アイ・ケイ・ケイ(4/4) -弛まぬ革新の土壌を築いた理念経営 

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佐賀から九州そして全国へと展開し、東証一部上場を果たしたアイ・ケイ・ケイ。これまで見てきた通り、その成長の根底には理念経営があった。規模を追求する競合がひしめく大都市を避け、長期的に勝算が見込める場所に進出先を厳選。それぞれの地域特有の顧客ニーズに細やかに対応できるよう、理念の共有を通じて、顧客フロントの営業やサービス職の人間だけでなく、職人気質の強い調理や衣裳といった専門スタッフを含めた協力連携を促した。また理念を語る役割を与え、経営者として育成した人財に、社長の分身として進出先の拠点のマネジメントを任せていった。今回は本事例の総括として、同社からの学びのポイントを、特に理念の浸透の秘訣という観点から整理してみたい。

理念は半歩先が丁度いい〜CSとESの好循環

理念を掲げている会社は多数存在するが、ビジネスとして売上利益が継続的にあがってこそ持続成長できる企業として評価される。いかにして理念を業績に繋げられるか。「はじめから確信があったわけではない」とインタビューで金子社長は話していたが、ここまでは上場企業になるまでに理念と業績の連動を実現してきた。理念だけが先に行き過ぎても絵空事になってしまい、理念が浸透しないまま成長軌道に乗ると売上至上主義になりかねない。「理念は半歩先が丁度いい」(金子社長)というバランスで、理念と業績を両立させているところは、同社の経営から学ぶ点として見逃せない。

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一般にサービス業においては、理念が機能していると従業員のモチベーションを高め、それが高い顧客満足度を実現し、売上の拡大に結び付くとされる。さらに売上増が従業員の報酬や労働環境の改善に還元されれば、それにより一層のロイヤリティとモチベーションが従業員から引き出され、顧客サービスの向上へと繋がっていく。いわゆる顧客満足度(CS: Customer Satisfaction)と従業員満足度(ES: Employee Satisfaction)の好循環が生まれるのだ。
※このような考え方を「サティスファクション・ミラー」と呼ぶ

実際、アイ・ケイ・ケイは、顧客満足度日本一をビジョンとして掲げており、ESも極めて高い水準にある。今回の取材で数多くの社員の方々に接する機会があったが、驚いたのは、インタビューした全員が異口同音に「上司を尊敬し、同僚や部下を信頼している」と話してくれたことだ。前々回に触れた通り、理念の共有や勉強会での対話を通じ相互信頼の土壌ができており、一般の会社で見られるような上司や同僚に対する不満、内向きのストレスが極小化されている。同社では「自分以外はすべてお客さま」と理念に定められていることが実践されている証といえよう。

こうした相互信頼の文化は、外部機関のサーベイでも高く評価されている。Great Place to Work(R) Institute Japanが実施している2014年「働きがいのある会社」調査において、アイ・ケイ・ケイは従業員100〜999名の企業カテゴリーで第11位にランクされた。トップ10入りは逃したものの、同社のESの高さを反映したものだ。

合わない人は無理やり引き留めない 〜理念が機能するための整合的な仕組み

高いESは、同社の人事の仕組みの賜物でもある。前々回も触れた通り、彼らの戦い方に整合した仕組みが理念経営を支えているのだ。すなわち、顧客から人生の一大イベントであるウェディングを任せたいと思ってもらえるよう、あらゆる顧客接点で細やかな気遣いができるホスピタリティにあふれる人財を採用、育成する。その中からチームの総合力で満足度の高いサービスを実現できるリーダーを抜擢し、マネジメント力を鍛え、新規出店拠点を任せていく。とりわけ最も注力しているのが採用だ。

同社の採用は人物重視だ。適性検査と複数回の面談を繰り返す中で、裏表のない素直な人物かを見極める。これが「お客さまの感動のために」という理念を受け入れ、顧客を含む周囲の人々と信頼関係を築き、さまざまな工夫を重ね、サービス革新に取り組めるかどうかの大前提なのだ。 毎年約2000名の応募者の中から60〜70人を採用している。それだけのプロセスを経て入社しているだけに、この人と一緒に働きたいと思えるような魅力的な社員が揃っており、それを理由に就職を希望する人も多い。

