ITを知らずに経営ができるか:SMACS、そしてその先へ(2) 

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ある機会に、「SMACSという言葉を知っていますか?」とビジネスパーソンに聞いたところ、知っている方は概ね20%台でした。これだけITが経営に与えるインパクトが増している時代に、(バズワードかもしれませんが)時代のトレンドを示す言葉の認知率が意外に低いことにやや驚きました。いまや、IT業界でなくとも、ITを知らずして効果的な経営はできない時代です。当然、ITの経営に与えうる影響をしっかり理解しておくことはビジネスリーダーの必須要件です。

こうしたことも意識しながら、今回はSMACSの後半、Cloud、Sensor、Securityについて昨今の動きを紹介します。併せて、SMACSと連動しながら進化することが予想されているAI(人工知能)についても簡単に触れましょう。

Cloud

一昔前は、データのストレージや処理は、1つのコンピュータか、あるいは社内のLANなどで直接接続された狭い範囲のシステムの上でなされていました。ところが昨今は、インターネットのネットワークを通じて必要に応じて適宜必要なコンピューティングパワーを利用することが可能となっています。これがクラウドです。

その定義には多少のブレはありますが、インターネット経由でソフトウェアパッケージを提供するSaaS(Software as a Service)や、プラットフォームを提供するPaaS(Platform as a Service)、仮想マシン等のインフラを提供するIaaS(Infrastructure as a Service)などもクラウドの一形態と考えることが多いようです。クラウドが登場したおかげで、企業は、社内でリソースを抱え込むことなく、必要に応じてサービスやインフラを利用することができるようになりました。「所有から利用」への変化が起こったのです。

SaaS、Paasの代表企業、そしてクラウドコンピューティング・サービスをビジネス化した先駆けの企業として、アメリカのSalesforce.com社(1999年設立)があります。それまで顧客関係管理(CRM)ソフトはパッケージで販売されることが多かったのですが、同社はこれをネットワーク上で提供するという新しいビジネスモデルを開発しました。いまや日本においても同社はPaas企業としてはナンバー1の地位を占めるとのデータもあり、世界各国で10万社以上のクライアントを持つとされています。顧客企業の側から見ると、パッケージソフトを購入したり、ストレージを社内に持たなくてもSalesforce.comのサービスを買えば、CRMや販売支援を適宜自社の状況に応じて支援できるということです。

クラウドが企業にもたらしたメリットをさらに一般化すると、コストダウン、外部の専門サービスの活用によるビジネスの効果アップが挙げられるでしょう。

まずコストダウンですが、企業は一定の使用料さえ払えば、わざわざ保有のための投資を行う必要はありません。サービスの利用を意思決定するスピードも上がります(やや技術的な話をすると、システム開発やカスタマイズなどのコストも下がりますし、工期も短くなります)。この恩恵を特に享受しているのは、経営資源の制約の大きいベンチャー企業です。彼らは、クラウド時代になってからベーシックなIT投資を大きく抑制できる恩恵にあずかっています。

今後、ますますクラウドが一般化すれば、コストはさらに安くなるでしょう。クラウドサービス提供者側のビジネスモデル、特に利益方程式のモデルにもよりますが、仮にフリーミアム的なモデルが採用されれば、かつては数百万円以上を支払っていたサービスを無料で利用できる可能性すらあるのです。

もう1つの「外部の専門サービスの活用によるビジネスの効果アップ」ですが、これはサービス提供者側のラーニングによるサービス進化の恩恵を受けやすくなるということです。これは前回お話ししたAnalyticsと連動してきますが、クラウドサービスの提供者は往々にしてビッグデータの解析などにも積極的です。多数の顧客情報からのフィードバックに基づいて改良されていくサービスを顧客企業側も享受できるのです。

Sensor

これは前回紹介したAnalytics、ビッグデータと密接に絡んできます。あらゆる「モノ」に付随・設置された何かしらのセンサー(測定装置)によって測定されたデータがあれば、それを解析することで適切な制御やアクションをとれるようになります。

