マイナンバー制度を活用し、スマホとカード1枚で手続きを全て可能に! 

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初稿執筆日:2014年6月20日
第二稿執筆日:2016年5月19日

 僕は、既に数十回も区役所や出張所を訪問してきた。

 住民票を取得する、戸籍謄本を印刷する、印鑑証明を取りに行く。引っ越したら住民票を届けて、戸籍を移したら手続きを済ませ、結婚したら結婚届けを出し、子供ができると出生届を出す。そしてゆくゆくは社会保険の受給等の手続きがある。こうやって、人生のうち、僕たちが行政手続きに費やす時間は合計数百時間に及ぶかもしれない。この時間は何も生み出さないまったく生産性のない時間だ。この貴重な時間を一気に短縮する可能性がある新制度が、マイナンバー(国民ID)だ。マイナンバーがあれば、引っ越しの際、クリック一つで行政や水道、ガス、電気などの手続きも可能となり得る。

 また、個人情報をクラウド管理することにより、災害や環境変化の際の情報保全はより強固になる。東日本大震災の際に、通帳・年金記録・保険証などの個人情報や、病院が保存していたカルテなどが失われた。年金や健康保険、民間の火災保険などの情報がマイナンバーによって電子政府内でリンクされていれば、被災した方々への保険金の支払い、証明書の再発行や義援金の振込、医療の提供などの様々な支援が円滑化されたであろう。企業が内外の脅威に対して事業継続計画(BCP)を立てるように、個人にとってのBCP・危機管理のためにも、個人情報のクラウド化はきわめて重要である。
 
 加えて、国民の銀行口座などの情報をマイナンバーと紐づけできれば、個々人の正確な収入や資産の把握が可能となり、徴税率を上げる事が可能だ。いわゆるクロヨン(納税の補足率が給与所得者9:自営業者6:農林水産業者4)と言われるような不公平な状況を改善できる。世帯の状況や個人の資産・収支状況が正確に把握出来れば、年金の不正受給や、死後でも年金を受け取るような不正の排除、生活保護費の不正受給の排除など、社会保障の適正化にもつながる。マイナンバーで国民の年金情報が管理されていれば、大問題となった「消えた年金問題」も無かったであろう。また、毎年800億~900億円規模ともいわれる休眠口座の捕捉に役立つこととなろう。

 国民一人ひとりにIDを付与するのは今や世界の常識だ。韓国では、国民IDを利用して自宅のプリンターで交付可能な証明書は6種類(住民票など)もある。ほとんどの行政手続きがワンストップ化されているのだ。エストニアでは、国民IDを使って電子投票までできる。

 マイナンバーの導入に関しては、100の行動11 経産5<政府のIT化を速やかに実現せよ!>でもその必要性を指摘してきた。2013年の法律制定によって、マイナンバー制度の導入が決まったことは、評価すべきことだ。導入が決まったからには、マイナンバー制度を、国民にとって「使える」制度にしなければならない。決して大失敗に終わった住基ネットの二の舞にせず、国民の利便性を圧倒的に高めるとともに、国家運営の高コスト構造を抜本的に改善するものにすべきだ。


1. 住基ネットの二の舞とならぬよう、マイナンバー制度の制度設計では「包括性」「利便性」「拡張性」「一体性」を確保せよ!

 2013年に成立した「行政手続における特定の個人を識別するための番号の利用等に関する法律」(マイナンバー法)では、以下のスケジュールを規定している。

2015年10月から国民にマイナンバーの付番と通知
2016年1月から「個人番号カード」の交付とマイナンバー制度の利用開始
2017年1月からは電子政府の窓口となる「マイナポータル」を運用開始

 マイナンバー制度の導入によって、先述したように、我々国民が各種行政手続きに無駄に費やしている時間を圧倒的に短縮することが可能となる。マイナンバーの導入は、電子政府を支える基礎的要件であり、最優先政策として取り組むべき課題であったにも関わらず、日本ではこれまで、国民IDというと「総背番号制度」や「国家による個人情報の管理」といったネガティブな反応が極めて多かった。

