人々は何に共感しているのか? 

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前回は、口コミの動機として以下の5つがあることについて解説しました。

(1)自分が気に入ったものは紹介せずにはいられない。多くの人に同じ経験を味わってほしい
(2)自分の評価を上げたい
(3)他人とのつながりができることや、他者に影響を与えることで喜びを感じる
(4)金銭的もしくはそれに相当するようなインセンティブがある
(5)単に時間が余ったので何かしら関心を持ったことを書いたりしゃべったりしておきたい

今回は、人々は何に「共感」して口コミをするのかということについて少し議論したうえで、上記のさまざまな動機も踏まえたとき、どのような施策を打つことが効果的かという議論をします。ITの進化によって、瞬時に「いいね」やシェアができる時代に、我々が意識すべき点とは何でしょうか。

​共感はおカネではなかなか買えない

口コミが人々の購買行動やさらなる口コミにつながる上で重要なポイントが共感です。もちろん、積極的なリコメンデーションとFacebookの「いいね」の間には同じ共感と言っても大きな差はあるのですが、これがないと、(4)の金銭的動機以外の口コミは期待しづらいでしょう。(4)にばかり頼ることはコスト高になってしまいますので、口コミというものが本来持つ高い費用対効果を損ねてしまいかねません。

さて、共感は、概ね以下の4つの事柄に対してなされます。MECE​(Mutually Exclusive and Collectively Exhaustiveの略)に切れるものではなく、重なる部分も大きいのですが、まずはこの括り方で見ておきましょう。

A) 一次情報のコンテンツ
B) 二次情報のコンテンツ
C) 情報の発信源
D) 情報の発信者

A) 一次情報のコンテンツとは、口コミをした人が直に製品・サービスや経営者に触れて発信した事柄です。たとえば、新しく買った車の乗り心地が素晴らしい、あるいはスポーツの試合が面白かったといったものです。当然、もともとの製品・サービスレベルが高かったり、経営者が優れた人の場合は、これに対する共感が増します。

B)の二次情報のコンテンツは、情報を発信した人が直接に体験したことではなく、他者の口コミや、別の媒体のコンテンツを読んで口コミを広げるものです。例としては、リッツカールトンの優れたサービスにまつわる伝説の数々といったものが挙げられます。他の人間がFacebookなどで取り上げた記事などもここに含まれます。一次情報では少なかった、メディアによる加工がかなり混ざってきます。

C)はこの2つと重なる部分もありますが、その情報を発信した主体に対する共感です。たとえばこの原稿を執筆中の2015年3月現在、スティーブ・ジョブズが1997年にアップル復帰直後に、社員に向けて新しい価値観を広めるために行ったスピーチがWEB上で盛んにシェアされています。アップルはもともとファンの多い会社ではありますが、少なからぬ人がこれを見てアップルに好感をもった可能性があります。

D)は口コミをしている人間そのものに対する共感です。「この人の書いていることに同感だ」「この人は好き」というように、内容もさることながら、口コミをしている人への評価が、内容そのものより大きなポーションを占めることが多々あります。こうした発信源となる人々は、動機(3)のタイプの人が多いようです。

どのような施策が効果的な口コミにつながるか

さて、口コミの動機や、口コミの源泉となる共感について踏まえた上で、企業としてどのような施策をとると口コミのパワーが増すか考えてみましょう。ここでは以下の3つを指摘しておきます。

a) そもそもの製品・サービスのレベルを上げる
b) コンテンツマーケティングに力を入れることで、多くの人に共感を促すようなコンテンツを作りこむ
c) オピニオンリーダーやキュレーターを探し、彼らの動機に訴えかけるような情報発信を行う

まず、a)はオーソドックですが、やはり欠かすことはできません。どれだけ言を弄したところで、根源となる製品・サービスや企業そのもの在りようがプアだと、結局はメッキが剥がれてしまいますし、むしろ高まった期待値を裏切ることになるため、逆効果にもなりかねないのです。マーケティングは「Saying(何を言うか)」や「Doing(何をするか)」の部分も大事ですが、その前提となる「Being(どのようなものか)」という部分がまずはしっかりしている必要があるのです。

