日本への正当な評価を確立するために政府・企業・メディア・個人が行動を! 

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初稿執筆日:2015年2月20日
第二稿執筆日:2016年9月5日

 これまで100の行動では、日本が進めるべき「行動」を政策分野ごとにまとめてきた。経済産業編から始まって外務、防衛、財務編などを経て、内閣府編まで一通り論じてきた。

 次なる「行動」は、スピーディーに変わってゆく世界の中で日本がどうあるべきかという観点で提言を進めたい。「世界の中の日本」編の第1では、諸外国から日本への正当な評価を確立するための「行動」について論じてみる。

 財政再建や様々な制度改革と同様に、いや、それ以上に、将来世代への責任として、我々がやらなければならないことがある。それは、世界における日本の立ち位置を正しく維持し、日本への正当な評価を確立しておくことだ。

 日本に対する誤解や間違ったイメージを是正し、諸外国から日本への相応の正しいイメージを持ってもらうことは、日本の国益上、未来の国民のためにも極めて重要だ。誤解や悪いイメージがあっても「ほとぼりが冷めるまで待っていれば、やがて誤解は解ける」というような甘い考えは妄想にすぎない。我々は常に、日本への正当な評価を維持するために、行動し続ける必要がある。

 私たちの世代の責任として、どのような日本のイメージを未来に残していくべきなのか。相応に良いイメージを引き継ぐためには、政府、民間、メディア、さらに個人の一人ひとりが、世界に対してどう主張していくべきなのか。その視点で、この行動をまとめてみたい。

1. <政府>主張する外交の継続と英語による広報活動の強化を!

 従軍慰安婦問題を例にとれば明白だが、朝日新聞の誤報が32年間訂正されず、繰り返し繰り返し海外に間違った報道がなされたことにより、国連そして諸外国は歴史的事実と異なる誤ったイメージを持たされるに至っている。そういった間違った認識、日本に対する誤ったイメージを、「しょうがない」で放置しておくことは、許されない。なぜならば、未来の子供たちにも濡れ衣を着せることになるからだ。「なぜ日本が誤解されたままだったのに、あなたたちの世代で間違いを正さなかったのですか?」「なぜ世界と言論を戦わせなかったのですか?」と、僕らは追求されてしまうであろう。

 日本政府の中で、世耕弘成官房副長官(当時)などが中心となって対外発信が強化されている。外務省は来年度予算で、広報体制強化など対外発信予算として約500億円という、これまでと比べて格段に大きい予算を充てることを決めた。また、竹島や北方領土といった他国が不法に占拠し続けている日本の領土に関しても、分かりやすい動画を制作し、YouTubeにアップするなど、前向きな努力がなされている。積極的に応援したい。

 日本政府は、日本への正しい認識を持ってもらうための「主張する外交」を続けて欲しい。同時に英語による国際広報の抜本的な強化を求めたい。さまざまな活動を通じて親日的な国家、企業、英語媒体、人々を増やす努力を続けるとともに、誤った日本への認識を報じる海外メディアへの反論、誤った歴史認識を掲げる教科書や文献への指摘など、根気強い努力を重ねてもらいたい。

2. <民間>日系人ネットワークとの連携強化を!

 国際社会、諸外国における日本への正当な評価を確立するためには、政府の外交ルートだけでなく、民間レベルでもさまざまなチャンネルを活用する必要がある。そのうち、日本が今後最も力を入れるべきは、日系人とのネットワークの強化だ。

 国際社会において米国が世界で最も重要な国であることに異論はないだろう。だからこそ中国や韓国をはじめ諸外国は、その米国に移住した自国民のネットワークを政治的にも重要視し、上手に活用している。昨今、国力の増強に伴い、中国や韓国をはじめとしたアジア系米国人の米国政治、経済への影響力は増大している。

 一方、日系米国人は米国在住の歴史も古く、全米に130万人いるアジア系米国人で6番目に大きいグループだ。にもかかわらず、米国での政治力はさほど強くない。また、日本国と在米日系人との関係は、今まで希薄であった。その結果、日本にとって不利な状態が米国で発生している。

