成熟する日本の起業文化 

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(2013年10月29日付け日経産業新聞の記事「VB経営AtoZ」を再掲載したものです)

大企業・金融と融合機運

Vb

最近、日本がシリコンバレー化してきたと言われるようになった。起業関連のイベントが盛んに行われ、アベノミクス効果で新規株式公開(IPO)市場が活性化するなど、ベンチャー復活の兆しが顕著だ。

またか、と思われる方も多いかもしれない。1990年代後半のインターネット・ブームから一転してバブルが崩壊。2000年代半ばの新興市場のプチバブルを経て、ライブドア・ショックに至る流れは、ベンチャーに関心のある方なら記憶に新しいだろう。

2度の挫折にはそれぞれ理由があった。1度目は若い起業家のビジネスモデルの甘さと、それを安易に後押ししてしまった金融界の未成熟さだ。2度目は成功した起業家と大企業を中心とする日本社会の間の衝突だ。2度目の挫折の後、リーマン・ショック、東日本大震災が追い打ちをかけ、5年以上にわたりベンチャー業界は低迷が続いた。

我々がお手本とする米国の新産業の強さの秘密は何だろうか。私の原体験は15年前、90年代終盤のシリコンバレーにさかのぼる。

当時、私は米ベンチャーキャピタル(VC)と共同出資会社を設立し、グローバル・スタンダードを学ぼうとしていた。その私が見たのは、世界中から集まる起業家とアイデア、大胆に投資するVC、大企業出身のプロ経営者、精通した弁護士・会計士の存在、グローバル投資銀行の仲介によるIPOやM&A(合併・買収)であった。

さらには、一連の資金を国、企業や大学の年金・基金が支えていた。国家レベルで新産業創造のサイクルに取り組んでいたのだ。米国をまねて、経営参加型(ハンズオン)のVCを日本で設立した私にとって、その差は衝撃だった。

あれから15年、今回の波は日本型ベンチャーのエコシステム確立につながると私は見る。実はここ5年間に2つの予兆があった。

1つはベンチャーが成熟したことだ。楽天、ディー・エヌ・エー(DeNA)、サイバーエージェント、グリーなどは、停滞する経済の中でも成長を模索し、ソーシャルメディアやスマートフォンに活路を見いだすなど、業態を進化させ、質実剛健さが加わった。

それらの企業は、新たな起業家やエンジェルを輩出する土壌にもなっている。加えて、ライフネット生命保険やオイシックスなど、社会的意義を旨とする企業や、優秀でグローバルな視点を持つ起業家群の出現も新たな兆候だ。また東日本大震災を契機に、起業家が社会的使命に目覚めた。

一方で、大企業・金融システムのニーズも変化した。事業集中とリストラを断行し、大企業は高い利益率と財務基盤を取り戻した。ただ、新規事業志向が高まる中、人材とアイデアが不足していることが顕在化した。ベンチャーとの本格的協業に向け、KDDI、ベネッセホールディングス、三越伊勢丹ホールディングスなど、あらゆる分野のリーダー企業でコーポレートVCの設立やベンチャー投資が始まっている。

東京証券取引所は、新成長戦略の軸としてIPO復活を掲げ、その成果は早くも昨年から出始めた。

時を経て、日本でも、かつて私が米国で見た「ベンチャーと大企業、金融システムの融合」に向けた機が熟した。アベノミクスの第三の矢、実体経済復活の鍵は新産業創造だ。3度目のエコシステム確立へのチャレンジが始まっている。

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