 そのため、今世紀初頭、住基ネット(住民基本台帳ネットワークシステム)は、大失敗に終わったのだ。個人情報保護の過度の反応から、住基ネットに対する反対運動やそもそも住基ネットにつながない自治体も出てきて、裁判まで起こり、数千億円のシステム費用をかけ、ほとんど誰も使わない住基カードをつくり、壮大な無駄に終わった。

 マイナンバーへの抵抗勢力の言い訳は、常に「個人情報漏えいリスク」だ。個人が特定されない形でのデータ活用をシステム的に可能にすることと、本人認証をきちんとした上で自分の情報にはどこからでもアクセスできること、の二点を両立させることが重要である(御立尚資氏)。

 マイナンバー制度を住基ネットの二の舞にしてはならない。個人情報保護は確かに重要だが、そこは確かなセキュリティで保護し、あらゆる情報をつなげ「圧倒的な便利さ」を生み出すことで国民に普及させることが必要だ。同時に、マイナンバー制度導入で行政の高コスト構造を抜本的に変える必要がある。そのために必要なのは、以下の4つの基本方針だ。

(1)「すべての行政サービスを含む包括性」
(2)「行政サービスの電子化による利便性」
(3)「民間・法人への拡張性」
(4)「クラウドによる国、道政府、基礎自治体の一体性」

 それぞれについて順番に詳述していこう。


2. 包括性:縦割り行政を排除して、すべて包括的に一枚のカード、1つの番号で対応を!

 マイナンバー制度によって国民生活を圧倒的に便利にするためには、国民すべてがマイナンバーを使うようにしなければならない。そのためには、マイナンバーが国民にとって便利で使う価値のあるものである必要がある。そのために必要な基本方針の第一が、すべての行政サービスを含む「包括性」だ。

 マイナンバー制度で配布される個人番号カードは、顔写真、マイナンバー、基本4情報(氏名、住所、生年月日、性別)が記載されています。この個人番号カード自体の利用価値は、公的身分証明書として様々な本人確認を要する場合であり、これは今の運転免許証などとほとんど変わらない。本人確認目的だけでは、財布に入れなければならないカードが一つ増えるだけだ。国民にとっては負担でしかなく、カードは普及しないだろう。
 多くの国民が個人番号カードを使うようにするためには、個人番号カードを持つことによるメリットが単純明快に存在しなければならない。このため、マイナンバーの制度設計においては以下を担保すべきだ。

 現在、行政サービスを受けるために国民が保有しているカード類は多岐にわたる。運転免許証、健康保険証、印鑑登録カード、施設利用カード、パスポートなどだ。それに加えて、(後述の拡張性とも関連するが)民間が発行するキャッシュカード、クレジットカード等も国民生活には欠かせないものだ。これらのカード・番号類を管理し、持ち運ぶことは、我々国民にとってコストのかかることだ。これらが個人番号カードに一元化されれば、国民にとって利便性は絶大だ。つまり政府が国民に発行するカードは、一枚のみにするのだ。少なくとも、免許証、マイナンバーカード、健康保険証等の国民が持つカードは統一して欲しい。そして、番号も一つのみとすべきであろう。


3. 利便性:国民の行う行政手続きはすべてオンラインで、スマホからでも可能にせよ!

 政府の計画では、マイナンバー制度導入に伴って、パソコンや携帯端末などで行政サービスをオンラインで利用可能にする「マイナポータル」を新たに造る予定だ。我々国民にとって、新たな電子政府の入り口となるものだろう。

 国民の「利便性」を圧倒的に高めるため、このマイナポータルで、すべての行政サービスがオンラインでスマホからでも行えるように制度設計すべきだ。たとえば、引越しや結婚、入学や退職などの際、住所変更届け出に加えて様々な行政届け出のために区役所に行くことに加えて、民間サービス分野でも、水道、電気、ガス、電話など、契約・解約・変更等、同時に多数の手続きが必要となる。

 こういった手続きがマイナポータルで一括してできるようになれば、国民の利便性は圧倒的に高まるはずだ。区役所や出張所に出向く必要が無く、まさにスマホからでも、手続きが可能となるのだ。

 行政のオンライン化に関しても、これまでの政府の取り組みは失敗に終わってきた経緯がある。政府は2000年代初頭、ITに関する国家戦略である「e-Japan戦略」を策定し、電子政府の実現を重点政策分野の一つに位置付けた。その中で、行政手続のオンライン化について「2003年までに、国が提供する実質的にすべての行政手続きをインターネット経由で可能とする」こととし、実際にシステム整備が行われた。