 1つの事例を示そう。2009年以降、米国では、韓国系住民運動団体が地元議員らに強く働き掛け、従軍慰安婦の碑が全米各地に設置されている。今では、ニュージャージー、ニューヨーク、カリフォルニア、バージニア、ミシガンなど、慰安婦の碑が設置されている場所は10カ所にも及ぶ。

 この従軍慰安婦問題では、米国の世論形成に在米韓国人が大きな政治力を発揮したが、日系米国人はそれほど関心を持たなかった。在米韓国人は、母国との結びつきが強く、米国における政治的な反日・親韓感情を醸成することが、母国の利益(竹島問題など)につながると考えているから積極的なのだ。

 一方の日系米国人は、世代が進んでいることもあり、母国日本との結びつきが弱い。従軍慰安婦問題に関しても故イノウエ上院議員は日本を擁護する立場だったが、同じ日系人でも、カリフォルニア州サンノゼ選出のマイク・ホンダ下院議員は日本に極めて批判的だ。

 米国で活躍する日系人をバックアップし、日系人とのネットワークを強化し、米国における世論を正当な方向に導くために米国政治への影響力を高めることは極めて重要だ。今後は、日本も日系米国人とのネットワークを強化し、その戦略的な活用を行う必要があろう。

 最近では日本の外務省も日系米国人との関係強化を重視し始め、Japanese American Leadership Delegationというプログラムを毎年実施している。これは、毎年10名程度の日系米国人を日本に招待し、日本との結びつきを強化するプログラムだ。

 こういった努力をより大規模に進めてもらいたい。毎年10名では小規模にすぎるため、より拡大し、特に若い世代、高校生や大学生の世代から将来の米国におけるリーダー候補生たる日系人たちに、日本との結びつきを意識してもらうことも有益だろう。実際、中国、台湾、韓国は同様のプログラムをより大規模で行っているのだ。

 また、2008年に設立されたU.S.-Japan Council(米日カウンシル)は、政財界における在米日系人と日本人のネットワークを強化することで日米関係に貢献しようとする団体で、2015年の11月には初めて日本で総会が開催された。2015年4月の安倍晋三総理のシリコンバレー訪問も、米日カウンシル評議委員会会長を務める日系二世の米スタンフォード大学名誉教授のダニエル・沖本氏(当時72歳)の尽力だった。米日カウンシルへの政財界のリーダーたちの積極的な参画も重要だろう。

 加えて、渡米の際の訪問先を東海岸のニューヨーク、ワシントンD.C.だけで終わらせることなく、LA、サンフランシスコ、ハワイなども訪問し、日系人とのネットワーク強化に努めるべきであろう。いずれにせよ、今こそが、日本人と日系人との関係を強化する時なのである。そうでないと米国において、銅像が事実に反する注意書きとともに、造り続けられるであろう。

3. <民間>日系在外企業によるロビー活動を強化し、海外の政治への影響力を高めよ!

 米国の政治・世論形成に影響力を行使することができるもう1つの媒体が企業だ。米国だけでなく、世界各国に日本企業は進出している。この力を結束すれば、影響力を増大させることは可能だ。

 例えば、米国にはスーパーPACという仕組みがある。これは近年の大統領選挙などで相手候補の誹謗中傷合戦をヒートアップさせていることでも注目されてしまっているが、元々は、企業や団体などが従業員などの個人献金を集めて、特定の政治家を支援するための制度だ。米国においては企業や団体が政治家や政党に直接献金を行うことが禁止されているため、PAC(political action committee)をつくって、個人(企業の役員や従業員、個人株主)から資金を集め、それを献金するという経路をとる仕組みだ。

 PACに関して、個人の献金限度額は5000ドルという規制があったが、2010年に最高裁判決が出て、個人の政治的活動の自由を優先するという立場から、限度額が原則廃止になった。これ以降、巨額の政治資金が流れ込むため「スーパーPAC」と呼ばれるようになり、一部の大金持ちや企業の献金が、選挙戦を左右しやすくなった。

