イーロンマスクの功績と素顔 

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※ 本記事は湯浅エムレ秀和の個人ブログから転載したものです(初出: 2015年5月28日)

イーロンマスクの功績と素顔に迫る書籍 「Elon Musk: Tesla, Space X, and the quest for the fantastic future」 のあまりの面白さに一気に読んでしまいました。イーロンマスク関連本は数多く出ていますが、こちらは本人協力を得た初の書籍であること、Bloomberg Businessweekの著名ライターであるAshlee Vanceが約3年間の取材を経て執筆したものであることから、発売前からかなり話題になっていました(日本語版は未発売)。

内容はビジネス本というよりかは伝記に近く、イーロンマスクの半生が詳細に記されています。Zip 2、X.com(PayPal)、Tesla、Space X、Solar Cityと数々のスタートアップを生み育ててきた軌跡は、決してメディアで報じられるような「1人の天才による偉業」で片づけられるようなものではなく、超人的なハードワークとビジョンとリーダーシップに支えられて、立ちはだかる数々の壁を1つ1つ越えながら作られたものでした。

イーロンマスクの軌跡

まるで映画のような彼の半生について簡単に纏めてみます。

• 1971年に南アフリカで生まれたイーロンは、悪質なイジメ、劣悪な家庭環境、アパルトヘイトの閉鎖的社会の中で育った。高校卒業後、カナダ国籍の取得と同時に単身でカナダに移住し、自由と希望を求めてシリコンバレーを目指した。

• 1995年、弟とともにZip 2を創業し、最初の3カ月はオフィスに寝泊まりをしながら一日中コードを書いていた。ドブ板営業で1社1社歩いて回って顧客開拓していき、強烈な意思と奴隷労働のようなハードワークで事業を拡大させ、1999年には$307MでCompaqに売却、イーロンは$22Mを手にした。

• Zip2売却直後にX.comを立ち上げ、税引後のほぼ全財産である$12Mを投下。しかし、経営方針の違いから、創業5ヶ月で共同創業者がほとんどの従業員を引き連れて辞任。残った数人のメンバーで再建を果たし、ピーターティール率いるConfinityと激しい競争を繰り広げた。エンジニアは1日20時間働き、イーロンは23時間働き続ける日々を経て、2002年には競合であったConfinityと合併してPayPalに社名変更。

• イーロンがPayPal CEOに就くも、合併後2カ月でピーターティールが辞任。イーロンに対する社内外の反発は大きく、イーロンがハネムーンに飛び立った瞬間にクーデターが勃発し、急いで帰国した時には既にピーターティールがCEOに就任していた。その後、PayPalは成長を続け、2002年にeBayに$1.5Bnで売却。筆頭株主であったイーロンは$250M(税引後 $180M)を得た

4355 Source: http://www.amazon.co.jp/dp/B00KVI76ZS

• 2001年頃から、宇宙事業の勉強会を主催していたイーロンは、PayPal売却とともに$100Mを投じてSpace Xを創業。当初はロシア製のロケットで打ち上げる予定だったが交渉決裂し、自社で製造することを決意。ゼロからのロケット製造は想像以上に難航し、3回の打ち上げに失敗。残り1回分の資金しか残っていなかった

• 2003年、Tesla Motorsにエンジェル投資家として$6.5M出資。それ以降のラウンドでも、リード投資家として$9M、$12Mと大きく出資。しかし、ずさんなコスト管理のまま開発してきたため、$85,000で販売予定だったRoadsterの製造原価は$200,000まで膨れ上がっており、危機的状況に陥っていた。立て直すべく2008年には自らCEOに就任。

• 2000年に結婚し、2002年には男の子が生まれるも生後10週間で突然死(PayPal売却と同じ週だった)。後に5人の男の子に恵まれるも、2008年には離婚。前妻はテレビで号泣したり、個人ブログに心境を綴ったりして、離婚裁判はメディアのネタにされ、イーロンは全米から叩かれた。

• 2008年は、リーマンショック、Space Xの打ち上げ3連続失敗、Tesla Motorsの危機的状況、離婚裁判、の全てが襲いかかってきていた。夜中に無意識のうちに叫び出すほど追いつめられていたが、日中は両社を救うべく前向きに陣頭指揮を取り続けた。

• 2008年、Tesla Motorsはコスト削減を最重要課題に掲げ、鬼のようなコスト削減活動を実施。朝7時からミーティングをして、日々コスト削減状況を報告させた。パフォーマンスが低い人は容赦なく解雇。それでも破産寸前まで追い込まれ、個人の残りの全財産をTesla Motorsに出資することを決意。そのコミットメントを見た投資家からの資金と合わせて$40Mを調達。入金があったのは資金が尽きる前日。2008年のクリスマスイブだった。

• 同じく2008年、Space Xの4回目の打ち上げ実験が成功。しかし資金難は続き、破綻寸前。ギリギリのタイミングで、NASAから$1.6bnのプロジェクトを受注。12/23だった。

• Tesla Motorsは2010年に上場。2012年にModel Sを発表し大量の予約が殺到するも、いざ販売がスタートとするとキャンセルする顧客が続出。工場稼働率は低下し続け、2013年には完全ストップ。イーロンは、全従業員に予約顧客への営業を指示し、同時にGoogleへの売却交渉を開始。キャッシュ残が数週間分というところまで追い込まれたが、全員営業が功を奏して業績回復、Googleへの売却は白紙に。

