国家公務員改革:優秀な官僚が国益を考え、志高く働ける環境を整えよ! 

  • このエントリーをはてなブックマークに追加
  • このエントリーをはてなブックマークに追加

初稿執筆日:2014年10月28日
第二稿執筆日:2016年7月25日

日本では、1990年代バブル崩壊前後から、官僚バッシングが嵐のように吹き荒れてきた。たしかに、自らの知恵と努力で生きている企業人や、厳しい生活環境の中で懸命に日常を生きている国民からすると、「誰の税金で食っているのか」とも言いたくなるような不祥事や税金の無駄遣いがあったのは事実だろう。

しかし、組織を変革する上で、その構成員をバッシングし続けるのは、日本という国家にとっても国民にとっても、良いことはない。霞が関には、私心を持たず国益を追求している極めて優秀な官僚が数多くいるのは事実だ。G1サミットにも、十数名の優秀な官僚が参加している。彼らは、民間に比べて安い給料にも拘わらず、日夜、国のために仕事に邁進しているのだ。

官僚の実態には目を向けずに、天下り問題だけを取り上げ、落ちこぼれの元官僚による官僚悪玉論ばかりをテレビで取り上げても、本質的な問題解決にはならない。

国会でも、国家公務員改革は、何度も議論がされ、法案が提出され、改良を重ねられてきた。2014年4月11日にも、内閣人事局の新設などを盛り込んだ国家公務員制度改革関連法案が、国会で自民・公明・民主3党などの賛成多数で可決、成立した。これで、各省庁の幹部公務員を内閣府で一元管理する体制が整ったのだ。

この100の行動では、さらに踏み込んで、以下の枠組みに従い、民間の知恵を導入することで、さらなる活性化を促すために以下を提案したい。

1)採用: 本格的な中途採用・公募制の実施
2)配置: 幹部公務員は内閣府(本社)所属へ
3)評価・報酬: 規制撤廃・予算削減へのインセンティブを!年棒制の導入
4)人材育成: キャリア職は全員海外留学・官民交流を!
5)ライフスタイル: 長時間労働撲滅のモデルケースとなれ!
6)セカンドキャリア: 良い天下りとリボルビングドアの実現を!

官僚をバッシングして鬱憤を晴らすでもなく、官僚を除外する間違った政治主導を叫ぶでもなく、優秀な官僚の能力を国家運営に100%活用できる適正なシステムを作る必要がある。

まずは霞が関が率先して公務員制度の変革を進め、地方へも波及させることが必要だ。

1. 採用: キャリア職員の本格的な中途採用・公募制を実施せよ!

まず、人事制度改革だ。

霞が関の人事システムに関しては、古くから、いわゆるキャリア(国家Ⅰ種)、ノンキャリア(Ⅱ種、Ⅲ種)の区別を無くすべきだ、といった議論がなされてきた。キャリアであればどんなに能力が低くても管理職まで出世できるが、ノンキャリアであればどんなに優秀でも管理職にはなれない、というのは明らかにおかしい。

このため、霞が関の人事システムの改善も累次行われ、最近では優秀なノンキャリアの抜擢や、民間からの管理職中途採用なども徐々に取り入れられている。また、官邸主導の人事が最近進められているのも周知の通りだ。こういった流れをより本格的に進めるために、3つのことを提案したい。

①ノンキャリアからキャリアへの昇進の道をつくり、
②優秀な外部の人材を中途採用する制度をつくり、
③短期的な公募制を導入する。

ノンキャリアからキャリアへの抜擢は、省庁によっては既に実施している。外務省では、毎年1~2名を実施している。公募制・中途採用に関しては、先程述べたように、今では多くの省庁において、外部から任期付きで一定数の民間人を専門職(ノンキャリア)に採用してはいるが、意思決定を行うラインは内部の人材が独占しているのが実態だ。また、キャリアの中途採用を行う努力をしてはいるが、報酬などの待遇面で見劣りするからなのか、なかなか採用には至っていない。

このため、待遇面を魅力的にしたうえで、毎年、霞が関各省庁の本省・本庁の1~3%を中途採用・公募ポストとし、外部から人材を流入させるという本格的な公募制の導入を行うことを提案したい。弁護士や会計士、博士号の有資格者は優遇するといった仕組みを導入してもよい。また海外の経験がある人材、民間での経験が豊富な人材、特に女性の採用を推し進めることを提案したい。 

2. 配置: 管理職は内閣府(本社)所属へ!