 米国には多くの日系企業が進出している。それらの企業において、PACを活用して地元の政治家へのロビー活動、コミュニケーション活動を強めることは、企業活動にとっても有益なはずだ。PACの活用と連動して重要なのが、日系企業のトップの活動だ。トップは地元知事、国会議員、州議会議員などへの面談、活動の報告、様々なイベントへの招待を通して、地元政治家と積極的に関わることが重要だ。

 日系企業の米国政治への影響力を高め、長期的に日本への正当な評価を米国政治に醸成することは、日本にとっても、現地で経済活動を続ける企業にとっても利益をもたらすだろう。そういった運動を日本の経済界が統一感、一体感を持って進めることが望ましい。

4. <メディア>健全な英字媒体の育成を!

 以前、「毎日デイリーニュースWaiWai問題」という珍事件が起こった。これは、毎日新聞の英字媒体であった毎日デイリーニュースのコラム「WaiWai」において、極めて低俗な内容や誇張、虚構に基づく内容の記事が掲載され、配信され続けていたという問題だ。その内容は極めて下劣で日本人差別的、かつ、性的表現の強いものがほとんどだった。

 2008年に表面化したこのWaiWai事件では、担当記者のライアン・コネル記者が懲戒休職3カ月という軽い処分だけで済まされたうえ、同氏の前任者だったマーク・シュライバー記者がジャパン・タイムズに移り、そこでも同様の日本に誤解を与えるような低俗記事を書き続けていた。

 彼らは週刊誌のゴシップ記事を元に検証もなく断定的な記事を書いていたようだが、英字媒体であり、購読対象が主に日本人以外であるため、多くの日本人には知られることはなくWeb上・紙媒体を通して掲載・配信が長期にわたって続いていたのだ。

 外国人が日本について知る玄関口となるのは、当然ながら英字メディアである。ジャーナリズムとして検証もない事実と異なる記事を配信し続けていた毎日新聞やジャパン・タイムズの当時のマネジメントはお粗末というほかないが、それによって日本が被った被害は甚大だ。

 日本から世界への情報発信の先鋒となるべき英字メディアが海外に誤解と偏見を拡散するのではなく、日本に関する正しい情報と正当な評価を構築する役割を果たす必要があろう。英字メディアにおけるリテラシーの抜本的な向上が日本にとって重要だ。

 また、外国メディアとの関係の構築も欠かせない。国際安全保障を専門とする慶應義塾大学の神保謙氏は「従来の意見広告のような立場の主張にとどまらず、メディアの中において議論をリードする役割を担わなければならない」と指摘する。Washington Post、New York Times、Wall Street Journal、Financial Times、China Daily(中)、Straits Times(シンガポール)などの新聞や、Foreign Affairs、Foreign Policy、National Interestsなどの言論誌の影響力は依然として極めて大きい。アジア太平洋地域の外交・安全保障分野での国際的な発信の主流を形成しているThe Diplomat Magazine, Project Syndicateをはじめとするいくつかの媒体等についても意識しておく必要がある。

 インターネットの検索サイト対策も軽視できない。海外の人が日本の事象に問題意識を持ち、次にすることはGoogleでの検索だ。そこでの検索上位に位置づけられるウェブサイト、画像、動画に何があるかで、彼らの認識形成に決定的な影響を与える。こうした検索結果に影響をあたえ、日本の主張や立場が適切に届くためにも、検索のされやすさや動画情報のトピックごとの区分などの工夫も発信する役割を担うメディア自身が、政府とともに検討する必要がある。

5. <個人>ソーシャルメディアなどにより国際社会への毅然とした発信を!

 事実でないことでも、それを言い続けられると、何十年もたてば、事実だと思われてしまうことがある。慰安婦問題もそうだが、韓国が違法な支配を続けている竹島も、韓国では自国の正当な領土だという教育が続けられた結果、韓国人たちはそれらの島を自国の領土だと思い込んでいる。さらには国際社会に対しても政治的なアピールを常に続けている。一方で日本では、竹島に関する教育は緩く、子供たちの中には、竹島を知らないまま育っている子までいる。

