過度な規制を無くし、自己責任のルールを社会に浸透させよ! 

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初稿執筆日:2014年10月23日
第二稿執筆日:2016年7月8日


 「日本のマチュピチュ」と称される、天空の城、竹田城。CMでその景観の素晴らしさが取り上げられて以来、観光客が急増した。ところが昨年、雲海を見に来た男性が足を滑らせて約2メートル下に転落。腰の骨を折る重傷を負った。その後、「柵」論争が持ち上がり、結局観光客のために安全面が確保できていないという理由で、ロープで立ち入り規制区域が設けられた。確かに、事故の可能性は減ったかもしれないが、景観は損なわれてしまった。

 一方で、アメリカ・アリゾナ州北部にあるグランド・キャニオン。コロラド川がコロラド高原を刻んでつくった大渓谷で、深さは1200mだ。このグランド・キャニオンでは、主要な場所以外では柵はない。安全柵がないために、今でも時折転落事故が起こるようだが、自己責任の国アメリカでは、危険だから安全柵をつくるという考えにはならない。

 日本の観光地で事故が起こったら、テレビやマスコミは管理者の責任を追求し、「なぜ安全柵を設けなかったのか!」「危険を認識しながら「立ち入り禁止」の立て札を設置していなかったのか!」と轟々たる非難を浴びせるだろう。

 だから日本では、竹田城のように、前もってありとあらゆる事故防止策、事前規制を講じる。観光客=国民は、安全は公が担保するのを当然視し、個々人の自己責任意識が薄れ、危機対処ができなくなってしまう。

 こういった社会構造は事故防止だけでなく、日本の社会全体に対して当てはまるものだ。2014年10月に台風19号が接近した際のJR西日本の対応も同様だ。台風接近の前日に全面運休を決定した。ところが、関西地域に台風が到達したときには、威力が低下しており、JR西日本が全面運休する中、他の私鉄・地下鉄は問題無く運行していた。自治体の首長を含め有識者は、「全く問題なかったのに、あまりにも稚拙で安易な決定だった」と多くの批判の声を上げた。危機管理コンサルタントの田中辰巳氏は、「公共交通機関としての運行責任もある。路線によって危険性も異なり、すべて止めた判断はどうだったか」と産経新聞紙上で批判した。

 「安全・安心」の為に、すべてを規制するのが良いのか。また過度に安全面に舵を切って、本来の責任がおろそかになる状況をどう捉えるべきであろうか。現実の経済社会においてゼロリスクはありえない。また、リスクをゼロに近づけようとすればするほど社会的コストは膨大になる。規制を行う政府のコスト、規制に対応するための企業のコストは、税金や価格に転嫁され、結局は消費者が負担しているのだ。

 日本の消費者の安全を守るという消費者庁が設立されてから5年が経過した(2014年時点)。消費者行政を一元化する新組織を創設し、消費者行政に関する政府全体の対応力を向上させる点は評価しよう。

 しかし、消費者の安全は、政府のみに頼るのではなく、政府、企業、消費者が一体となって、担保すべきであろう。

1)政府が必要最低限のルールを策定して市場を監視し

2)ルールが曖昧な場合は、消費者と産業双方にとり良い方法を模索する。

3)企業はその社会的責任を認識し、徹底した品質管理と情報開示をして

4)消費者は自己責任で行動し、悪質な企業は淘汰する

といった健全な市場のサイクルによって担保されるべきであろう。では、政府、企業、消費者それぞれが進めるべき「行動」について論じたい。

1. 政府は、必要最低限のルールを策定して市場を監視せよ!事件のたびに過度な規制強化を行って社会コストを引き上げる愚を犯すな!