 しかし、そもそも国民にとって行政の最前線となる地方自治体の手続きに関しては対象外であったことや、過去一度も書面による申請すら行われたことがない手続きや、申請件数が非常に少ない手続きまですべてをオンライン化するなど、利用者視点に立った業務プロセスの改善(BPR)が行われないままシステム整備だけが進められ、費用対効果が低く、国民にとっての使い勝手は悪い情報システム投資になってしまっていた。

 このため、マイナンバー制度導入に伴うマイナポータルなどの設計に関しては、従来のアナログ時代の手続きややり方自体を見直し、基礎自治体との連携の徹底、民間のライフライン事業者、金融機関、郵便局などとの連携を行って、「包括性」「拡張性」をできる限り高め、高い利便性と費用対効果を実現すべきだ。


4. 拡張性:銀行、医療、ライフサービスなど、民間との連携の徹底できる拡張性を!

 マイナンバー制度による国民生活の圧倒的な利便性向上のための次のポイントは、民間・法人への「拡張性」、すなわち官民連携だ。マイナンバー制度が行政の枠・既存の制度の枠にとどまらず、民間企業などとの連携で新たなサービスが生み出される仕組み作りをすることが重要だ。

 具体的には、前述したキャッシュカード、クレジットカードなどの金融機関との連携や、医療・介護など医療サービスに関して、過去の疾病、治療の記録・処方箋の共有化による医療サービスの高度化など、マイナンバー制度導入に関しては、システムの拡張性を担保しておくことが重要だ。

 マイナンバー制度導入のスタート地点では、個人情報保護重視の観点から、社会保障と税に絞ってマイナンバーをリンクさせる制度設計になっている。しかし、国民にとって圧倒的な便利さを実現するには、すべての情報をつなげることが必要だ。従い、個人情報保護の問題は、以下2点が必要となる。

・高い水準のセキュリティの確保(前述)
・「本人の同意」

 すなわち、マイナンバーの個人情報とのリンクに同意した人は、マイナンバー活用による利便性を享受できる。キャッシュカードなど、金融機関情報をリンクさせれば、行政との税や社会保険の給付等でもいちいちハンコを押して振込先銀行を申請するといった無駄な手続きをしなくて済むようになる。

 また、医療情報をリンクさせれば、新たな病院でもう一度同じ検査を受けずに済むようになり、時間もお金も節約できる。いちいち別々の診療カードの提出を要求されることも減ることとなろう。医療費や薬代も削減できる、といった具合だ。医療・保険・年金・公共サービスの利用状況などのデータを適切に管理・蓄積・分析することによって、継続的に行政サービスを革新し、効果的な事業ができるようになる。少子高齢化時代における理想的な行政モデルの構築となる。

 そういった具体的なメリットが明らかになってくれば、どんどん使う人が増え、普及が進むだろう。新たなサービスや便利さは今後もっと増えていくだろう。このため、マイナンバー制度には民間を含めた「拡張性」を担保しておくことが極めて重要だ。


5. 一体性:マイナンバーシステムは国と地方、さらには民間もつなげ、行政コストの徹底的な削減を!

 マイナンバー制度の導入には、中央官庁、地方自治体を含めた大規模な情報システム改修が必要になる。これにはかなりの予算が必要で、現時点では二千数百億円の予算規模の予定だが、同時に、これまでの無駄を排除するチャンスでもある。

 マイナンバー制度導入に際しては、すべての業務をオンラインで可能とし、地方・中央をつなげ、インターネット普及以前に構築された行政手続きや制度、システムに関してはゼロベースで見直し、行政コストを徹底的に削減すべきだ。その際には、原則パッケージ型ソフトウェアを基本として、クラウドにてシステムを構築する必要がある。まさに拡張性、一体性が担保できることになる。

 IT化による行政コストの削減に関しても、政府のこれまでの取り組みは、残念ながら十分とはいえない。政府は、2001 年に、IT戦略本部を設置し、行政運営の簡素化・効率化を実現するため行政事務のIT化を進めてきた。しかし、これらは既存の業務や制度を前提としたIT投資にとどまっており、システム導入に当たってのBPRが不十分なまま、人事・給与や旅費の支給など、各府省に共通する業務についても各府省それぞれにシステム整備が行われ、重複投資も目立つものだった。