国家公務員制度で大きな問題になっているのが、「省益あって国益なし」の不文律だ。各省庁で採用された官僚が、自らの所属する省の予算獲得や権限獲得(天下り先確保)のみを追求して、国益をそっちのけにするといった弊害が、古くから指摘されてきた。

前述の通り、先に成立した内閣人事局の新設などを盛り込んだ国家公務員法案で、各省庁の幹部公務員を内閣府で、一元管理する体制ができた。だが、それだけでは「省益あって国益なし」の問題を解決しない。なぜならば、国家公務員は、省に採用され、省に所属するからだ。国よりも省が第一の雇用主なのだ。

例えて言えば、子会社に採用され、子会社に所属する人は、子会社の利益を考え、グループ全体の利益を考えにくいのと一緒だ。だが、それでは、それぞれの子会社は繁栄するが、グループは成長しない。幹部は、本社に所属し、本社の意向に沿い子会社に出向し、グループの利益を考えて意思決定する体制が必要となる。

そこで提案だ。霞が関本省・本庁の課長級以上の幹部職員に関してはすべて内閣府に転籍させ、背番号を内閣府とし、日本政府という持ち株会社の社員が、各省庁に出向するといった人事システムにするのはどうだろうか。

その上で、現在進んでいる官邸主導の人事配置を、さらに推し進める。当然本社(内閣府)所属になるので、経産省出身でも、外務省や財務省の幹部となる。本社(内閣府)に所属してからは、所属した子会社(省)には、戻らないかもしれない。そこまでの強い本社(内閣府)への帰属意識が必要となる。

本来は、採用段階から本社(内閣府)一括採用が妥当である。一歩一歩の変革が必要だ。まずは、幹部が本社(内閣府)所属となり、徐々に採用も本社(内閣府)が一括して行う体制に、移行することが望ましい。その体制が定着すると、「省益あって国益なし」という問題が解決する。

3. 評価・報酬: 予算獲得・権限獲得を評価する人事評価を無くし、成果に応じた報酬体系を!

次に「評価・報酬制度改革」だ。

霞が関では、官僚機構が無謬性を求め、政策変更が出遅れることが多々ある。無謬性、つまり「過去の政策決定も含めて、霞が関の政策決定は決して間違ってはいけない」といった恐れが、迅速な政策変更を阻み、無駄な仕事や規制を増やしてしまっているのだ。

先の100の行動83 内閣府2<過度な規制を無くし、自己責任のルールを社会に浸透させよ!>においても記載したが、問題が起こると官僚の責任とされて、規制が強化されていく。すると経済活動が低下して、官僚の仕事が増える。悪循環だ。

官僚の能力を最大限発揮してもらうには、この無謬性へのこだわりを捨てられるようにする必要がある。1つのアイデアとしては、過去の政策決定や無作為などによって、肝炎訴訟のような問題が生じた場合においても、官僚個人の責任は一定程度免責する法の制定を行ってはどうだろうか。さもないと、官僚は、規制を強化する方向へと促され、誰にとっても無駄とわかる業務を増やすことになる。

そうやって、優秀な官僚が自らの判断で行動できる環境を整えた上で、適正な評価・報酬システムをつくることが必要だ。

(1)予算獲得・権限獲得・規制強化を評価する人事評価の撤廃を!

