分かる範囲の数字で推計 

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何回かにわたってデータ分析の方法についてみてきた。今回は必要なデータを統計などから、直接入手できない時はどうするのかということを考えていこう。

日本は世界でも、最も正確、多様な統計データが存在する国の1つではないかと思われる。政府、自治体、業界団体、企業、NPOなどが信頼できる様々なデータを出している。「政府統計の総合窓口」などは本当に充実したサイトになっている。今回のテーマから少し脱線してしまうが、こうしたサイトをしっかり使いこなせるかどうかも、とても重要なビジネススキルである。

しかし、様々な立場の人が必要とするデータ全てが入手可能なわけではない。特に全く新しいビジネスを始めようとする際には、「推計」という手段に頼らざるを得ない場合も多い。

推計という考え方の代表例が物理学者のエンリコ・フェルミ氏に由来する「フェルミ推定」と呼ばれるものだ。実際に統計データがなかったり、調査するのが難しかったりする数値を、入手可能なデータ項目からなる「論理式」として表現し、簡易に推計する方法を言う。

ここで簡易にという意味は、正確なデータが分からない状況下で、あまり時間をかけ過ぎず、ラフにできる範囲で=クイック&ダーティーで推計するというイメージだ。使うのはA4の紙1枚と、基礎となるデータを収集するパソコン程度だ。

フェルミ氏はシカゴ大学の学生に、「アメリカのシカゴには何人のピアノの調律師がいるか?」を推計せよという問題を出したとされている。この問題を、「日本の首都圏には何人のピアノ調律師がいるか?」という問題に置き換えて、フェルミ氏が提示した推計方法を少し改良した方法で推計してみよう。

(1)首都圏の2人以上世帯数は約1000万とする、(2)2人以上世帯の全国のピアノ普及率が25%とする、(3)ピアノ1台の調律は平均して1年に1回実施することとする、(4)調律師が1日に調律可能なピアノの台数は3台とする(1台あたり2時間)、(5)調律師は週休2日とし、年間に約250日働くとする。

そして、これらの仮定を基にして、次のように推論する。

(6)首都圏でピアノの総数は1000万の25%=250万台程度、(7)ピアノの調律は年間250万件程度実施される、(8)1人のピアノの調律師は1年間に250×3=750台程度を調律する、(9)よって調律師の人数は、250万/750=3333人程度。

「中学生のための仕事発見ガイド」(実業之日本社)によると、ピアノ調律師で生計を立てている人は全国に6000人程度とあるので、首都圏の人口を考えると3333人というのは、比較的よい推計ができているといえるのではないだろうか。推計する場合、まずは桁があっているかどうかが重要になる。

「統計データがないから」「直接調べた数字がないから」分からない、と言いがちだ。知りたいが分からない対象を、誰にでも分かるロジックに落とし込み、分かる範囲の数字を当てはめていくことから推計するという姿勢、方法論を身につけておく。このことの意味は大きい。

フェルミ推定をしていくプロセスのなかで、仮説が立ったり、検討していること自体に対する理解が深まるなどの副産物を生む場合も多い。

ぜひ、この推計するということにチャレンジしてみていただきたい。

 

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※この記事は日本経済新聞2013年9月18日に掲載されたものです。
(Coverphoto:shutterstock/Ismagilov)

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