Uber, Harry’s, BuzzFeedの共通項とは? 

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※  本記事は湯浅エムレ秀和の個人ブログから転載したものです(初出: 2015年4月23日)

Uber、Harry’s、BuzzFeedなど、革新的なアプローチで「リアル産業(≒ネット以外の従来の産業)」を塗り替えていこうとするスタートアップが増えているように感じます。どれも規制が厳しく既得権益が牛耳っている業界にも関わらず、スタートアップが全く新しいモデルを提案し、変革を起こすことに成功しました

今回は、リアル産業の変革を大きく促進すると思われる「フルスタック(Full-stack)スタートアップ」に焦点を当てて、事例を用いながらその実態と特徴をご紹介したいと思います。

フルスタックスタートアップとは?

「フルスタックスタートアップ」はあまり耳慣れない言葉かもしれませんが、直訳すると「全部載せのスタートアップ」という意味であり、顧客体験を最初から最後まで自社で提供するスタートアップを指します。

コンセプト自体は新しいものではありませんが、フルスタックという言葉は、著名VCであるAndreessen HorowitzパートナーのChris Dixonが提唱してからよく使われるようになりました。代表的なフルスタックスタートアップとして挙げられるのは、Uber、airbnb、Tesla、Warby Parker、HomeJoy、Harry’s、Nest、BuzzFeed、Netflixなどです。いくつかを簡単にご紹介します。

Uber: 言わずと知れたタクシー配車アプリ。タクシー配車システムのみならず、ドライバーの選定から乗車後の運賃支払いや評価に至るまで、「A地点からB地点に移動する」という顧客体験に関するすべてのプロセスをUberが管理している。

Harry’s: ヒゲソリを中心とした男性用洗面用品の月額課金サービス。ヒゲソリの販売だけなく、自社工場での製造や、自社店舗での販売も行う。商品開発から接客まで顧客に触れる部分はすべて内製化している。

BuzzFeed: 爆発的に成長しているバイラルメディア。SNSを使った記事の拡散だけでなく、ジャーナリストを自社で抱え、取材や記事制作も行う。さらには、広告の営業や制作も内製化しており、収益化を実現している。

日本にも様々な例がありますが、ユーザベースが展開するNewsPicksがこの1つだと言えます。コンテンツ制作チームを内製化し、自社アプリで配信し、月額課金・ネイティブ広告などのマネタイズ施策も自社で行っています。NewsPicks内に非常に濃いコミュニティが形成されているのも、自社で顧客体験の全てを管理しているからこそ成せる技だと思います。

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通常のスタートアップとは何が違うのか?

通常のスタートアップは、自社が得意とするテクノロジー部分に特化する傾向があります。上記の例で言えば、「タクシー配車システムの開発と販売に専念する」「厳選された男性用化粧品をウェブサイトで月額販売する」「バズらせてトラフィックを集めて広告を貼って儲ける」といったアプローチになります。

もちろん、このようなアプローチでも良いと思いますし、むしろ世の中の大半のスタートアップがそうしていると思います。得意分野にフォーカスして身軽な方がスケールもしやすいので、VCからの資金も集めやすいでしょう。

一方で、フルスタックスタートアップには大きく3つのメリットがあります。

1. 他社の動向や思惑に依存せず、自社が設計する最適な顧客体験を提供できる。
2. 既存勢力との事業提携が不要なので、速く展開することができる。
3. 外部への流出がないため、より大きな経済価値を捉えることができる。

ちなみに、フルスタックは垂直統合に似ていますが、目的と方法において全く異なるものだと考えています。従来の垂直統合の主な目的は、コストダウンです。技術開発、生産、販売までを1社が手掛けることで、取引コストを最小化し、コスト低減を目指します。一方で、フルスタックの主な目的は、顧客体験の向上です。そのためには、従来のモデルを捨てて、ゼロベースで全く新しいモデルを築きます。

カミソリ業界を根底から変えた「Harry’s」

Harry’sを例にさらに深堀ります。

カミソリは、差別化が難しい商品です。そこで従来のカミソリメーカーは、新商品を開発するたびにマス広告を投下し、流通販路を独占的に押さえて、高価な新商品を売り続ける方法を見出しました。その結果が、「ジレット フュージョン プログライド フレックスボール パワー」や「シック ハイドロ5 パワーセレクト」です。もちろんこれらは以前のバージョンより改良されているのでしょうが、高価な値段に見合うものなのか顧客は分かりません。お店のカミソリコーナーに並ぶ多彩な商品を前にして呆然としたのは私だけでは無いはずです。

Harry’sは、カミソリの本来の価値(=ひげを剃って肌を綺麗にする)に立ち返り、それを最も効果的に実現する方法を模索しました。そして、「安くて、高品質なカミソリが、いつでも手元にある」という顧客体験を中心にビジネスモデルをゼロから設計しました

まず、商品ラインアップを安価版と高級版の2種類に絞り込みました。そして高品質のカミソリを生産するため、ドイツの老舗カミソリ工場を約100億円かけて買収しました。マス広告での宣伝は一切せず、小売店にも置かず、その代わりにウェブで直接販売することにしました。さらには替刃を買う手間も省くため、使用頻度に応じて自動的に替刃が届くようにしました。

Harry’sの提供する顧客体験に惹かれる顧客は多く、新規参入が不可能と思われたカミソリ業界において大きく伸びています。今後は、このモデルを横展開して様々な男性化粧品を販売していくと予想されます。

ちなみに、世界で最も成功しているフルスタックスタートアップはAppleでしょう。ハードウェアから、OSから、アプリ生態系まで自社で設計した「顧客体験」を提供することで、デジタルコンテンツの消費方法をガラッと変えました。そして今は世界最大の企業になっています。

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リアル産業の変革を促進するのはフルスタックスタートアップ

インターネットを始めとするテクロノジーは、「IT企業」や「インターネット業界」という垣根を越えて、今後ますます「リアル産業」に浸透していくでしょう。不動産、金融、建設、農業、流通、小売、製造業など、まだまだテクノロジーが本格的に浸透していない業界は多々あります。

そして、それらのリアル業界の変革を率いるのは、フルスタックスタートアップだと考えています。新しいテクノロジーは多くの場合、リアル業界にそのままプラグインすることができず、抵抗勢力も大きいと予想されるためです。そのためには、フルスタックスタートアップのように、自社で完結できるようなビジネスモデルが有利だと思います。

もちろん、言うは易し行うは難しです。フルスタックスタートアップは必要資金も大きいですし、ハード、ソフト、サプライチェーン、マーケティング、営業、法順守などなど、内製化する要素が大きく、難易度が高い事業だと思います。しかし、成功したときのインパクトが経済的にも社会的にも巨大なだけに、今後も注目していきたいと思うビジネスモデルです。

※  湯浅エムレ秀和の個人ブログはこちら

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