2020年の口コミマーケティング 

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今回は、2020年あるいはそれ以降の近未来を前提に、口コミマーケティングがどう変わるか、多少の想像も加えて考えてみましょう。

2020年に向けての大きな変化

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SMACS+AIのフレームワークも踏まえ、2020年頃の生活に大きな影響を与える変化を以下のように予想してみました。

(1)IoTが進化し、様々な場所、場面でセンサーを活用したモニタリングとコントロールが行われている

(2)音声認識や画像認識の技術がさらに進み、モバイルのインターフェイスなども現在とは違う形になっている

(3)ビッグデータ解析や人工知能の進化はさらに進み、ある程度人間に近い創作活動が行えるようになっている

(4)モバイルがより身近になりOtoO(オンライン・トゥ・オフライン)の動きが当たり前になっている

今回は、これらを個別に解説するのではなく、ストーリー仕立てで、その頃の人々の生活がどう変わるか描いてみましょう(もちろん、この世界観が2020年までに実現すると断言できるわけではないのですが、遠からぬ将来、こうした生活は実現していくでしょう)。

2020年のある風景――ある家庭の風呂場・脱衣所にて

2020年、人々の生活は大きく変わっていた。つい数年前までは、自分でスーパーやコンビニエンスストアに行って生活雑貨を買うのが普通であったが、最近はそのうち多くのものが宅配でデリバリーされるようになっていた。また、品切れを起こしそうな品についてはセンサーがそれを予め察知してオーダーするため、「買い置きがなくなっていた!」という事態は起こりにくくなっていた。

たとえば風呂場と脱衣所を見てみよう。今では洗剤や柔軟剤、シャンプー、コンディショナーといったものの容量が減ってきたら、それを洗濯機などに設置されたセンサーが感知し、自動的にいつも使っている通販サイトに発注を行う。設定によってどのくらいの容量になったらオーダーするかは自分が決めることができる。配送は、ネットのショップから送られてくることもあれば、近所の小売店から送られてくることもある。最近では、小売店は「売り場」という機能だけでは成立せず、「ものを直に見る」という機能を打ち出している。そしてメーカーや他の小売りとの連携を進め、倉庫・配送の役割も担っているのだ。すでに数年前には、家電や書籍などで「店頭では商品を見まわったりそれに触れたりするだけで、実際に買うのはネットで」という動きは起こっていたが、いまやそうした動きはあらゆる商材に波及している。

場面を風呂場、脱衣所に戻そう。もちろん、消費者は常に同じ商品を使い続けなければならないということもない。たとえば、30代のある男性が、頭皮が気になってきたという状況があったとする。「もっと頭皮に優しいシャンプーやコンディショナーはないだろうか」と考えた彼は、風呂場の中にあるセンサーに向かって、「頭皮に優しいもの!」と話しかける。風呂上りに彼のモバイル/タブレットを見ると、先ほどの彼の発言を認識したセンサーがその情報をネット経由で伝え、それをもとにさまざまな商品が画面上でレコメンドされている。かつてのレコメンデーションはやや押しつけ感が強かったが、近年はそのモバイル/タブレットユーザーの性格にあわせて、ある程度好みのスタイルでレコメンドが届くようになっている。しかも、自分が信頼すると見なしているサイトや個人の口コミを強く反映するようにプログラミングされているため、そこに提示される情報の信頼性は高い。

彼はふと、頭皮で悩んでいる同僚のAさんのことを思い出した。Aさんは人間としても非常に信頼に足る人物である。そこで彼は「頭皮、Aさんの口コミ」とモバイル/タブレットに話しかける。

すると、プログラムがそれに反応し、提示する商品の順序が変わった。どうやらAさんは、先のレコメンデーションでも取り上げられていた「商品B」のユーザーらしい。Aさんのコメントを見ると、「頭皮に優しいだけではなく、抜け毛も減るし、髪もサラサラになる」と書かれている。彼は今度はモバイル/タブレットに「『商品B』のシャンプーとコンディショナー、サンプル1週間分」と話しかける。

翌日には、早速サンプルが届き、彼はさっそく使ってみる。1週間使ってみると、結構自分の肌にも合うような感覚があった。そこで彼はまたモバイル/タブレット向かって、「『商品B』今のところは満足、香りもいい」と話しかけた。このコメントはまた電子的に処理され、ネットの口コミネットワークの中に広がっていくことになる。

実は彼はバイク愛好者の中ではちょっとしたインフルエンサーである。バイク愛好者はヘルメットをかぶる関係で、髪に少なからぬダメージを受ける可能性がある。彼の「商品B」に関するこのコメントは、ひょっとするとバイク愛好家に「商品B」のユーザーを増やす結果につながるかもしれない。