霞が関では、少ない予算で最大の政策効果を実現する人材ではなく、数百億、数千億円の予算を獲得し、問題なく使い切る人材が評価されるのが慣例となっている。退職後も含めて個別の省に所属し、「我が省の予算と権限」を拡大したことが評価されるのだから、うなずける。

この慣例を排除するには、既述の官邸主導の人事システムの強化や課長級以上の内閣府転籍に加え、エビデンスベースの明確な成果指標を作り、政策の成果主義による人事評価に、完全に切り替えることが必要だ。

衆議院議員の小泉進次郎氏は、規制や制度を撤廃した人を評価する評価・報酬制度を提案する。「構造改革特区の関係で養父市に行くと、様々な問題が見えてきた。養父市での日本酒造り酒屋での事例だが、年間3000kl以上作っている醸造所は、ネットで売れないのだと言う。小さい酒屋を守るための方策らしい。調べてみたら、これは法令ではなくて通達だと言う。公務員一人ひとりが、規制を強化することではなく、無駄な規制を撤廃することによって評価される仕組みとすべきだ」と指摘する。

(2)残業代をやめてホワイトカラーエグゼンプションを霞が関で先取りし、成果に応じた報酬体系とする年棒制の導入を!

次に報酬制度だ。日本の官僚の大半は、安い給料で長時間労働を強いられている。確かに、事務次官や局長まで出世すれば、給与は2000万円台に届くが、民間企業の経営者と比べればまだ低い。30代の霞が関の官僚の給与は数百万円、40代を過ぎて数年してやっと1000万円に届くかどうか、といった給与体系だ。これも長時間労働あっての対価だ。

この報酬体系を、抜本的に変えることが必要だ。高いアウトプットを出せる優秀な人材は、適正な報酬で評価してあげなければならない。まず、霞が関では常態化している長時間残業による残業代で給与を上乗せする仕組みをやめ、「ホワイトカラーエグゼンプション」いわゆる年棒制を霞が関で先取りして導入すればよい。残業代をやめる代わりに、能力がある人には高い年棒を提示するなど、成果に応じたメリハリがある報酬体系とすることが重要だ。

やはり、官僚の行動原理を変えるため、(1)予算獲得・権限獲得・規制強化を評価する人事評価をなくし、(2)成果に応じた報酬体系とする報酬制度改革を行うことが必要だ。そのためにも、過去の政策決定に関しては、(当然国は責任を負うが)官僚個人に関しては免責とする法制定が必要となろう。当然法令や意思決定ルールにそむいた場合には、厳しく罰さられるのが、あるべき姿であろう。

4. 人材育成: 徹底的な人材育成・官民交流を!海外研修、民間への出向を課長職以上のポストに就く条件とせよ!

(1)海外留学を!

 「公募制導入を含めた人事制度改革」と「評価・報酬制度改革」を行った上で、国家運営を担う霞が関の幹部となる人材への徹底的な能力育成も必要だろう。

このため、霞が関本省・本庁の課長級以上の管理職に昇級する条件として、2年間の海外研修を課すべきだ。実際、キャリア官僚の多くは人事院留学制度を利用して20代で海外留学を経験し、また、昨今民間への出向による人事交流も増えてきている。

(2)人材育成のために官民交流を! 

経済産業省では、キャリア官僚が公立中学校の校長先生に出向する人事交流なども行っているが、民間企業に加え、非営利民間セクター(学校、病院、介護施設、NPO等)などとの人事交流も含めて、例えば「官民交流の枠を現状の2倍にする」などの具体的な目標を定めるなどして、外部への出向による幹部候補の人材育成を行うべきであろう。

(3)勉強会への参加や外のネットワークから学ぶ機会を与えよ!

今の官僚は、経済界とのネットワークが弱く、薄い人間関係しか築けていない。それは、物理的に接触する機会が少ないからだ。これは、バブル期に財務省の官僚が銀行のMOF担にノーパンしゃぶしゃぶで接待漬けにされていたこと等が社会問題となり、「公務員倫理規定」が強化され、民間との接待の禁止、ゴルフに至っては割り勘でも禁止といったような行き過ぎた規制があるためだ。

たしかに賄賂、利益供与などは取り締まるべきだが、それは収賄罪などの別の法令で取り締まればよい。民間との交流を全般的に規制するのは明らかに行き過ぎで、官僚の情報収集やネットワーク育成に著しく弊害になっている。

民間企業でも行われているレベルの飲食等の交流は官僚にも可能にして、情報収集やネットワーク作りの機会を自由化すべきであろう。

5. ライフスタイル: 長時間労働撲滅のモデルケースとなれ!