 例えば筆者の個人的な経験でこういうことがあった。マレーシアのクラブメッドに家族旅行をした際、「多文化ナイト」が開かれ、各国のスタッフがパネルを出して食事や民芸品などを出店していた。そのパネルを眺めていたら、こともあろうに韓国のパネルに竹島の写真が、韓国の代表的な観光地の一つとして掲載されていたのだ。

 翌朝、フランス人GMにクレームをして、写真撤去の確約を得た。おそらく、クラブメッド側は、韓国人スタッフが提出した竹島の写真を、悪気なく韓国のパネルに掲載したのだろう。しかし、日本人が何の主張もしなければ、やがて既成事実化してしまうであろう。国際社会で活動する個々人が、それぞれ気づいた時でよいから、指摘し主張することが重要だと思う。

 そして同時に、国際会議や英語メディアで、日本という国を背負いつつ、英語で共感を得ながら議論し主張できる日本人を徹底的に増やしていく必要がある。

 今やインターネットの時代だ。前述の神保謙氏は「過去10年間での世界的な変化として、インターネット・SNSにおける言論空間が、認識形成・世論形成の中核的位置付けになっている。対外発信の主戦場はインターネットの言論空間にある」と言う。2010年のチュニジア・ジャスミン革命から急激に拡大したアラブの春では、ツイッターやフェイスブックなどのソーシャルネットワークが大きな役割を果たし、実際に独裁政権の打倒、新政権の樹立などのリアルな政治を動かしたことは記憶に新しい。

 インターネットの力で、政権までが吹っ飛ぶのだ。コミュニケーションは武器なのだ。知らないと言うのは、その人にとってみれば、存在しないと同様なのだ。一方、間違ってコミュニケーションされて誤解が生じたとしても、その本人にとっては、誤解が「正しいこと」に認識されているのだ。つまり、コミュニケーションにより歴史をも変えられてしまうのだ。そこに、朝日新聞の誤報が世界的に配信された怖さがある。「誤報」であっても、多くの人は「正しいこと」と認識しているのだ。朝日新聞には世界に向けて発信して、誤った認識を是正してもらうとともに、僕ら一人ひとりが、正しい認識に変える努力をしなければならないのだ。

 これからは、フェイスブックやツイッター、ブログで個人が発信する時代だ。我々日本人一人ひとりが、世界で発信することにより、世界の認識が変わるのだ。間違った認識を是正し、日本への正当な評価を確立し、その結果未来に良い日本の評価を引き継ぐためにも、個々の日本人がより意識を高めて、ソーシャルメディアなどのツールも活用して、英語で主張・発信をすることが重要だ。

 「世界の中の日本編」では、まずは日本の対外的なコミュニケーションについて政府、企業、メディア、個人ができることを論じてきた。まさに、日本への正当な評価を確立するために、政府・企業・メディア・個人のそれぞれの行動が求められている時代になってきたのだ。

 次回の100の行動では、そのコミュニケーションのベースを形作る「日本人としてのアイデンティティ」、つまり世界観・歴史観について語ってみたい。

 


 

京都大学工学部卒、ハーバード大学経営大学院修士課程修了(MBA)。住友商事株式会社を経て、1992年株式会社グロービス設立。1996年グロービス・キャピタル、1999年 エイパックス・グロービス・パートナーズ(現グロービス・キャピタル・パートナーズ)設立。2006年4月、グロービス経営大学院を開学。学長に就任する。若手起業家が集うYEO(Young Entrepreneur's Organization 現EO)日本初代会長、YEOアジア初代代表、世界経済フォーラム(WEF)が選んだNew Asian Leaders日本代表、米国ハーバード大学経営大学院アルムナイ・ボード(卒業生理事)等を歴任。現在、経済同友会幹事等を務める。2008年に日本版ダボス会議である「G1サミット」を創設。2011年3月大震災後に、復興支援プロジェクトKIBOWを立ち上げ、翌年一般財団法人KIBOWを組成し、理事長を務める。2013年6月より公益財団法人日本棋院理事。いばらき大使、水戸大使。著書に、『創造と変革の志士たちへ』(PHP研究所)、『吾人(ごじん)の任務』 (東洋経済新報社)、『人生の座標軸』(講談社)等がある。

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