 日本では、一部の不届き者によって生じた消費者問題があると、マスコミや世論は行政の無作為を大いに批判し、官庁はここぞとばかりに規制を強化する、国民は政府の規制に過度に依存する、といった甘えの構造が根強く存在している。

 しかし、一部の心ない不届き者による不祥事によって過度に規制が強化され、それが企業の自由な活動を制限し、社会全体のコストを押し上げる愚を犯している。この現状は、日本社会にとっても日本経済にとってもマイナスでしかない。

 近年の事例でいえば、耐震偽装事件を受けた建築基準法の規制強化、旧カネボウの粉飾決算やライブドア事件を受けた金融商品取引法の規制強化、多重債務問題を受けた貸金業法の規制強化、悪徳商法を取り締まる割賦販売法の改正など、規制強化が相次いで行われた。

 たとえば、2005年の耐震偽装事件では、姉歯建築士という一人の不届き者が起こした事件のために、せっかく規制緩和で行われた「建築確認の民間開放」が揺り戻され、建築確認・検査制度の厳格化などの大幅な規制強化が行われてしまった。

 このため、規制強化後は新設住宅着工戸数が前年比で半分程度まで大幅に落ち込む官製不況も起こった。何よりも、民間でできることは民間で行い、検査の時間短縮・価格低下などによって、安い価格で家を提供するという規制緩和のメリット自体を喪失させてしまったのだ。

 また、2010年の貸金業法の規制強化では、借入金が多額に上り返済が不能となる「多重債務問題」の解決のため、金融業者の「上限金利の引き下げ(20%)」と「総量規制の導入(総借入残高が年収の3分の1を超える貸し付けの禁止)」が導入された。しかし、これによって、250万人ともいわれる多くの健全な資金需要者(短期の資金需要が旺盛な中小企業など)が消費者金融市場から排除されることになってしまったと試算されている。

 このほかに公共調達を巡る談合事件や贈収賄事件、介護報酬の不正請求、自動車リコール隠しなどといった事案を並べてみても、一部の不届き者が善意の第三者を脅かし、損害を与えたケースばかりだ。

 一部の悪質な企業を排除するための規制が、他の多くの企業の事業展開に悪影響を与えたり、一部の消費者を保護するための規制が、他の多くの消費者の不利益となったりする。結果として、社会全体のコストを増大させる(行政コストの大幅な上昇=税金の上昇、企業の提供する財・サービスの価格上昇)ことはマイナスでしかない。

 行政は、最小限で公正な規制を整え、監査、違反是正、処分等の事後的規制に徹するべきだ。

 このため、消費者規制に関しては、既存の規制も含めて不断に検証し、社会全体のコストを最小限にする合理的かつ現実的な規制体系とすべきであろう。規制は最小限に抑え、問題が起こった際には、事案をスピーディに把握し、一部の不届き者を厳罰に処し、迅速な原因究明と再発防止が可能となる体制を確立させることが重要だ。

2. 消費者庁は、消費者の声を業界に反映する橋渡し役となり、産業を健全化し、育成する役割を果たせ!

 2012年のコンプガチャの事例は、消費者庁が消費者の声を上手く業界に反映させ、業界も迅速に対応することで、消費者に安心を与え、消費者も産業も守ることができた、成功事例であったと言えよう。

 スマホのゲームでは「コンプガチャ」というサービスが大流行していた。オンラインゲーム内で「ガチャ」と呼ばれる有料のくじで得られる特定のアイテムをすべてそろえる(コンプリートする)ことで、レアアイテムを得られる仕組みだ。コンプガチャは、ソーシャルゲーム各社の大きな収益源になっていたが、未成年が1回数百円の「ガチャ」を何十回もクリックし、10万円を超す料金請求を受ける利用者が続出したことで社会問題化した。このため、消費者庁は2012年5月、コンプガチャが景品表示法に違反する疑いを指摘し、それを受けて、ソーシャルゲーム会社は一斉にコンプガチャの廃止を決めた。

 その後、消費者庁は、7月から運用指針を改定してコンプガチャを景品表示法の規制対象にする方針を明らかにした。一方、ゲーム会社は、未成年から徴収した課金をすべて返済する対策を講じた。

 もしも消費者庁が、コンプガチャが景表法に違反するといった判断を下したとすれば、それまでのソーシャルゲーム各社の売り上げは違法だとして、返金訴訟等で莫大な額の返金を、業界各社が迫られる可能性があった。運用基準を改定した後から規制対象とすることで、運用基準改定前については違法認定をしないという判断になり、消費者庁は適切な措置を講じつつ、ゲーム各社が存続できる道を開いたのだ。

