アイ・ケイ・ケイ(3/4) -理念経営に懸けたトップの想い 

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佐賀から九州そして全国へと展開し、東証一部上場を果たしたアイ・ケイ・ケイ。カスタマイズされたウェディングという成長中の市場において、自社の強みを活かせる地域に絞って出店する——ある意味で教科書通りの競争戦略を着実に展開できた裏付けとして、他社が容易に真似できない「自社の強み」を築き、それを各地へ展開する際にしっかり複製できたことが見逃せない。そこには、同社が全国展開を本格的に進めるタイミングで導入した理念経営が大きく寄与しているように思われる。

トップはどんな考えを持っていたのだろうか。規模を拡大していくために、理念を共有した自分の分身をつくろうと腐心されたのではないかと想定して取材にあたったが、実際に聞けた話は、いい意味で期待を裏切り、理念経営の本質が伝わってくるものだった。

今回は理念経営に懸ける金子和斗志社長の想いを、インタビュー形式でご紹介する。

経営の目的は金儲けではない —理念経営導入の動機

29561 金子和斗志氏

竹内:金子社長はどうして理念経営を本格的に導入しようと思ったのでしょうか。

金子和斗志氏(以下、敬称略):理念経営を掲げる以前から、経営にあたって自分で大事にしたい信条のようなものはありました。「金を追うな、お客さまを追え」とでもいうのでしょうか。お客様に喜んでもらうこと、社員が幸せになることを大切にしたいと考えていました。経営の目的は金儲けではありません。それを会社の確固たる理念として掲げたいと思ったのです。社員はトップを見ています。トップの考えがわずかでもブレると、現場は大きく混乱します。組織が大きくなれば、その振れ幅は何倍にも大きくなります。佐賀の地方企業から脱皮し会社がより大きく成長する段階で、経営のあり方を確固たる理念として示したい。私は学歴も何もない人間ですが、何か誇りのもてるものを遺したい。それは人と理念だと思ったのです。

竹内:先代から伊万里のホテルを継がれた頃からそうした経営観をお持ちだったのですか。

金子:私は商売人の家で育ったので、物心ついた時からビジネスには興味がありました。小学校の作文で「スーパーマーケットチェーンを経営したい」と書いたぐらいです。経営者の手本として松下幸之助氏もその頃から信奉しています。

竹内:もともと「こんな経営をしていきたい」というお考えをお持ちだった。ただご自身の個人としての信条にとどまっていたので、それを組織として全社員で共有できる理念に進化させ、世に示したいと考えられたわけですね。

全ての人がこの理念を受け入れるとは思っていない —あくなき理想の追求

竹内:一方、理念を社員と共有しようとすると、中には価値観を強要されることに反発する人も出てきたのではないかと思います。厨房のシェフが辞めていったという話もお聞きしました。そのような摩擦に直面しても理念経営に踏み込むことへの躊躇はなかったのでしょうか。

金子:それは全くありません。私はこの理念に従って経営をしていくと決めたのです。全ての人がこの理念を受け入れてくれるとは思っていません。合わない人もいるでしょう。そういう人は、無理やり引きとめるよりも、その人に合ったところを見つけてもらった方がお互いに幸せになれると思います。

竹内:理念を受け入れられる人財を採用時に丁寧に選び、入社後は、朝礼・昼礼・終礼、社員研修や勉強会など、折に触れ、理念に関し、各人が考え対話する機会を設け、評価や昇進にも理念の実践度を反映しておられる。外の目から見ると、御社では理念を相当なレベルで徹底されていると思います。社長ご自身は、御社での理念の浸透度をどのように評価されていますか。

金子:「まだこれから」だと思っています。私は、稲盛和夫氏の主宰する盛和塾で理念の浸透には3つの段階があると教わりました。第1段階は、理念を知識として理解する段階です。第2段階は、それを業績に結びつけられる段階。そして第3段階は、理念を無意識のレベルで実践できる段階です。疲れている時、苦しい時でも、理念を当たり前に実践できている状態です。私自身がまだ第3段階を目指して努力している最中です。第2段階の社員が3〜4割ぐらい。大半は第1段階から第2段階ではないでしょうか。

竹内:社長ご自身としては「まだまだ満足していない」と。とはいえ、理念経営の実践によって御社は東証一部上場の企業にまで成長を遂げてきたわけですから、それなりに手ごたえを感じておられるのではないですか?