そして後日、「商品B」のメーカーから彼にこんな連絡があった。「常日頃弊社の商品をお使いいただきありがとうございます。このたび、さらに機能を向上させた『Bプラス』の開発を進めていますので、モニターとして使っていただけないでしょうか。また、バイク愛好家のためのシャンプー、リンスのグループインタビューも実施しておりますので、よろしければ参加ください。ご参加された方には、どこのガソリンスタンドでも使えるポイントを○○ポイント差し上げます」。

数年前であれば、このようなメールは不気味だったかもしれないが、いまや多くの人々はこうしたメールに慣れている。人的ネットワークを広げてみるのもいいかと考えた彼は、グループインタビュー参加OKとのレスを返信した。

変貌を遂げるSTP-4P

さて、ここまで読まれた皆さんは何を感じられたでしょうか。「SFのようだ」「気持ち悪いかも」といったところが正直なところではないでしょうか。しかし、我々が今過ごしている2015年という時代も、四半世紀前から見たら全く予想のつかないSF的な時代なのです。5年という短期間でどこまでこの世界が実現するかは確かに不確定ですが、このくらい世界が変わることを予想しておくことに損はありません。

このショートストーリーのもう1つのポイントは、伝統的なSTP-4Pというフレームワークが(全く意味がなくなるというわけではないですが)どんどん陳腐化していくということです。特に、STP-4Pという、オーソドックスなマーケティング戦略を考える順番が全く変わってしまう可能性があります。なぜなら、IT化や解析技術がどんどん進化すれば、どんな人間が買っているかが個人レベルで分かってしまうため、そもそもセグメンテーションやターゲティングという行為を先に考える必要性は減じるからです。

たとえばこんな手順が一般化するかもしれません。まずは典型的なペルソナを設定したうえで製品・サービス開発を行い、魅力的なコンテンツをそれに添える。そしてそれが特に検索や口コミを通じて人々に伝わって購買につながっていく。そしてそれを分析して、さらにそれが刺さる人々に市場を広げていく。そうして購買した人々が、結果としてターゲットだったということになる――製品コンセプトやポジショニングが大事であることは変わらないかもしれませんが、その前段のSとTの意味合いは大きく変わりうるのです。

4Pでは、チャネルももうプロモーションやプロダクトとほぼ融合してしまい、それらをミックスして最高の経験を届けなければならないというのは前回も指摘したとおりです。プライスも、単純な値付けではなく、ビジネスモデルの利益方程式という側面から考えることが当たり前になっていくでしょう(例:スマホゲームにおけるフリーミアムモデルなど)。原価にマージンを乗せて、という方法論がどんどん陳腐化していくのです。4Pの垣根が崩れるとともに、IT時代ならではの新しい方法論がどんどん生まれてくるのです。

口コミマーケティングの進化とイマジネーション

話を口コミマーケティングに戻しましょう。すでに上記ストーリーで、広告ではなく、口コミで新しい商品を試した男性の例を記しましたが、いわゆる「広告らしい広告」の影響力は薄れ、口コミがメディアの中に占める地位はさらに上がっているでしょう。前回も指摘した、受け手側のペルソナや動機も理解した巧みなコンテンツ作りが求められるようになるのです。

上記のストーリーで描ききれなかった、IT時代ならではの要素として、以下のようなことも意識しておきたいところです。

(1)ビッグデータがより進化すれば、どのようなコンテンツが特定の層により受けるのかを分析して、コンテンツをいくつか用意したり、ベストのコンテンツのミックスを提案したりするということもおいおい可能となるでしょう。「朝にはインフルエンサー向けのコンテンツを流し、昼には一般受けするイイ話にコメントをつけて流し…」といった感じです。

(2)さらに人工知能が発達すれば、コンテンツ制作そのものが機械の手によって行われる可能性もあります。おそらく最初の精度は低いかもしれませんが、最後に人間がひと手間修正を入れればOKという時代は早晩やってくるでしょう。

ただ、そうした時代になるとコンテンツでは差別化ができないという問題が起こりかねません。予算さえまかなえれば、どこの企業も似たようなやり方をしかけてくるからです。となると、結局最後にものを言うのは、製品・サービスの良さそのものという話になるのかもしれません。とは言え、最先端のコミュニケーションをしないと勝てない…。当面はSaying&Doingと、Beingのせめぎ合いが続くことになるのでしょう。

さて、今回はかなり想像力豊かに未来の口コミマーケティングのあり方を見てきましたが、そういう時代になってから何かを考えても遅いと言えます。すでにIT企業や広告代理店などは、さまざまな場所で数年後の未来像を語っています。(本稿もそうですが)どれか1つが当たるということはなく、それらが適度に混じった世界が出現することになるのでしょう。

未来を正確に言い当てることはできなくても、未来の「いくつかの可能性」を頭の中でシミュレーションしておくことは非常に大事です。シナリオ・プランニングという、複数の未来を予測し、それに備えるという思考方法があります。複雑性の増す時代だからこそ、情報収集をしっかりしたうえで、想像力を働かせながら、そうした複数の未来を描き、準備しておくことが必要なのです。

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