• Space X、Teslaの経営の傍ら、SolarCity会長として世界最大の自然電力会社に導く。今日では、SolarCityが発電した電力を、Teslaのバッテリーで蓄電し、それをTeslaの車に充電するというサイクルを確立。TeslaとSpace X間での原材料仕入れや製造工程におけるシナジー効果も大きく、イーロンが関わる3社間でのエコシステムを作り上げている

• Tesla Motorsは$5Bnを投じて世界最大のバッテリー工場Gigafactory 1を建設開始。2017年稼働開始を予定しており、2020年のフル稼働時は、2013年の全世界のリチウムイオン電池の生産量を上回る生産量を目指す。(なお、Gigafactory 2建設の噂も出ており、最有力候補地として日本が挙げられている)。

Space Xは、部品の80-90%を自社製造することで圧倒的な低価格を実現。実績が積み上がるにつれて、次々と大型案件を受注。2012年にはISSへのドッキング成功。(2015/5/27には米軍衛生案件への入札承認を取得)。

イーロンマスクはなぜ成功できたのか?

これだけ成し遂げてまだ43歳というのが信じられないぐらいですが、近年の輝かしいニュースとは裏腹に、ここまでの道のりは非常に過酷なものだったことが分かります。難しくて誰も挑戦しないような領域に敢えてオールインで飛び込み、危機のたびにハードワークで乗り越えてきた姿は、ビジネス版のスーパーヒーローと言えるかもしれません。

彼の成功には、(プロダクトでなく)システムレベルのデザイン思考、ビジネスセンスとデザインセンス、多領域における膨大な知識、超人的なハードワーク、度胸、など様々な要因があるのは間違いないですが、最もインパクトが大きいのは「超優秀な人材を惹きつけ、120%の力で働いてもらうリーダーシップスタイル」だと思います。多領域でここまで勝ち続けられるのは、継続的に人を焚きつけ力を引き出す仕組みを持っていたからでしょう。

その仕組みの1つの要素は、人類という種の生存まで立ち返るような壮大なミッションです。イーロンは、人類の生存に欠かせないエネルギーを化石燃料という有限かつ有害なモノに依存していることがリスクである、と唱えています。そのために、Tesla MotorsとSolarCityは自然エネルギー社会の確立を目指しています。また、外部的要因で地球が生存に適さなくなるリスクもあることから、人類は複数惑星での居住しリスクを分散させる必要があり、その実現に向けてSpace Xは宇宙空間における低価格・高頻度の輸送体制の確立を目指しています。

「種の生存」という壮大なミッションの前には、140文字で投稿できるサービスや写真を共有し合うサービスはどうしても霞んでしまうのが人間心理です。優秀な人であればあるほど、大きなミッションに貢献したいという気持ちが強いでしょう。人材獲得競争が激化するシリコンバレーで、Space XやTeslaが、Google、Apple、Facebookなどから次々と優秀エンジニアを引き抜けるのは、そんなミッションに魅力を感じていることも大きな要因だと思います。

一方で、夢物語やハリボテに思われがちな壮大なミッションに現実味を持たせているのが、イーロン自身の異常なまでのハードワークとリスクテイクです。X.com時代は1日23時間働き、今でも2社の経営のため昼夜なく働き続けています。また、売却益で楽な生活をしようという発想は全く無いらしく、売却のたびにほぼ全財産を次のスタートアップにオールインしています。盲目的ともいえるほどにミッション実現に向けて突き進んでいく姿勢が、優秀な人材に伝播するのでしょう。

そして、イーロンはそのハードワークを容赦なく他人にも求めます。例えばSpaceXでは、外部調達では$120,000かかる部品を、$5,000ドルで内製化するよう指示を出しています。プロジェクトの期限も、全てがスムーズにいく前提でスケジュールを組み、その上で全員が超ハードに働く前提でさらに前倒しをして、最終的な期限を決めます。パフォーマンスが低い人は容赦なく解雇し、パフォーマンス高い人は次々と昇進させます。

面白いのは、ハードワークを求めるときに、「○○をやれ!」と命じるのではなく、「○○をやる必要がある。君ならできるか?」と聞くことです。オーナーシップ感覚を持たせることで、その人のやる気に火を付けるのでしょう。

本書を読むと、イーロンの強みが先天的なものではなく、自身の生い立ちや経営者として経験を積む過程で徐々に磨かれたものであることが分かります。幼少期に執拗なイジメに遭い、Zip 2では多くのコアメンバーに逃げられ、PayPalではクーデターを起こされたことからも、当初から人望が厚いわけでは決して無かったことが分かります。彼の歩んできた道筋は死屍累々で、今でも敵は多いでしょう。

それでも、スタートアップによる参入が不可能と思われていた自動車、ロケット、電力業界において全く新しいカタチの事業を立ち上げ、生き残るだけでなく、業界構造を変えてしまうほどの変革を起こしています。もしかしたら、イーロンマスクの最大の功績は、不可能を実現してしまったことで、人類の未知なる可能性を体現していることかもしれません。

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