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「出版社が旅館経営」の理由とは? —地域のワークスタイルを革新するメディアの挑戦

投稿日:2014/10/07更新日:2019/04/09

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「住む場所」「働く場所」を自分で選ぶ人々が現れている。

この夏、あるブロガーが東京から地方に移住することがネットで話題になった。個人ブログで広告収入を得て、好きな地域に住み、情報を発信する。ソーシャルメディアやテレビ会議、クラウドソーシングの普及が、そんな働き方を後押ししている。

地域にとっては、無数の個人メディアを取り込むことで、発信力のアップにつなげることができる。彼らが気に入った観光地や店をソーシャルメディアで紹介することで、その友人やフォロワーに伝播していく。

個人が影響力のあるメディアとなって、ワークスタイルやライフスタイルを変えていく。そんな動きの中で、既存メディアはどのように変わっていくのだろうか。

疑似体験を提供する「雑誌」 << 実体験を提供する「旅館」

雑誌「自遊人」は、東京から新潟・南魚沼に編集部を移転。2014年には旅館「里山十帖」をオープンした。リノベーションした築150年の母屋と12の客室。雑誌づくりのかたわら、編集部員たちが山で山菜を摘み、厨房に入って腕を振るう。丹精を込めてつくったコシヒカリを土鍋で炊いてもてなす。

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なぜ、雑誌編集部が宿を経営するのだろうか。

「宿は、雑誌に替わる大きな可能性を持つメディアだと思うからです」と、「自遊人」編集長の岩佐十良氏は言う。

宿では新潟産の素材を使った食事を提供する。魚沼産コシヒカリ、日本海の魚、和牛、地元産の野菜、春は山菜、新潟ならではの銘酒の数々。宿泊客は宿を訪れ、新潟ならではの食や文化を体感する。館内にはセレクトショップをオープンし、気に入ったものは購入できる。国内外のアーティストと組み、宿を拠点にアートの発信を行なう。建築家やデザイナーを招いたトークイベントやワークショップも開催する。

「もしも『里山十帖』が気に入って訪れてくれるお客様が1万人いらっしゃったとしたら、それは100万人の購読者を持つ雑誌よりも、強いメディアになる可能性があります」(岩佐氏)

雑誌では文章と写真を通じて、読者に疑似体験を提供する。しかし疑似体験は、あくまでも実体験には敵わない。宿に足を運んで、全身で体感してもらう。インターネット全盛のバーチャルな時代だからこそ、リアルなメディアとしての宿が大きな可能性を持つ。現実の世界で感じた感動や体験こそが、説得力を持った情報として、個人のネットワークに広がっていく。ソーシャルメディアは、あくまでも体験を伝えるインフラに過ぎない。インターネットというインフラのおかげで、メディアはテレビや雑誌などのバーチャルな場から、リアル世界に移りつつあると岩佐氏は考える。

「なぜ自分は東京にいるのだろう?」

もともと「自遊人」編集部が、東京・日本橋から南魚沼の地に移転してきたのは、2004年のことだった。その理由を岩佐氏はこう語る。「僕らの価値観が、東京には見いだせなくなったからです」。

「自遊人」は当時、ライフスタイルやエコロジーをテーマとした雑誌として、小学館「サライ」に次ぐ2位の発行部数を誇り、広告収入は順調に伸びていた。「本物の旅と食を追求する」を雑誌のコンセプトに掲げ、美味しい店を探訪する。岩佐氏の食費は多い時で月に数十万円にのぼったという。 「でも、豊かだという満足感は、どんどん薄れていきました」。

仕事柄、一流レストランを食べ歩くが、満足度は比例しない。目の回るように忙しい日々が続き、運動不足になり、ストレスがたまっていく。「なぜ自分は東京にいるのだろう」という思いは、日増しに強まった。

2002年に開設したオンラインショップでは、魚沼産コシヒカリを中心としたこだわりの米の販売を始めていた。魚沼を訪れるたびに惹かれ、やがて移転を決めたのは、自然な選択だった。

オフィスの目の前は「大月ほたるの里」という自然公園。夏の夜、窓を開け放して仕事していると、ホタルが迷い込んでくる。水がおいしい。空気が澄んでいる。何よりも、季節が毎日移ろっていくことを感じながら生活できる。会社の仲間たちと田んぼを耕し、オフィスでみんなで食事する。東京に戻る理由が見当たらなくなっていった。

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地域の豊かさ、魅力、価値をリアルに伝える新たなメディアミックス

オンラインショップ「Organic Express」では、「自遊人」の目利きならではの選りすぐった各地の名産品を紹介している。新潟の米はもちろん、昔ながらの手法でつくられた醤油や味噌、野菜や海産品、菓子、うつわなど、こだわりの逸品が並ぶ。流通量は少ないが丹精込めてつくられた逸品。その魅力を雑誌で紹介すると共に、販売チャネルをつくることで、生産者へのささやかな経済的支援をしたいという思いもある。

「雑誌」「オンラインショップ」「宿」という3つの場が、リアルを伝えるための新しいメディアミックスになった。それらを通して「自遊人」が発信するのは、自らが遊び実践する地域暮らしの“豊かさ”であり、新潟の“魅力”であり、日本各地の食や文化、観光という資本が持つ本当の“価値”である。

雪国ならではの魅力を国内外に発信したい。そんな思いから岩佐氏は、新潟県・群馬県・長野県の広域にわたり生産者や飲食店、旅館が発信する「雪国A級グルメ」のプロデュースも手掛ける。

既存メディアによる新たなメディアミックス。その挑戦は、多様なワークスタイルと豊かなライフスタイルを生み出し、地域変革の原動力となろうとしている。

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里山十帖ロビー

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