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人工知能が支える「10万人教室」

投稿日:2015/03/13更新日:2019/04/09

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< 今回のポイント >
◆2011年、セバスチャン・スラン氏オンライン公開講座を16万人が受講
◆2012年は「MOOC元年」、Udacity、Coursera、edXが立ち上がる
◆大人数に質の高い教育を効率的に提供するための「MOOC三要件」がある

前回はMOOCムーブメントの仕掛人であるセバスチャン・スラン氏に関するストーリーを追いかけました。しかし、ここまで何度か使ってきたMOOC(=大規模公開型オンラインコース)という言葉ですが、耳にしたことはあっても、その具体的な特徴や発展の経緯などについて知らない人は多いのではないでしょうか。そんな観点から、今回はMOOCについて理解を深めていきたいと思います。

事前予想は200人、実際の受講生は16万人!

カーン氏のスピーチを聞いて居ても立ってもいられなくなったスラン氏は、すぐに動き始めます。スピーチの直後の2011年、スラン氏が当時スタンフォード大学で担当していた「人工知能入門(Introduction to AI)」という科目の授業を、オンライン上の公開形式で行うことを発表したのです。

スラン氏は、YouTube上に「Online Introduction to Artificial Intelligence」という手作り感満載のコンテンツを作成し、その中で不特定多数のオーディエンスに対してこう投げかけました。

「もし受講するのであれば、厳しい提出期限のもと、8つの宿題と2つのテストを受けなくてはなりません。スタンフォードの他のクラスのように1週間に最低10時間の勉強は必要でしょう。これは皆さんへのチャレンジです。しかし、もしこのコースを完走できたら、正式なスタンフォードの単位とはなりませんが、修了証明書を差し上げましょう」

→ 動画はこちら

カーン氏のスピーチに触発され、「ネットの向こうには大勢の受講生が待ち受けているはず」という思いで動き出したものの、実際にどれだけの人が集まるのかは蓋を開けてみるまで分かりません。「せめて、スタンフォードでの通常の1クラス人数である200名以上は来て欲しい」というのがスラン氏の願いでした。同じくクラスを担当するグーグルのピーター・ノーヴィグ氏はもう少し強気で「2000名は来る」と見積もっていました。

しかし、実際に開講までに集まった受講生は、ざっと16万人。スラン氏の予想のなんと800倍の受講生が、世界190の国・地域から集まったのです。

これはスラン氏が「教育界のイノベイター」として長く続く道のりの扉を開いた瞬間でもあり、そしてMOOCとしての可能性が顕在化した瞬間でもありました。

2012年、Udacityが誕生

そして、この時から、MOOCのおおよそのフォーマットが出来上がります。そのフォーマットとは以下の3要件です。

(1)オンライン用に作成された映像教材
(2)ディスカッションシステム
(3)自動成績評価システム

教室内の映像をそのままオンラインに流しているコンテンツや、場合によってはTEDのような映像コンテンツを指してMOOCだという人も稀にいますが、一般的にはこれら3つを揃えたものをMOOCと呼ぶということを理解しておいていただきたいと思います。

これら3つは、「大人数の受講生を一度に教育する」ということを前提にして、その教育効果を高めるための工夫でもあります。

映像に関しては、オンラインで学習することを前提に、10分程度の短時間で、時としてクイズなど集中力を切らさないような工夫を取り入れられているのがMOOCの通常のパターンです。

しかし、いかに映像に工夫を凝らしたとしても、大勢の受講生の中には映像だけでは理解できない人も少なからず出てきてしまいます。つまり、質問も大量に生じるわけです。講師がそれらにいちいち対応をしていたらキリがありません。したがって、MOOCではディスカッションボードという場を通じた受講生同士の「集合知」による疑問の解消を前提にしています。「お互いに疑問を解消するのも勉強のうち」というわけです。

そして、ちゃんと学んだのかを確認することも重要です。非常に大人数の受講生が相手なので、運営上の「手離れの良さ」ということも考えなければなりません。そこで、自動採点システムや受講生同士の相互評価方式など、できるだけ教員の手を介さない手法により評価が行われます。

大人数の受講生に対して、質の高い教育を、手間をかけずに実行する」ということは、従来ならば、解決策のない無理難題だったのですが、「3つの仕組み」によって不可能を可能にしたのがMOOCなのです。

MOOCのフォーマットの可能性を自分で確認したスラン氏は、その数カ月後の2012年2月、自ら30万ドルを投じ、Udacity(ユダシティ)というオンライン教育プラットフォームを立ち上げました。サルマン・カーン氏の衝撃のプレゼンを聞いてから、わずか11カ月後のことです。思い立ったらすぐに小規模の実験をして可能性を見極め、その確信の下に勝負をする。この一連のプロセスにおけるスピード感はさすがです。

※ちなみに、Udacityという名前は、“university(大学)”と“audacity(大胆さ)”という2つの単語からなる造語です。スラン氏の野心が込められた良いネーミングですよね。センスを感じます。

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教育業界に破壊的イノベーションの波

さて、2012年、このようにして登場したUdacityですが、その直後にCoursera(コーセラ)、そしてedX(エデックス)というプラットフォームも2012年中に相次いで立ち上がります。このような動きをメディアが放っておくわけがありません。音楽業界、新聞業界などになぞらえて、「教育業界にもとうとう破壊的イノベーションの波が来た」と注目し始めます。

そして、Udacity、Coursera、edXという3つのMOOCプラットフォームが立ち上がった2012年を、New York Timesは「The Year of MOOC」と称しました。MOOCの時代の到来です。

華々しく注目を浴びることになったMOOCですが、このUdacity、Coursera、edXという3大MOOCプラットフォームの共通点を理解しておく必要があります。

Udacityの設立者のスラン氏は今までお伝えした通り、無人自動車等を通じてAI(人工知能)の実用化に貢献してきた技術者です。Udacityでスラン氏とともに最初のクラスを担当したピーター・ノーヴィグ氏もグーグルの研究本部長を務めるAIの専門家です。

Courseraを設立したのは、スタンフォード人工知能研究所(SAIL)のリーダーであり、Google Xに籍を置いていたアンドリュー・エン氏です。キャリアだけ見ると、スラン氏との違いが分からないくらい似通っています。

ちなみに、「コンピュータが猫を認識する能力を身に付けた」ということがニュースで話題になったことがありました。それは「ディープラーニング」という領域におけるエン氏の著名な成果になります。「機械学習」という手法によって、猫というものがどういうものかを予め教えられることがなくても、コンピュータが猫を認識できる力を付けたわけで、画期的な成果として知られています。(「Google、脳のシミュレーションで成果……猫を認識」

さらに、Courseraのもう1人の共同設立者であるダフニー・コラー氏もAIの研究者です。edXはマサチューセッツ工科大学(MIT)とハーバード大学によるもので、そのヘッドであるアナン・アガワルはMITの人工知能研究施設を率いてきた人物です。

既にお気づきのように、MOOCの創設に関わった人物はみんなAIの研究者なのです。これは、単なる偶然ではありません。AIやコンピュータサイエンスこそが、今後の教育を変える重要なソリューションであると考えられているのです。

「何をどう教え、どう評価するのか」ということを、既存の「教育業界」からの視点ではなく、異分野であるAIという観点から設計しているということが、MOOCの面白さであり、可能性でもあります。言い換えるならば、「教育」と「AI」という独自に発展してきた領域が、MOOCという新ジャンルで交差したと言えます。

では、AIがMOOCの形成にどのように寄与したのか、ひいては教育の今後の可能性にどうつながっていくのか――。このあたりの具体的な話を次回深めていきたいと思います。

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