女子大生の疑問から見えた6つの本質 ―『先生、イノベーションって何ですか?』 

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本書の著者、伊丹敬之氏は我が国におけるイノベーション論の大家である。これまでにも数々の専門書に加え、比較的読みやすい入門書を著してこられたが、本書はそうした入門書とは一線を画する、まさにイノベーティブな入門書だ。

何がイノベーティブなのかといえば、「イノベーションには縁のなさそうな女子大生5人組と対話や質疑応答をする中で、イノベーションの本質を浮き上がらせる」という極めてユニークかつ難易度の高い取り組みに成功しているからである。内容が薄いのではないかと思われる方もいるかもしれないが、それは杞憂である。むしろ、文章は平易で読みやすいし、当初の狙い通り、ビギナーに分かりやすくエッセンスを伝えるために必要な、豊富な事例や例えの妙が書籍全体を通じて出てくるため、非常に納得感が高い。ビギナーからのピュアな疑問に対して伊丹教授が答える中で、伊丹教授も刺激を受け、頭が整理されるというダイナミズムも感じとることができる。

本書の構成でさらに良い点を挙げると、各章末に「伊丹のひとり言」というタイトルの1000字弱程度のまとめが入っていることである。本文そのものも十分に分かりやすいのだが、このまとめを流し読みするだけでも、本書の内容を復習できるという優れものである。

さて、次に内容面に関して重要と感じたところをいくつか紹介しよう。イノベーションを深く勉強された方にはいまさらという感じもある個所かもしれないが、今後の日本におけるイノベーションの行方を考えたり、たとえばシリコンバレーと日本のITベンチャーの差を確認したりする上では非常に重要なポイントといえよう。

1) イノベーションは優れた技術をベースに、人々の生活や社会を大きく変えるものである
これは当たり前のことかもしれないが、一方で、「人々を幸福にするか?」と問われたらどうだろうか? 本書の中でも遺伝子組み換えの事例などでそうした議論がなされているが、あらゆるイノベーションが本当に人々を幸せにすると言えるだろうか? ここに本書の議論は載せないが、実際にイノベーションを起こす人々にも、イノベーションを享受する立場の人間にもぜひ考えていただきたいポイントである。

2) 蓄積・集積がイノベーションを生む
イノベーションは何もないところからは生まれない。それまでの先人の営みや先行的なチャレンジ、あるいは周りに協力者がいるからこそイノベーションは生まれるのだ。その意味でイノベーションは環境依存、経路依存的である。あなたの周りにはイノベーションが生まれる土壌があるだろうか?

3) イノベーションは文化に左右される
これは2)とも絡む話だが、イノベーションが人間の営みである以上、人間の思考を拘束する文化に影響を受けるのはむしろ当たり前とも言える。「モノ」そのもののイノベーションが多い日本と「システム」のイノベーションの多い米国の差異はそんなところにも由来している。

4) イノベーションに対する抵抗が重要
あらゆるイノベーションが最初から歓迎されるわけではない。むしろ多くのイノベーションは最初は大きな抵抗に会った。しかし、そのことがイノベーションをより洗練されたものにし、また社会に広げるための活動を促したことを忘れてはならない。苦労するからこそ本物が生まれるのだ。

5) ボトルネックがイノベーションを生む
何かボトルネックがあれば、人間はそれを克服しようと知恵を絞る。多くのイノベーションはそうして誕生してきた。一方で、イノベーションを社会に広げるためのボトルネック(例:規制など)はうまく排除していかないと、せっかくのイノベーションの種も社会にインパクトを与えるまでには育たない。

6) イノベーションは一部の人間の特権ではない
もちろん、すべての人間がイノベーションの先頭に立てるわけではないかもしれないが、小さなイノベーションには誰でも貢献できる。「こんなことができたらいいのに」という夢こそがイノベーションには必須である。

企業の競争力、ひいては国の競争力にイノベーション創出力が占める割合は非常に大きいものがある。ましてや、少子高齢化等、課題だらけの日本にとって、それが占める役割はますます大きくなるだろう。イノベーションというもののエッセンスを知り、日本のイノベーションの「土壌」を豊かにする上で、多くの方に読んでほしい1冊だ。

『先生、イノベーションって何ですか?』
伊丹敬之著
1,500円(税込1,620円)

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