昨今流行っているInternet of Things(IoT)という言葉が、まさにこの動きを示しています。IoTは、テレビやスマート家電あるいは自動車など、あらゆる「モノ」とつながって情報交換をしたり制御している(されている)状態、あるいはそれらをつなげる技術やそれによって生まれるサービスのことです。

かつては技術的制約、金銭的制約から、その対象者や対象物の行動は限定的にしかわかりませんでしたがが、IoTが進化すれば、対象者や対象物の行動パターンからさまざまな意味のある情報が抽出され、価値のあるアクションへとつなげることが可能です。

一例として乗用車に何かしらのセンサーを取り付ける例を考えてみましょう。どのような応用が可能でしょうか? 建機メーカーのコマツがすでにコムトラックスで実施しているような、機械そのものの使用状況(摩耗度や燃料の状況の補足など)のモニタリングなどは当然のこととして、ここでは車を運転する人間の行動に関連して考えてみましょう。

たとえば、ブレーキやアクセルの踏み方、急ブレーキの頻度、車をバックさせる際や急カーブを曲がる際のハンドルの切り方といったデータを取得することができれば、それを解析することで、「運転の上手い人」と「運転の下手の人」の峻別、あるいは、「運転の乱暴な人」と「運転の丁寧な人」の峻別ができるようになるでしょう。

メーカーの立場に立てば、「運転の下手な人」のデータが集まれば、彼らにオプションとして運転支援サービスを提供することが考えられます。たとえば、初めて運転する道で、カーナビから、「300メートル先から厳しい坂が始まるので準備してください」という注意を流すなどです。もちろん、運転の苦手な人でも操縦しやすい車の開発も加速するでしょう。

自動車保険会社の立場に立つと、運転の上手さと運転の乱暴さを指標とすることで、保険料の設定をより適切にできるかもしれません。仮に事故を起こしていなくても、運転が乱暴な人の保険料は高く設定するなどです。そこまで行かなくとも、車に搭載したカメラなどから画像データが容易に得られるようになれば、事故の際の過失割合などもより容易に判定できるようになるでしょう。

このように、車一つとっても、その応用範囲は無限にありそうです。センサーとしては、当面はスマホがその中心になるでしょうが、その他の生活に密接している機器、たとえばテレビを始めとする家電にさまざまなセンサーがついたら、どのような分析、アクションが可能になるか、ぜひ考えてみてください。

なお、センサーの活用は、BtoC以上にBtoBの分野でも様々な応用が期待されています。

Security

SMACSの最後のSは、Sensorを指す場合が多いですが、このSecurity(セキュリティ)を指す場合もあります。企業全体の生産性のみならず、個人情報に対する意識も高まっている昨今、このセキュリティという要素についても簡単に見ておきましょう。

セキュリティがより重視されてきた背景には、冒頭に述べたクラウドの進展や、Analyticsのベースとして顧客情報そのものをビッグデータとしてビジネスのネタに使おうとしてこともあって、データの量が膨大になっているという背景があります。セキュリティ全般の話はすでにさまざまなところでなされているので、ここではクラウドに関するセキュリティに関して述べましょう。

これには大きく、クラウドを活用していてそのサービスが何らかの理由で活用できなくなるという問題と、そのクラウドサービスから重大な情報漏えいが起こってしまうという問題があります。このリスクがあるためにクラウドの活用を躊躇して知る企業も存在します。これはクラウドのみならずアウトソーシング一般に関する問題でもありますが、無視するわけにもいきません。

まず考えられる対応策は、セキュリティのしっかりしているサービス会社を使う、クラウドを分散させるといったことです。基本ではありますが、この情報社会においてはこうした基本は押さえておきたいものです。

前者に関しては、判断すべき評価軸として、バックアップがしっかりされているか、物理的な障害に対する備えがあるか、アプリケーションなどに脆弱性がないか、強力な暗号化がなされているか、サイバー攻撃に対して適切な備えを行っているか、などがあります。

社内においてもクラウド時代を見据えたセキュリティ・ポリシーをしっかり定め、その遵守を社内で徹底することが望まれます。また、最低限必要なセキュリティ投資を怠ってはいけません。中には、ハッカー(の素養のある人)に依頼し、定期的にシステムの脆弱性を測定し、それをつぶしている企業もあります。