 業界側も迅速に対応し、消費者庁の指摘を受けて一斉にコンプガチャから撤退、利用者にとって安心な利用環境を目指すための団体を発足させ、ガイドライン策定など安全利用のための取り組みを始めた。これによって、コンプガチャは無くなったが、ソーシャルゲームは今でも繁栄し、日本が世界とも戦える成長産業の一つになりつつあると言える。

 消費者庁にとって必要なことは、業界を叩き潰すことではなく、産業を健全化していくことで消費者の利益を与え、事業者が「社会の要請に応える」という意味のコンプライアンス対応を行うよう支援することだと言えよう。

 このように、問題が起きた際に、産業団体や関連企業と問題を真摯に議論し、国に規制されるよりも先に自主的な問題解決手段を提示するような姿勢をもっと期待したい。

 消費者庁としては、問題が国会で糾弾された際、現に被害者が出ているにもかかわらず(かつ、そうした権限が法律上あるにもかかわらず)、「企業と消費者との問題」と突っぱねることは組織上難しい。

 業界団体や関係企業が率先して検討を行うのであれば、国会で「国として対応すべきではないか」と厳しく問われた際も、「まずは自主的な取り組みの議論の推移を見守りたい」と答えることにより、乗り切る余地も出てくるであろう。

 政府・消費者庁は、消費者の声を業界に反映する橋渡し役となり、業界を健全化することで産業を育成する役割を担うべきであろう。そういう意味でも、このコンプガチャの事例は、消費者庁にとって、消費者にとっても成功事例であったと言えよう。

<企業がすべきこと> 

3. 企業はその社会的責任を認識し、徹底した品質管理と情報開示を!

 中国製の冷凍餃子に毒物が混入されていた事件からアグリフーズの冷凍食品への農薬混入事件まで、消費者にとってショッキングな事件が後を絶たない。近年、我々消費者が最も怖い思いをしているのが、食品偽装などの事件の連発であろう。

 特に、マクドナルドのチキンナゲットに使われていた鶏肉が中国の食品加工会社「上海福喜食品」で極めてずさんな扱いをされており、かつ、使用期限切れの鶏肉が使われていた事件は、記憶に新しい。

 日本マクドナルドはこの事件のために顧客の信用を失い、同社の売り上げは事件発覚後2割以上落ち込んだ。7月の事件発覚を受け、同社か輸入業者が8月以降は毎月、現地を訪ねて基準通りの作業になっているか確認するという。逆に言えば、これまではそのチェックを怠っていたということだ。

 実際、中国製のデザート商品とタイ製の鶏肉商品は、今後、日本到着のたびに細菌検査を実施するというが、これまでの検査はデザート商品が不定期、鶏肉商品は3カ月に1度だったという。 

 日本マクドナルドのCEOは会見で「だまされた」と語ったが、不正行為を見抜けなかったのは自社の責任であり、本当にだまされたのは消費者のほうだろう。

 政府は2008年の毒入りギョーザ事件を受けて、輸入加工食品の自主管理に関する指針を作成している。指針に従えば、輸入者は契約時に工場を立ち入り検査するとともに、原材料の受け入れ段階において確認が行われていることになっている。

 エンドユーザーに食品を提供する企業は、輸入品に限らずだが、製造工程における適正管理・安全確保のための検査を、責任を持って行う必要がある。改めて企業にその責任意識を啓蒙する必要があろう。

 本来、消費者は、企業にとって顧客であり、その声に真摯に耳を傾け、その満足度を高めていくことは、企業活動そのものだ。そうした企業が市場での健全な競争を通じて、優れた商品やサービスを顧客に提供し、適正な収益を得て発展していく。それこそが自然な資本主義社会の姿である。

 しかし、一部の不見識な企業によって、消費者の信頼を損なえば、その企業だけでなく業界全体にも大きな不利益を与える。さらに、消費活動自体を委縮させることになってしまう。当然ながら、虚偽の行動をとった企業は、市場から即座に退場させるべきだ。

 企業は徹底した情報開示を主体的に行い、透明性を高めることで、消費者に判断できる材料を提供する必要がある。情報開示は、信頼醸成のための最も重要な施策だ。そのため、企業は日頃から消費者とのコミュニケーションをとり、継続的に信頼を醸成する努力が必要であろう。 


<消費者がすべきこと>

4. 消費者は、政府への過度の期待を持たず、賢明な消費者となれ!

