略として、ダイバーシティ(多様性)の活用が大きく謳われている。国境に限らず、我々の生活は多様性、異文化に満ちているはずだ。この一冊を片手に、隣の席のあの人とも、マインドフルに関わってみてはどうだろう。

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