ここがしっかりしていれば、たとえば誰かに口コミを依頼する際にも、自信と熱意を持ってお願いすることが可能となります。

難しいのはb)とc)でしょう。まずb)ですが、ここはクリエイティブ担当者や社内編集者のセンスが問われる部分です。通常の(押し付け的な)広告はかえって人々から避けられる時代です。その中で、人々の琴線に触れるようなコンテンツを作り、人々に発見してもらい、共感、シェアしてもらう必要があります。

ロッテがソフトキャンディ「カフカ」で作ったクリエイティブはその点ユニークです。テーマは子どもの泣きやみ。この広告を見せると小さな子どもが泣きやむと評判になり、DMUであるお母さんの間で強い共感を得、非情に多くのシェアを実現しました。動機(1)と(2)に強く訴えかけたと言えるでしょう。等身大の悩みに応えたわけです。ここまで来ると広告はもはや製品・サービスと分離した存在ではなく、ユーザーである子どもに対するソリューションの一部をなしているともいえます。顧客視点重視の経験価値マーケティングではいわゆる4Pの垣根はどんどん低くなるのですが、その一例とも言えるでしょう。

さて、人々の琴線に触れるコンテンツ作りについては、基本はPDCAと組織学習ということになります。どんなコンテンツが多く読まれ拡散されたかという情報をベースに、どのようなクリエイティブを作っていくのか、しっかり組織としての知を累積していくことが必要です。予算や組織文化への共感の程度にもよりますが、「刺さる」コンテンツを生み出せるクリエイターや編集者を採用してしまうという方法論もあります。

「刺さる」コンテンツ作りのためのキーワードは以下のようなものになるでしょう。

・押しつけがましくない:内容が面白いものならその限りではないかもしれませんが、面白くもないコンテンツを無理に読まされたり観させられたりしたい人間はいません。繰り返しになりますが、情報過多の時代、押しつけがましさは「不満」とまではいかなくてもプラスには働かないと割り切っておくくらいがいいでしょう。

・世の中の関心にマッチしている:ここでは、普遍性を持ちつつも、世の中のトレンドを半歩先取りするようなテーマを埋め込みたいものです。先のロッテ「カフカ」の例は、「子どもの泣きやみ」という普遍性の高さと、動画を見せれば泣きやむという新規性がうまくマッチした例と言えます。

これを実現するためには、社内でのブレストや消費者インタビューなどが効果的です。ただし、あまり社会に迎合し過ぎるとコンテンツのエッジが殺がれてしまったり、熱意がこもりにくくもなるため、バランスは非常に難しいものになります。その一方で、定番の名言や「イイ話」系、面白い動画などは、普遍性も高いため、適度に混ぜていくとシェアされる可能性も高まります(特に動機(2)や(5)の人々に対して)。単に自分がシェアするだけではなく、自分なりの切り口をコメントなどで添えるといった工夫も必要です。すでに自社に関する好意的な口コミがネット上に出回っているなら、それをうまく活用するのも有効でしょう(無論、押しつけがましくてはいけません)。

・探してもらえるキーワードが埋め込まれている:SEOに関しては多くの企業が対策を打っていますが、まずはその基本も押さえた上で、タイトルなどで「読んでみたい、観てみたい」と思わせるようなコピーライティング的素養が必要になります。これも基本は試行錯誤と組織学習です。ただし、人々の関心の移り変わりは早いので、一度見出した事柄が変化してしまう可能性を低く見てはいけません。

ある程度の予算を使える企業であれば、人々の感性に頼るだけではなく、ビッグデータの解析を行うことで、どのような傾向のコンテンツやフレーズが人々に「刺さった」かを解析することも可能でしょう。まさにAnalyticsを効果的に使うわけです。2015年現在、クリエイターの感性とビッグデータの解析のどちらに軍配が上がるかは微妙なところかもしれませんが、おいおい後者の方に力はシフトしていくでしょう。

