パラダイムシフトは敵か味方か 

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第1回、第2回はSMACS+AIのフレームワークに沿って昨今のITの進化を見てきました。こうした変化は結局のところ、何を意味するのでしょうか。筆者は、「プラットフォーム(Platform)の進化に伴うパラダイム(Paradigm)の変化」と捉えています。

パラダイムはもともと科学史家・科学哲学者のトーマス・クーンによって提唱された概念です。昨今は、クーンが意図した意味合いではなく、「その時代の思考パターン」「時代の思考を決める枠組み」といった意味合いで用いられています。

このパラダイムの変化(パラダイムシフト)はネット新時代においても特に重要です。今回と次回で、そのことについて論じていきます。

進化するプラットフォーム

まず、プラットフォームの進化と、それがビジネスにもたらした意味合いに関しておさらいしておきましょう。SMACS+AIの進展は、つまるところ、ITの環境=プラットフォームの劇的な変化を意味します。ここで言うプラットフォームは、狭義のITプラットフォーム(アプリケーションが作動する環境)よりも広い意味でのビジネス環境と捉えてください。

広義のITプラットフォームの歴史をひも解くと、いくつかの時代に分けることができます。これは人によっても意見は微妙に異なるのですが、現代は第3、第4のプラットフォーム時代と言えそうです。ちなみに、IDC Japanは、モビリティ、クラウド、ビッグデータ、ソーシャルからなる環境を「第3のプラットフォーム」と呼んでいます。

最初のプラットフォーム時代は、IBMのメインフレームが主役だった1970年代から80年代です。この時期は、一部の大手企業を除けば、多くの一般企業にとってIT活用はそれほど重要な論点ではありませんでした。ITの意味合いは、「人間の作業を機械で置き換える」「コストダウンを行う」といったものがメインでした。銀行のATM(現金自動預け払い機)関連のシステムはその典型でしょう。ただし、POS(販売時点情報管理)をいち早く活用して科学的なマーチャンダイジングを行い、競合との差別化につなげたセブン-イレブンなど、まさにInformation=情報を武器として優位性を築いた例はいくつか存在します。

その後、90年代に入ると、それまでは高価だったパソコン(PC)の低価格化が進み、PCが一般の従業員にも行き渡るようになります。クライアント・サーバーによるネットワークもこの時期に発展し、データベースの機能も向上しました。そして94、95年頃からはインターネットの時代が始まります。80年代までは基本的にスタンドアローンだったPCが、まずは社内、そして社外ともつながるようになってきたのです。この時期には、PCやメール、さらにはナレッジ・マネジメントやCRM(顧客情報管理)などのアプリケーションを使って、いかに従業員の生産性を上げるか、あるいは差別化につなげるかということが、多くの企業にとって重要な論点となってきました。

この時期、消費者の時間という「資源」や「富の源泉」を巡る競争でインターネットが重要な地位を占めるようにもなりました。インターネットに関連した初期のベンチャー企業群が生まれたのもこの頃です。この時代のITの意味合いとしては、こちらの方がよりインパクトが大きいと言えるでしょう。インターネットによって消費者も企業側も情報を発信したり収集したりしやすくなり、その費用対効果や企業-顧客との関係性が変わり始めました。また、リアルのビジネスをネットで置き換えたり、その複合型を作ったり、ビジネスモデルのバリエーションや可能性が劇的に増したことが、この時代のITの進化の意味合いとしては大きかったと言えるでしょう。

その次のプラットフォームの進化と言える変化は、携帯電話からインターネットにつながるようになったこと、ブロードバンド化が進んだこと、そしてグーグルやAmazon、Facebookといった現代のITジャイアントがそのサービスを拡充させたことでしょう。概ね2000年前後から数年前までの動きです。

十数年前のケータイの機能やブロードバンドは、2015年現在から見たらまだまだ未熟ではありましたが、これによって通信のスピードは劇的に上がり、動画など大容量のデータも簡単に扱えるようになりました。検索やストレージの高機能・大容量化も、データを大量に扱う顧客企業に大きな便益をもたらしました。SNS等で個人の発信力が上がり、企業の競争力にITが大きな意味を持つようになってきました。必然的に、ITや通信関連の企業がさらなる成長を遂げました。この時代のプラットフォームは、現代のSMACS+AIのプラットフォームの前駆体と言えそうです。

この時代、それまでの経営のパラダイムが大きく変わりました。崩れてしまったパラダイムの典型例を挙げましょう。

「企業の方が顧客よりも製品のことや関連情報をよく知っている」
「企業が発信したい情報はある程度はコントロールできる」
「リアルの世界だけでもビジネスは成り立つ」
「モノやサービスを無料で手に入れることはできない」
「知識をたくさん持つ従業員にこそ価値がある」
「ITのことはITの専門家に任せておけば大丈夫」

