昨日までの常識は今日の非常識 

  • このエントリーをはてなブックマークに追加
  • このエントリーをはてなブックマークに追加

8ed1a29e3bf7fcdb873beab457149243

前回は、ビジネスを行うプラットフォームの進化と、それに伴うパラダイムシフトとして、まず(1)競争優位は長続きしないというポイントについて解説しました。今回は、残り3つのパラダイムシフトである、(2)国内だけではビジネスは成りたたない、(3)金銭やモノの所有は人々のインセンティブにならない、(4)中間管理職は消える、の3点について解説しましょう。

(2)国内だけではビジネスは成り立たない
もちろん分散型事業(規模化することが必ずしも優位には働かず、しかも多くの競争変数が存在する事業)というものは常識的に考えて消えてしまうわけではないでしょうから、地場に密着した飲食店やクリーニング店、不動産仲介業などは今後も残るでしょう。問題は、ある程度の規模に達した中堅企業から大企業です。これらの企業は、新しいIT環境の中で国内だけでビジネスを行うのはますます難しくなるでしょう。その背景を簡単に説明します。

まず、ITとは直接関係するものではないのですが、少子高齢化に伴う国内の人口減があります。大胆な移民受け入れでも行わない限り、この傾向はまず変わりません(筆者は、そうした移民政策が行われる可能性はかなり低いと予想しています)。一方で、海外企業(先進国、新興国両方)の日本進出は規制緩和の流れの中でますます進むでしょうから、放っておくと市場を侵食されるだけです。市場侵食を食い止めることに加え、海外市場に活路を求めないと日本企業は成長できない時代になってきているのです。

それ以上に重要な背景は、戦略上、グローバルに事業展開を進めないとこれからの時代は勝ちにくいという点です。特に規模の経済性やネットワークの経済性、「知恵の経済性」が働く事業はそうです。そしてITビジネスはまさにこうした経済性が強く働く事業であることは論を待ちません。Facebookに代表されるソーシャルメディアがその典型ですが、

グローバルに大きいから顧客に対しても価値を提供できる
⇒ますます多くの顧客がやってくる+巨額の投資ができる
⇒ますますグローバルに大きくなってさらに顧客に対してレベルの高い価値を提供できる・・・

というサイクルを回すことが前提なのです。ネットワークの経済性こそ効きが弱いものの、規模の経済性、知恵の経済性の働くメーカーなどでも、すでにグローバル化は必須の条件となっています。

「うちはITビジネスや製造業じゃないから」と思われるサービス業の方もいらっしゃるかもしれません。しかし、どんなビジネスも多かれ少なかれリアルとバーチャルの複合体になっていくのが今の時代です。バーチャルとリアルがシナジーを発揮しながら顧客にベストのエクスペリエンスを提供しなくてはならない時代と言い換えても構いません。

たとえばファーストリテイリング傘下のユニクロのEC売上比率は2014年で概ね3.5%程度です。これを多いと見るか少ないとみるかは微妙ですが、その比率が10%を超える日は遠からずやってくるでしょう。ユニクロはリアルの店舗でも積極的に海外展開を行っていることでも有名ですが、リアル店舗だけではなく、ウェブの中でも存在感を発揮しないと、(ECサイトでの売上げと言うだけではなく)顧客のアテンションやマインドシェア獲得、コスト低減、ベストのエクスペリエンスという意味からも、グローバル競争で勝つことは容易ではないのです。

もちろん、IT時代にグローバル化することの緊急性は、さまざまな変数で変わってきます。「リアルとバーチャルの比率」「地域的隔たり」「言語の障壁」等々です。テレビ局などは、地域的隔たりや言語障壁、さらには独自の商慣習や規制などもあることで比較的グローバル化の遅れた業界ですが、もはやそうした障壁に頼るのは危険な状況です。前回も述べたように、人々が情報を知るルートや「観る娯楽」の在り方も変わってきましたし、ネットに比べて効果測定がしにくいという広告媒体としての弱点ももともと抱えています。単にITに力を入れるだけではなく、ITをよりパワフルな武器とするためにも、同時並行のグローバル化は避けて通れないのです。一見遠いようで近くのライバルである米国や新興国のライバル(同じ業界のプレーヤーではなく、隣接業界のプレーヤーかもしれません)はまさにそのように戦っているのですから。

(3)金銭やモノの所有は人々のインセンティブにならない
これはやや極端な表現で、より正確に書くと「金銭やモノの所有は人々のインセンティブになりにくくなっていく」となるでしょう。ただ、経営に携わる人間としては、もはや金銭による動機づけや、人々は何かを所有することに拘るという思い込みを捨てる必要があります。その前提で組織マネジメントやマーケティングを考えたり、ビジネスモデルを作っていく必要があるのです。

さて、この2つはいずれも価値観に相当するものです。なぜこのような価値観が生まれてきたのかは専門書に譲りたいと思いますが、「モノ余り」「製品やサービスの使用経験の増加」「生活の利便性の向上」といった状況が続く中で、20世紀的な価値観である金銭や所有に対する欲が弱まってきたということは言えそうです。皆さんも、周りを見渡せば、多額の報酬を捨ててNPO活動やボランティアに身を投じている人や、買えるけどレンタルで済ませているという人をたくさん見つけることができるでしょう。