 これまでの日本の問題点は、1700ある地方自治体が、それぞれ似通った行政手続きであるにもかかわらず、それぞれの自治体でバラバラにシステム要件定義をし、バラバラにITシステムを調達しているために膨大な税金が無駄に使われてしまっていることだ。マイナンバー制度の導入はこの問題を一気に変えるチャンスだ。

 このため、マイナンバー導入に際してのシステム整備では、中央官庁の各省庁のみならず、地方自治体、民間との連携を視野に入れ、行政運営の効率化・スリム化のためのBPRを断行し、システム調達に際してはクラウドベース、パッケージベースのシステムを最大限活用し、コストを徹底的に削減すべきだ。また可能な限りワークスアプリケーションズのようなパッケージ型ソフトウェアの会社を参画させることが重要だ。パッケージ型であれば、各自治体で全くバラバラのものが創られる弊害は無くなる。

 政府の計画では、2018年度までに現在約1500ある情報システムを半数近くまで削減し、2021年度を目途に原則すべての政府情報システムをクラウド化、運用コストを圧縮する予定であるという(3割減を目指す)。マイナンバー制度の導入によるシステムの刷新を契機として、情報システムの運用コストだけでなく、行政運営全体のコストを徹底的に削減すべきだ。

 このように、マイナンバーの導入に際しては、包括性、利便性、拡張性、一体性を担保して、スマホと一枚のカードですべてが可能にすることが重要だ。

 G1首長ネットワークのメンバーである千葉市の熊谷俊人市長は、最先端のICT都市を目指して2017年に向けた大きな投資を行い、マイナンバーのシステム構築にすでに着手している。この分野では自治体ごとの意識と取り組みの差が顕著に表れていくことは明らかであり千葉市の取り組みには引き続き注目をしたい。武雄市が図書館や教育分野で先行したように、一つの自治体の先進事例を、全国に広げ、横展開すべきであろう。

 まさに、日々住民と密接な関わり合いを持つ基礎自治体こそが、住民サービスの向上の観点からマイナンバーを使いこなす必要がある。なお、国民が接する行政手続きは、圧倒的に基礎自治体が窓口になることが多い。

 神保謙さんが指摘するが、デンマークでは、国民に対しても(高齢や障害等で不可能な人を除いて)政府とのやりとりをインターネットで行い、行政コスト削減に参画することを法制化して求めている。

 国民の側にも、自らマイナンバーを使って、行政コストを削減する、という姿勢をもつことが不可欠であろう。政府側、行政側に求めるばかりでなく、国民一人ひとりが、マイナンバー制度を使って行政を良くする姿勢が必要となろう。

 ぜひ、マイナンバー制度を活用して、利便性が高い行政サービス、さらには、すべての民間サービスを実現し、世界で最も進んだ国民生活を送りたいものだ。

 


 

京都大学工学部卒、ハーバード大学経営大学院修士課程修了(MBA)。住友商事株式会社を経て、1992年株式会社グロービス設立。1996年グロービス・キャピタル、1999年 エイパックス・グロービス・パートナーズ(現グロービス・キャピタル・パートナーズ)設立。2006年4月、グロービス経営大学院を開学。学長に就任する。若手起業家が集うYEO(Young Entrepreneur's Organization 現EO)日本初代会長、YEOアジア初代代表、世界経済フォーラム(WEF)が選んだNew Asian Leaders日本代表、米国ハーバード大学経営大学院アルムナイ・ボード(卒業生理事)等を歴任。現在、経済同友会幹事等を務める。2008年に日本版ダボス会議である「G1サミット」を創設。2011年3月大震災後に、復興支援プロジェクトKIBOWを立ち上げ、翌年一般財団法人KIBOWを組成し、理事長を務める。2013年6月より公益財団法人日本棋院理事。いばらき大使、水戸大使。著書に、『創造と変革の志士たちへ』(PHP研究所)、『吾人(ごじん)の任務』 (東洋経済新報社)、『人生の座標軸』(講談社)等がある。

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