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実際、就職ランキングでアイ・ケイ・ケイは、九州でトップ5に入る人気企業になっている(マイナビ九州エリア「2015年卒就職企業人気ランキング」)。応募者も増えているが、安易に採用数を増やすことはせず、基準を満たす人財がいなければ、たとえ予定数に達していなくても妥協して数合わせをするようなこともない。自社に適した人財を厳選し、理念をベースにしっかりと育成していくスタンスは揺るぎない。

このスタンスは、新規採用の場面だけに限らない。初期に厨房のシェフが辞めてしまった例に表れているように、理念に合わない人がいたときは(仮にその他の部分で優秀でも)「無理やり引き留めない。合ったところを見つけてもらった方がお互いに幸せになれる」と明快に割り切っている。

加えて、営業支援システムをはじめ、勝ち方のノウハウを蓄積し、経験が浅くても成果を出せるような手厚いサポート体制があることは連載第1回で触れた通りだ。そうした仕組みの上で社員は、理念を実践すれば成果が上がり、成果があがることで利益実感が得られ、より一層理念の実践を心がけるのだ。

理念を無意識に実践できる段階には、まだまだ 〜トップの本気度が理念徹底の原動力

こうした仕組みをはじめとして、同社では理念浸透のための取り組みをさまざまな形で行っているが、インタビューで金子社長は「まだまだだ」とコメントしていた。社長自身が目指す基準が高く、またその評価の対象がまず自分自身に向けられているのが印象的だ。同社で理念経営が徹底されている最大の理由がここにある。つまり同社の理念は従業員に向けて浸透させるものである以前にトップ自身が自ら追求すべき理想なのだ。

先代から引き継いだホテルを二代目として経営していた頃から考えていた個人の想いを、組織として掲げるに相応しいものとして昇華させたのがアイ・ケイ・ケイの理念となった。それだけに一言一句に個人の想いが色濃く反映されているものであり、まず自分が体現したいと強く思っている。

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金子社長の考える経営の目的は、理念の実践=人間的成長だ。一部上場企業のトップとなった今でも贅沢な生活とは無縁だ。私財を投じ、若くして逝去した兄の名をつけた「人志(ひとし)奨学基金」を設立し、経済的理由で修学困難な高校生の支援活動もしている。一方、理念に反する姿勢の社員の指導では妥協しない。自分の成績さえよければという利己的な人間は評価しない。「自分は何か誇れるものとして人と理念を遺したい」というコメントの通り、組織的に目指すことの実現に向けては並はずれた意欲を持ったリーダーなのだ。

ハーバード・ビジネススクール教授のビル・ジョージは、著書『ミッション・リーダーシップ−企業の持続的成長を図る』(梅津祐良訳、生産性出版、2004年)の中で、本物のリーダーが備えるべき5つの資質として、・自らの目的をしっかり理解している、・しっかりした価値観に基づいて行動する、・真心をこめてリードする、・しっかりした人間関係を築く、・しっかり自己を律する を挙げている。金子社長の信奉する経営哲学は松下幸之助氏や稲盛和夫氏から学んだものとのことだが、洋の東西を超えて、相通じるものがあると言えそうだ。

偉大な企業(Great Company)への飛躍

ウェディングサービスに求めるものは、地域によっても顧客の年齢層や嗜好によっても実に多様である。アイ・ケイ・ケイは、その多様なニーズに真摯に向き合い、それぞれの地域の人々に愛され続けることを目指し、「お客さまの感動のために」弛まぬサービス革新を愚直に続けている。そうした弛まぬ革新が可能なのは、理念の共有によって築かれた信頼の文化がベースにあるからだ。

今回の事例を取り上げるにあたって、筆者にはある本で描かれている組織の特徴を仮説としてもっていた。それはジム・コリンズの著作シリーズの中でも評価の高い『ビジョナリー・カンパニー(2)飛躍の法則(Good to Great)』に描かれている偉大な企業(Great Company)の条件だ。自分たちの戦い方を慎重に見定め、フォーカスを絞りこみ(針鼠の概念)、愚直にやるべきことを徹底する(弾み車をまわす)。理念に基づく厳格な人事、特に人物重視の採用(誰をバスに乗せるか)では妥協しない。率いている経営者は、私欲なく謙虚だが組織としての理想の追求には貪欲なリーダーだ(第5水準のリーダーシップ)。同社の組織運営はこれらの特徴に符合している。佐賀の地方企業から全国区の一部上場企業へと成長し、世界一のウェディング企業を目指すアイ・ケイ・ケイが、「偉大な企業」としてさらに飛躍を果たすことを期待してやまない。

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