霞が関で常態化している、深夜・早朝までに及ぶ長時間残業を根絶することが必要だ。霞が関の長時間残業の主要な要因は、よく知られるように、翌日の国会での大臣答弁等を作成するための「国会待機」だ。政治家からの質問の提出が遅くなり、質問提出を各省の関係者が待って、その後に各省で折衝する、といった一連の作業のため、大勢の官僚が深夜残業を余儀なくされる。 

これは、ルールで改善可能だ。これまでも何度も試みられては実現していないが、政治家からの質問の提出期限を厳格に定めるといったルールで改善できる。また、「セキュリティーを確保した上で、自宅での国会待機及び想定問答作成を許容するテレワークの導入」といった工夫も、無駄な長時間残業を減らす改善効果があろう。

さらに、国会の答弁対応ばかりでなく、必要以上に迫られる国会議員への説明も多い。日中の雑多な資料・説明要求も多数ある。1週間に10人もの説明が要求され、場合によっては、「資料を音読する以外に説明すべきことはない」といった単純な事実確認も多い。誰か(例えば、衆参議院の事務局)がまとめて対応することで、担当者は本業に注力することができるであろう。

6. セカンドキャリア: 良い天下りの実践とリボルビングドアの実現を!

官僚の天下りシステムは、官僚を安い給与で働かせ、事務次官まで上り詰める1人を除いては50代で肩たたきされる代わりに、定年後は、様々な財団や特殊法人で面倒を見るというものだ。優秀な人材を霞が関に集めてとどめておくために作られたシステムと言えるだろう。

しかし、そのために無駄な特殊法人等に税金が流れ、無駄な予算が消化されたりすることは許されない。天下りが国家にとって悪い点は、天下りによって無駄な財団や特殊法人が存続し、税金が無駄に消化される、また、省庁の所管の業界に天下りし、癒着が生まれる、といった点であって、それらの悪影響を生じさせないように規制すれば、天下り自体を禁止する必要は無い。

このため、省庁の独立行政法人等の業務の効率化、給与・退職金等の適正化、透明性の確保等を徹底した上で、天下りを前向きにとらえ、優秀な官僚のセカンドキャリアを積極的に有効活用すべきであろう。官僚出身者でも経済界で活躍している優秀な人材はたくさんいる。先に述べた官民交流の拡大や民間とのネットワーク作りを可能とする環境整備が進めば、官僚と経済界の健全なネットワークが構築されていくだろう。そういったネットワークを社会としてうまく使って官僚のセカンドキャリアを健全に活用する生態系を構築すべきだ。

このように、日本の優秀な官僚が、国益を考えて効率的に働ける環境を整える必要がある。そのためにも、上記「100の行動」を実践し、まずは国家レベルで改革をしてほしい。そのうえで、同じ改革を地方にも広げて欲しい。そうすることにより、日本全体の活性化が可能になる。

 

京都大学工学部卒、ハーバード大学経営大学院修士課程修了(MBA)。住友商事株式会社を経て、1992年株式会社グロービス設立。1996年グロービス・キャピタル、1999年 エイパックス・グロービス・パートナーズ(現グロービス・キャピタル・パートナーズ)設立。2006年4月、グロービス経営大学院を開学。学長に就任する。若手起業家が集うYEO(Young Entrepreneur's Organization 現EO)日本初代会長、YEOアジア初代代表、世界経済フォーラム(WEF)が選んだNew Asian Leaders日本代表、米国ハーバード大学経営大学院アルムナイ・ボード(卒業生理事)等を歴任。現在、経済同友会幹事等を務める。2008年に日本版ダボス会議である「G1サミット」を創設。2011年3月大震災後に、復興支援プロジェクトKIBOWを立ち上げ、翌年一般財団法人KIBOWを組成し、理事長を務める。2013年6月より公益財団法人日本棋院理事。いばらき大使、水戸大使。著書に、『創造と変革の志士たちへ』(PHP研究所)、『吾人(ごじん)の任務』 (東洋経済新報社)、『人生の座標軸』(講談社)等がある。

名言

PAGE
TOP