金子:理念経営を導入した当初、これで業績を上げられるのか、正直なところ半信半疑でした。ただ取り組みを続けているうちに、全国展開にも成功し上場も実現でき、ようやく確信が持てるようになってきたところです。

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海外の人びとの手で、日本流のおもてなしのサービスを実現する —これからのビジョン

竹内:これからの事業展開に関し、金子社長はどのようなビジョンをお持ちでしょうか。

金子:2つのビジョンがあります。国内のウェディング事業は10年後に売上高300億円、現在の倍の規模に成長させたいと思っています。質的にも革新を続けていくべく社内に「感動創造部」を設置し「お客さまの感動のために」を実現するための新たなアプローチの研究をはじめたところです。もう1つは海外展開です。「世界一のウェディング企業」となることを目指し、アセアン地域への進出可能性を検討しています。

竹内:海外でも御社の理念経営は通じるのでしょうか。

金子:日本人にもいろいろな考えの人がいます。全員が我が社の理念を受け入れるとは限りません。その中でわれわれが採用するのは理念に共鳴できる人だというだけです。海外に行けば、日本よりも共鳴する人の比率は減るかもしれませんが、必ずいるはずです。現地の人々に対し、現地の人々の手で、日本流のおもてなしのサービスを実現する。簡単には見つからないかもしれませんが、そういうことができそうな人を見つけて採用する仕組みがつくれるかがチャレンジだと思っています。

竹内:御社の教育理念に「国籍・性別・年齢・経験に関係なく、意欲ある人財(ひと)に投資します」とある通り、日本人だけでなく世界中の挑戦意欲に溢れる人にとって、今後益々チャレンジングな機会のある会社になりそうですね。

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それぞれの地域で愛される存在になりたい —将来のアイ・ケイ・ケイを担う人へ伝えたいこと

竹内:最後に、これから御社への就職を希望している採用予備軍の人たちも含め、将来の御社を担う人たちに、金子社長はどんな想いを持って働いて欲しいとお考えですか。

金子:はじめからやりたい仕事が明確でその仕事に就ける人は、ほとんどいないと思います。大多数の人は、たまたま巡り合った仕事に向き合う中で働く意味を見出していくのではないでしょうか。仕事には矛盾はつきものです。大切なのは、目の前の仕事の困難から逃げずに仲間と一緒に乗り越えていくことです。そうする中で人間力を高めていくことができるのです。それが人生なのです。

私が全国の拠点をまわって常に話していることがあります。それは「その地域のお客様のことを第一に考えて欲しい」、ということです。たとえば盛岡のお店なら盛岡のことを、富山のお店なら富山のことを考えて欲しいのです。九州のアイ・ケイ・ケイのことではありません。私が先代から経営を継いだ時、伊万里で最高のおもてなしができる場所として地元の人たちから愛される結婚式場をつくりたいと思いました。お店を出したそれぞれの地域で愛される存在になりたい。それは将来世界へ展開するようになったとしても同じです。

竹内:矛盾と向き合い乗り越えていくことを通じ、仲間と共に人として成長していくことに仕事の意味があり、進出先の地域で愛され続けてこそ企業としての存在意義がある。理念の実現こそ仕事そのもの、ということですね。本日は貴重なお話を聞かせて頂き、ありがとうございました。
次回は本事例の総括として、アイ・ケイ・ケイの事例から学べることをまとめてみたい。

「アイ・ケイ・ケイ(4/4)—「弛まぬ革新の土壌を築いた理念経営」はこちら

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