100%のセキュリティは実現不可能ですが、データ量が増加の一方をたどるなか、そして世の中がデータ漏洩に敏感になっているなかで、どこまでセキュリティを追求するのか、しっかり費用対効果を考えたいものです。

AI(Artificial Intelligence)

人工知能(AI)の歴史は意外と古く、言葉自体は1956年に提唱されました。当時は今ほどのコンピューティングパワーもなかったことから、「知能」というレベルには全く到達しておらず、単なる学者の興味と楽観主義がAI研究の推進力となっていました。できる作業も簡単な計算問題を解くといったレベルでした。

その後、紆余曲折はありましたが、21世紀になって、コンピューティングパワーの爆発的向上や、それと関連するいくつかの技術、たとえば音声認識や自然言語処理、画像認識、機械学習等々が格段に進化したことで、AIはいよいよ人間のみに許されていたと思われていた思考領域において人間に勝るパフォーマンスを発揮し始めたり、市販の製品に実装されるようになったりしてきています。

前者の例としては、チェスや将棋といった高度な頭脳ゲームにおいて、コンピュータ(機械)側が勝つという現象となって表れています。すでに20世紀後半には、チェスではコンピュータ(IBMのスーパーコンピュータ「ディープ・ブルー」)が世界チャンピオンを下しました。現在では、トップクラスのコンピュータに人間が勝つことはほぼありません。

2015年現在、人間のトップレベルとコンピュータのトップレベルが拮抗しているのは将棋です。2014年に開催されたドワンゴ・日本将棋連盟主催の「電脳戦」では、並みいるトップ棋士5人を相手にコンピュータ側が4勝1敗と勝ち越しました。棋界最強といわれる羽生善治名人に最強コンピュータが現在勝てるかは不明ですが、遠からぬ将来、チェスと同様の状況となるのは間違いないでしょう。

なお、現在のコンピュータ将棋は、過去の棋士の棋譜を徹底的に解析し、形勢判断を行うといったロジックによって成り立っています。人間によるチューニングもかなり加えられています。その意味では、コンピュータも人間の力を借りて戦っているわけで、コンピュータそのものがクリエイティビティを発揮しているわけではありません。「ルールを教えただけで勝てるようになる」という時代が到来するのはまだまだ先かもしれませんが、もしそれが実現するとしたら、単なる計算の次元を超えて「創造」の次元に近づくと言っていいかもしれません。

製品にAI(的なもの)が実装された例としては、2011年よりiPhoneに実装されたSiri(Siriはもともとベンチャー企業だったのをアップルが買収したものです)があります。Siriは、高度な音声認識と自然言語処理能力を持ち、話しかけるとそれに応じた操作をしてくれたり、ユニークな受け答え(例:「愛している」と話しかけると、「他の機械には言わないでね」と答えるなど)をしてくれます。

2015年現在はその機能はまだ限定的ですが、遠くない将来にはその機能を増し、手元に秘書がいるという感覚により近づいていくでしょう。たとえば、「来週のソウル出張の手配」と話しかければ、フライトやホテルの予約をしてくれるといった感じです。

人工知能の応用先としては、車を初めとする輸送機器の自動運転といったものから、より複雑な意思決定の支援(例:ある契約書を読んで、法律的、ビジネス的に問題点がないかを指摘する、あるいはプレゼンテーション資料の効果測定をし、修正点を指摘するなど)、さらには何かの創造(例:小説や服装デザインなど)といったものまで多様なものが考えられます。どの段階でどのような能力を持つのか正確に予測することは難しいですが、グーグルやアップルに代表される世界を代表するIT企業や、トップレベルの人材を要する公的機関が多額のお金をかけてこうした研究をしているという事実を見逃すわけにはいきません。AIが人間の知能に追いつく「2045年問題」を提唱する学者もいます。実際にこれから30年でそこまでAIが進化するかは未知ですが、子どもが自分と同じ年齢になった時には、人間と機械の関わり方が想像もつかないくらいに変わっていることは間違いないでしょう。

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