これらは、2015年現在も続く、パラダイムの変化です。これらも踏まえた上で、SMACS+AI時代のさらなるパラダイムシフトについて見ていきましょう。

新しいパラダイムに適応できる者が勝ち残る

これからの時代は、10年前と同じスキルやメンタリティでは経営を行うことはできません。新しいプラットフォームの時代に即した新しいパラダイムに適応できる人間だけが勝ち残れるのです。ではその新しいパラダイムとは何でしょうか。

以下に経営に関して予想される代表的なパラダイムシフトを挙げます。

(1)競争優位は持続しない
(2)国内だけではビジネスは成りたたない
(3)金銭やモノの所有は人々のインセンティブにならない
(4)中間管理職は消える

なお、これらはすべて、すでに萌芽が見えているものですが、SMACS+AIの時代に、より顕著になっていくと予想されるものです。今回は(1)について見ていきましょう。

(1)競争優位は持続しない
競争優位性の構築は経営戦略の一大テーマです。特にマイケル・ポーター教授を筆頭とするポジショニングスクールの人々にとっては、持続的な競争優位を築くことこそが重要な戦略上の論点でした。競争優位性の持続期間については、すでに20世紀の頃からゲマワット教授らの調査などによって意外に長くないという主張もなされてきましたが、SMACS+AIの時代になってその傾向はさらに増すことが予想されています。また、昨日までのジャイアントが一気にその地位を失う可能性も増すことが予想されています。IT環境の進化への乗り遅れや、ITを活用した代替財によって、一気に形勢が変わる可能性が増しているのです。

たとえば、アメリカでビデオ・DVDレンタルの巨人であったブロックバスターは、2004年には同社史上最高の4000店舗をアメリカ国内だけで展開していました。まさに右肩上がりの成長を続けていた同社が、そこから10年もたたずに連邦破産法11条を申請することを予測していた人は多くはないでしょう。

ブロックバスターはさまざまな代替サービスにその市場を侵食されましたが、最も大きなインパクトを与えたのはネットフリックスです。1999年創業の同社は、もともとDVDの宅配から事業をスタートさせました。これだけならば書店対ネット書店のような戦いですが、2007年にオンデマンドのストリーミング配信を月額固定で開始したことで、成長に弾みをつけました。

ネットフリックスはさらに家電業界に働き掛け、テレビに「Netflix」のボタンをつけさせました。日本でいえば、地上波やBSと同じレベルにNetflixが来たわけです。さらに同社は独自のビッグデータ解析を通じてユーザーにコンテンツをレコメンドしたり、ドラマ制作などのコンテンツ開発に乗り出したりもしました。ユーザーが何を観たいかを分析したうえで、そうしたコンテンツをタイムリーに提供するわけです。アメリカではいまや「実質の視聴率」はネットフリックスが30%以上を占めるとのデータもあります。

ではこのネットフリックスの天下がいつまでも続くかといえばそれは不明です。コンテンツの観方が現在のままとは限りませんし、より安価に視聴を提供できる方法が現れる可能性は否定できないからです。テレビ局がITベンチャーと組んで逆襲してくるかもしれません。テレビ画面を占領してしまう別の「何か」が登場するかもしれません。

この流れは、見方を変えれば、顧客ニーズの変化の速さに企業が追いつけない可能性が高くなったということもできます。なお、ここで言う顧客ニーズは、根源的な顧客ニーズというよりは、もう少しウォンツに近いレベルでのニーズと捉えてください。

たとえば、「ニュースを知りたい」という人々の根源的なニーズはそう簡単に無くなったりはしないでしょう。しかし、その入手の方法は新聞やテレビである必要はありません。WEBで十分と考える人が増えるのであれば、企業は早晩それに対応せざるを得なくなります。そして、WEBでニュースを配信するサービスに対する、より具体的なニーズはさらに早く進化します。

日本ではYahoo Newsが長らく人気でしたが、最近ではモバイル(スマホ)アプリを前提としたSmart NewsやNews Picksなどのサービスが非常に人気を集めています。SmartNewsは「圏外でもサクサク読める」ということを打ち出してユーザーを増やしていますし、海外での展開も素早いものがあります。News Picksは単なるニュース配信、キュレーションアプリというだけではなく、人々のニュースに対する反応を知ることができるという点でユニークなメディアです。Yahoo Newsも一部の記事は人々のコメントを読めますが、匿名性が高いこともあって、2015年現在、内容はやや玉石混交状態です。

とは言え、これらのニュースアプリは好調にユーザー数を伸ばしているものの、まだAnalytics(ビッグデータ)やセンサーにまで対応しているわけではありません。それらをさらに巧みに使いこなす代替サービスが現れれば、全く次元の競争が起きる可能性があるのです。

ITの進化は、顧客ニーズの変化のスピードを速めるとともに、その振れ幅を大きくしてしまったのです。一度開いたパンドラの箱が閉じることはないでしょう。

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