・根気良くやる:口コミのためのコンテンツ作りは一朝一夕に効果が出るものではありません。たとえばブログなども、蓄積があって初めて多くの人がそれに気づくというパターンも多いものです。結論を急ぐのではなく、ここでも人々の反応は意識しつつも、PDCAを回していくことが必要です。そのためにも、KPIを設定し、状況を可視化することが欠かせません。

・動画や写真を積極的に使う:通信技術の発達により、特に動画がモバイルなどでも簡単に見ることができるようになっています。内容だけではなく、動画としても魅せるコンテンツ作りが求められます。人々が何分までの動画を好むのかといったことや、テロップ、BGMまで含めて、どのような動画が共感を得るのか、スピーディに学習することが求められます。現時点では、一般論として、3分以上の動画はよほど見る側に強い動機がない限りスルーされてしまう傾向があるようです。

d) は、オピニオンリーダーやエバンジェリストと呼ばれる、他者への影響力の強い人々を意識しながら攻めていくという考え方です。マスからの口コミ、シェアも重要ではありますが、オピニオンリーダーやエバンジェリストの影響力は通常の人々の何千倍、何百倍にも及ぶからです。まとめサイトなどもそうしたインフルエンサーの1人と見なす方がいいかもしれません。

まず、彼らと直接知り合いであれば、お願いするというのもオーソドックスではありますが効く方法です。ただし、彼らは動機(3)で動く人々が多いですから、その動機に見合うベネフィットを提供する必要があります。その情報をシェアすることが彼らのコミュニティでのプレゼンスを高めるようなコンテンツ作りや情報提供が必要となります。金銭の支払いなどはかえって逆効果になりかねないので注意が必要です。むしろ、新しい取り組みや試作品を紹介するなど、新鮮な情報や体験の提供が喜ばれます。

直接の知り合いでないのなら、彼らに探してもらう工夫が必要になります。自社のファンクラブのようなコミュニティであればこれは比較的容易ですが、世の中のインフルエンサー全員を相手にしようとすると、これはなかなか骨の折れる仕事です。ヒントを挙げるとすると、そうしたインフルエンサーは情報の鮮度や視点のユニークさを売りとしていることが多いので、「誰に」取り上げられたいかということも意識したうえで、ここでも鮮度のある情報を流したり、「全く同感」と言ってもらえるような切り口でコンテンツを作るということも方法論として出てきます。フェアかつオープンに情報を公開する姿勢も重要です。彼らは企業のそうした「姿勢」をまさに見ているからです。

さらに、もし取り上げてもらったりシェアしてもらった場合には、直接コミュニケーションすることで良好な関係を維持することも励行したいことです。双方向のコミュニケーションは、インフルエンサーならずともやっておきたいところではありますが、全員とすることは難しいので、口コミの内容や「誰が」という部分を踏まえながら行うのが現実的でしょう。IT時代とはいえ、だからこそ時々はフェイス・トゥ・フェイスでのコミュニケーションを意識したいところです。

ここまでは主にコンテンツ作りの話をしてきましたが、その他にも口コミ、シェアの頻度を上げる地道な施策もうっておきたいところです。たとえばFacebookページであれば、「いいね」を押してもらう機会を増やすよう、いいねboxをさまざまな目立つ場所に置く、あるいは「やらせ」にならない範囲で社員に「いいね」やシェアを手伝ってもらうなどです。あるいはTipsとしてよく語られていることですが、曜日や時間帯の選択に注意する、無味乾燥なプレスリリースと面白いコンテンツを混ぜない、要約をつけるなども、長期的にはかなり効いてきます。こうした地味な一手間をなおざりにしてはいけません。

ここまでは、2015年現在の状況を念頭に置きつつ議論してきました。しかし、SMACS+AIの進化速度は並大抵のものではありません。次回は、5年後の2020年頃を念頭に、IT新技術がもたらす口コミマーケティングへのインパクトやその可能性に関する議論をしたいと思います。

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