思考の偏りから脱却せよ ―『0ベース思考』 

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ビジネスリーダーにぜひ読んでほしい1冊を紹介するこのコーナー。第2回は『0ベース思考---どんな難問もシンプルに解決できる』(スティーヴン・レヴィット、スティーヴン・ダブナー著、櫻井祐子訳、ダイヤモンド社)をご紹介する。『ヤバい経済学』『超ヤバい経済学』で全世界に経済学ブームを巻き起こし、「インセンティブ」というもののパワーを示した2人組が放つ次なる書とは?

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『0ベース思考---どんな難問もシンプルに解決できる』の基本的な語り口は、気鋭の経済学者であるレヴィットと、ジャーナリスト、ダブナーによる前々作『ヤバい経済学』、前作『超ヤバい経済学』と基本的には同じである。意外かつ興味深い問題を提示し、その問題のベースにある根源的な原理や理論を軽妙かつ斬新な切り口から解説していく。筆者らの巧みなストーリーテリングのおかげもあって、読者はあっという間に本の世界に引き込まれるのだ。

本作で提示している問題には以下のようなものがある(表現は多少変えてある)。これらはあくまで一例であり、章の見出しレベルのものもあれば、本文中のちょっとした問いかけレベルのものもある。

・サッカーのPKはどこに蹴るのが一番合理的か?
・キッカーはなぜそれをしないのか?
・当局が考える学校改革はなぜ成果をあげないのか?
・なぜ日本の平凡な一青年がアメリカの「ホットドッグ大食い大会」で圧勝できたのか?
・A「銃規制の強化、景気拡大」、死刑の増加」と、B「警官の増員、受刑者の増加、クラック、コカイン市場の衰退」では、どちらの方が犯罪減少に強い影響を与えたか?
・(奴隷貿易があった頃)なぜ、商人は奴隷の顔を舐めたのか?
・すごい教育法よりメガネの方が学力アップに有効な理由とは?
・以下のうち省エネのうたい文句として最も効くのはどれか? 「1.お金の節約になる」「2.環境保護になる」「3.社会のためになる」「4.多くの人がやっている」
・ロックスターのヴァン・ヘイレンは、なぜプロモーターとの契約書に「おやつの『m&m's』に茶色のものを入れるな」と書いたのか
・そしてなぜ、実際に「おやつの『m&m's』に茶色のもの」が入っていた時、大暴れして更衣室をめちゃくちゃにしてしまったのか?

どうだろう。思わず読みたくなった方も多いのではないだろうか? 特にお勧めは、平凡な日本人がホットドッグ大食い大会で圧勝するエピソード(問題を「正しく」再定義することの意義を極めてインプレッシブな形で示している)と、ヴァン・ヘイレンのエピソード(隠れた意図を効果的に実現している)である。やんちゃなイメージのヴァン・ヘイレンがこんなことを考えていたことに正直驚く。

さて、本書の構成をもう少し細かくひも解くと、(実際には綺麗に分けることは難しいのだが)ビジネスパーソンに身近な「0ベースからの」問題解決に関して述べているのは概ね前半であり、後半はこれまでの書籍と同様、社会的課題に対するインセンティブ論(バイアスの影響なども含む)からの問題解決について語っていると言っていいだろう。やや乱暴に言えば、前者はコンサルティング的な問題解決であり、後者は経済学者的な問題解決とも言える。つまり、本書を読むことで、読者は1冊で2つの問題解決のエッセンスに触れることができるのだ。

ただ、共通して流れているメッセージは、「バイアス(思考の偏り)」からの脱却である。バイアスがあるからこそ、人はそれまでと同じやり方でやってしまう(ゼロベースでは考えられない)。バイアスがあるからこそ、効果のない施策を打ってしまい、人々に逆インセンティブを与えてしまう。どのようなアプローチをとるにせよ、頭をバイアスフリーにしないと、どれだけ頭のいい人間でも(いやむしろ、頭のいい人間だからこそ)有効な解決策に至らないのである。

ここから脱却するのは並大抵の努力では難しいだろう。王道もない。しかし、王道がないからこそ、日常の心がけの積み重ねが大きな差を生むのである。自分の思考の癖に意識を向け、虚心坦懐に自身を省みることの重要性を再認識させられる1冊である。

『0ベース思考---どんな難問もシンプルに解決できる』
スティーヴン・レヴィット(著)、スティーヴン・ダブナー(著)、櫻井祐子(翻訳)
2015年2月14日、ダイヤモンド社刊
1,600円(税込1,728円)

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