すでに2010年にダニエル・ピンク氏は「モチベーション3.0」を提唱し、金銭ではなく、興味、好奇心、才能の開花、成長、キャリア、達成感、顧客や同僚、地域社会への貢献意識などがモチベーションの大きな部分を占めることになるだろうと予想していました。その後、日本ではピンクの主張に反するようなアンケート結果も出るなど、本当にそれが定着するかは微妙かとも見られていたのですが、2015年現在は、まさにそれが日本でも実現しつつあると言えそうな状況です(もちろん、世代を始めとする属性の濃淡はありますが)。

こうした動きは、先述したようにマネジメントやマーケティングの在り方やビジネスモデルに大きな影響を与えます。

順序は逆になりますが、ビジネスモデルの例としては、シェアのビジネスモデルなどがその例と言えるでしょう。これは、モノや空間、時間を所有するのではなく、多くの人間で共有しようとするビジネスモデルです。家や部屋を貸し出すアメリカのAirbnbなどが有名です。シェアビジネスが欧米で先行した背景には、1)所有が資源の浪費、地球環境に対する負荷となるという反省があった、2)所有しているよりも共有するというライフスタイルの方が、「賢い消費」にこだわる若者にとって魅力的に映るようになった、3)ITの進化で、情報仲介のコストが劇的に低下した、などの理由が挙げられています。まさにITの進化と価値観の変化の掛け算から生まれてきたビジネスモデルと言えるでしょう。

マネジメントの変化については、経営者やマネジャーは難しい舵取りが求められそうです。昨今はダイバーシティの時代でもあるので、とにかく多様な人々が集まってきています。当然、モチベーションの強弱も変わってきます。もともと、モチベーションは各人異なっていたのですが、その振れ幅が一気に増すことが予想されるからです。すぐに結論が出せる話ではないので、この点についてはおいおいこの連載で触れていきたいと思います。

マーケティングについては、顧客ニーズや購買パターンの変化につながるわけですが、これもこのコラムで追って触れていくことにしたいと思います。あえて一言言っておくと、いずれも、結局ITの使い方の巧拙が、人のマネジメントやマーケティングの効果に大きな影響を与えそうだということです。

(4)中間管理職は消える
これも実は極端な表現で、より正確には「従来型の中間管理職は不要になる」と言った方がいいでしょう。従来型の中間管理職とは、上長の指示を受けながら、部下のマネジメント(アサインメントや指示出し)を行うような人々です。

ITの進化は、こうした昔ながらの役割を激変させる可能性があります。いくつかの理由を挙げると、1)部下の方がIT知識に関しては知識を持つようになってきた、2)組織の垣根が緩くなり、外部の人々との協業が不可欠になっている、3)経営環境の変化に関する必要インプットの量がどんどん増えていき、働き方を変えざるを得ない、などです。

最初の「1)部下の方がIT知識に関しては知識を持つようになってきた」については、実感されている方も多いのではないでしょうか。かつては、経験、ネットワークともベテランである上司の方が豊富であることが一般的でしたが、ことITとなると若い人の方が知識の吸収力がありますし、新しい使い方に対しても柔軟です。外部とのネットワークについても、ことIT領域に関しては、上司の方が優れたネットワークを持っているとは限りません。もともと、マーケティング的な視点から言えば、より現場に近い部下の方が現状を知っているという側面はありました。今後は、立場上は上司-部下の関係であっても、これまで以上に、部下に学び、かつバリューを出していく必要性が増していきます。これは自ずと、戦略立案の在り方(組織の中でいかに戦略を構築、修正していくのか)の変化を迫ることにもつながります。

2つ目の「2)組織の垣根が緩くなり、外部の人々との協業が不可欠になっている」については、これまで以上に外部とのネットワーキング力や、それを活用して価値創造するが求められることを意味します。ITの進化で、組織に縛られず働く人や、ベンチャー企業で働く優秀な人もどんどん増えるでしょう。単に部下から力を引き出すだけでは不十分です。ソーシャルの力なども借りながら、マネジャー自身、どんどん外部も含めたコミュニティの中でプレゼンスを出さないと、結果も出しにくくなっていくのです。

そして最後の、「3)経営環境の変化に関する必要インプットの量がどんどん増えていき、働き方を変えざるを得ない」ですが、とにかく変化のスピードは増していきます。それらをキャッチアップしつつ、必要があれば既存のやり方をドラスチックに変える必要があります。ラーン(Learn)とアンラーン(Unlearn)のバランス取りがますます難しくなってきたと言えるでしょう。

つい10年前までの中間管理職的なメンタリティに縛られている人は、組織にとって邪魔でしかない存在へと変わっていくのです。IT新時代のマーケティングや経営戦略を支えられるマネジャーの条件については、おいおいこのコラムで議論していきたいと思います。

名言

PAGE
TOP