 現代は消費者が主役の時代である。消費者は、その消費行動を通じて、企業を育てもするし、潰しもする。ましてや、今やブログ、ツイッター、フェイスブックなどの直接的に発信できるメディアを活用できる時代となった。今や、消費者は弱者ではなく、資本主義社会の強者でもある。賢明で確かな選択眼を働かせることで、企業を選別することが可能となった。

 消費者が賢明になり、適切な選択行動をとることで、悪質な企業は淘汰する、という健全な市場のサイクルを作りだすことができる。我々消費者も不断の努力によって賢明な消費行動をとっていきたい。

 そして、不満があれば、政府に頼るのではなく、ネットを使って発信するのが、最も健全な方法であろう。そのネットの発信によって、企業の不正、商品の欠陥、サービスの問題が社会に広がって行く。そのクレームを目にした企業担当者が、迅速に消費者とコミュニケーションをとり、適切に対処する。「強くて賢い消費者」に鍛えられた企業が、さらに良い商品とサービスを生み出していくのだ。

 政府に頼ると、マスコミが騒ぎ始め、必要以上に社会問題化し、規制が強化され、産業界のコストが上がり、結果的に消費者が損をするのだ。

 現実の経済社会においてゼロリスクはありえない。また、リスクをゼロに近づけようとすればするほど社会的コストは膨大になる。規制を行う政府のコスト、規制に対応するための企業のコストは、税金や価格に転嫁され、結局は消費者が負担しているのだ。
(筆者注:この行動でも、「マスコミに望むこと」の項目を入れるか考えたが、それは100の行動6<メディアに望むこと>に委ねることにした。)

 一部の企業による隠蔽や不祥事→消費者の不安増大→政府の過剰規制と官の権限拡大 →企業の過剰反応→社会的コストの増大、というような負の連鎖を起こさないためにも、この行動で論じてきた通り、 

1)政府が必要最低限のルールを策定して市場を監視し

2)ルールが曖昧な場合は、消費者と産業双方にとり良い方法を模索する。

3)一方、企業はその社会的責任を認識し、徹底した品質管理と情報開示をして

4)消費者は自己責任で行動し、悪質な企業は淘汰する

という健全な市場のサイクルによって担保されるべきだ。

 つまり、政府・消費者庁、企業、消費者がそれぞれの立場で行動し、安全で良質な市場を実現することが重要だ。それが日本的な、社会の和・協調性を重んじる消費者行政の在り方だと思う。

 


 

京都大学工学部卒、ハーバード大学経営大学院修士課程修了(MBA)。住友商事株式会社を経て、1992年株式会社グロービス設立。1996年グロービス・キャピタル、1999年 エイパックス・グロービス・パートナーズ(現グロービス・キャピタル・パートナーズ)設立。2006年4月、グロービス経営大学院を開学。学長に就任する。若手起業家が集うYEO(Young Entrepreneur's Organization 現EO)日本初代会長、YEOアジア初代代表、世界経済フォーラム(WEF)が選んだNew Asian Leaders日本代表、米国ハーバード大学経営大学院アルムナイ・ボード(卒業生理事)等を歴任。現在、経済同友会幹事等を務める。2008年に日本版ダボス会議である「G1サミット」を創設。2011年3月大震災後に、復興支援プロジェクトKIBOWを立ち上げ、翌年一般財団法人KIBOWを組成し、理事長を務める。2013年6月より公益財団法人日本棋院理事。いばらき大使、水戸大使。著書に、『創造と変革の志士たちへ』(PHP研究所)、『吾人(ごじん)の任務』 (東洋経済新報社)、『人生の座標軸』(講談社)等がある。

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