アイ・ケイ・ケイ(1/4) -地方企業から全国企業への飛躍を支えた理念経営 

  • このエントリーをはてなブックマークに追加
  • このエントリーをはてなブックマークに追加

連載開始に寄せて —グロービス経営大学院 教員 竹内秀太郎

企業が成長し続けていくためには、様々な環境変化を乗り越えていく必要があることはいうまでもない。外部環境の変化に合わせ、あるいは積極的に環境に働きかけながら、組織の内部を進化させ続けていくことによって持続的な成長が可能になる。そうした弛まぬ組織変革を進めていく上で大切なことは何か。

戦略論や組織論も必要だが、それ以上に重要なのは、組織として、しっかりとした「志を立てる」ことではないか。自分たちの存在意義、めざすべき理念を明確化し、変えるものと変えないものを峻別していく。そうした「経営理念」は、組織の構成員一人ひとりの認識、社員の成長にも影響を与えていく。特に組織が大きく変わる局面において、理念は大きな役割を果たす。

たとえば、老舗企業が第二の創業を期して大転換を図ろうという場合、また業界再編で合併した企業が経営統合後の再出発をはかろうという場合、あるいは創業家の影響力の強いオーナー企業がカリスマ依存の組織から脱皮しようという場合等々、変節点における理念の活用方法の巧拙が、変革の成否を左右するのではないだろうか。

本連載では、企業が直面する様々な変節点ごとの理念の活かし方に注目し具体事例を紹介しながら、理念経営の実践のためのヒントを探っていきたい。(なお、本連載において「経営理念」は、ビジョン、ミッション、バリュー、ウェイ等を包含する広義の「企業経営の方向性を示す標語」の意味で用いる。)

全国展開の壁を乗り越えたアイ・ケイ・ケイ

2013年1月、九州の人たちには嬉しいニュースが報じられた。地元発のアイ・ケイ・ケイ(株)が東証一部上場会社となったのだ。佐賀県の企業としては佐賀銀行の上場以来27年ぶり、同社の発祥の地、伊万里市の企業としては初の快挙だという。

アイ・ケイ・ケイの創業は1995年。伊万里市で家業として営んでいたホテルと結婚式場を継いだ金子和斗志氏が会社を設立した。2000年には九州初のハウスウェディング施設「ウェディング&パーティハウスベルアミー(現ララシャンスベルアミー)」を佐賀県鳥栖市にオープン。その後、福岡、宮崎、大分、佐世保と九州で店舗を展開するだけにとどまらず、富山、金沢、福井、高知、いわき、盛岡と九州外にも進出を果たし、ハウスウェディング業界上位の一角を占める企業に成長した。

28381

九州の地方企業としてスタートした同社が全国企業にまで成長できたのはなぜか。同社は自社の経営の強みとして「理念経営の実践」をあげている。経営理念を有する企業は、規模の大小を問わず珍しいことではないが、彼らが成長する過程において、理念がどのように作用したのだろうか。まず、地元から新しい地域に進出していく上で立ちはだかる壁を、同社がどのように乗り越えていったのかを見ていこう。

立ちはだかる壁

日本のウェディング業界は、結婚適齢期人口の減少や晩婚化等を背景に全体として縮小傾向にあったが、旧来の慣習や格式にとらわれないオリジナルな挙式・披露宴志向の高まりの中ハウスウェディングという形態が注目されるようになった。庭つきの欧米風邸宅などをイメージした施設(ゲストハウス)を貸し切り、自宅に招くような感覚でパーティができることで近年人気が高まっている。ハウスウェディング市場は、ホテルや専門式場からシェアを奪う形で大きく成長し、過去10年で約10倍に拡大、推計3000億円超の規模に成長している。

この成長セグメントに対して、数多くのプレイヤーが参入し、店舗展開を競った。たとえばハウスウェディング業界大手であるT&G(テイクアンドギヴ・ニーズ)は、1998年に創業後、2001年にはナスダック上場を果たし、東京、千葉、福岡、名古屋と大都市を中心に積極的に出店を進めた。T&Gは、2004年には東証二部に上場、アイ・ケイ・ケイが初めて九州外に出店した2005年の段階で既に全国29店舗を展開、さらに2007年までに58店舗に拡大と、破竹の勢いで急成長していた。伝統や慣習にとらわれない自分だけのウェディングを望む顧客ニーズに応えるため、施設のデザインも荘厳な白亜の大邸宅風から開放感のある南欧風等々、個性的かつ洗練された施設の中から好みに合ったチョイスができるよう幅広いバリエーションを備えている。 腕利きのシェフの本格フレンチフルコースといった料理もアピールポイント。その他、有名デザイナーのドレス、センスのよい引き出物等々、すべてにおいて最高品質のものを揃えられることが売りだ。

急成長している競合に対し、規模も知名度も劣るアイ・ケイ・ケイに勝ち目はあるのか。地元ならまだしも、九州を出てアウェーで戦うのが厳しいことは想像に難くない。チャンスがあるとすれば顧客のニーズは一様ではないということだ。実際、ウェディング業界には数多くのプレイヤーがいるものの圧倒的シェアを持つガリバー企業はいない。その分、顧客の求めるものを丁寧に見ていけばシェアを大きく伸ばせる可能性もある。

また多拠点に展開するには、それぞれの拠点のマネジメントをする人財(同社では人材を“人財”と表記を統一している)も必要だ。それまで創業オーナー金子社長のリーダーシップに頼っていた同社の人財の層は必ずしも厚くない。店舗展開を急いでも、運営をする人がついていなければ成功はおぼつかない。

こうしたハンディを補いながら自社の強みが生きるよう活路を見出すとしたら、いったいどんな攻め方ができるのだろうか。彼らのとった作戦を見ていこう。

戦略1:勝てる立地を厳選

人口の多い大都市エリアの方が市場規模すなわち挙式件数の絶対数は多いが、参入している競合も多い。まずは、施設を用いるサービスビジネスには不可欠の「立地」の問題である。競合大手が人口40万〜50万人以上の都市部を中心に出店攻勢をかけていたのに対し、アイ・ケイ・ケイは15万人以上の地方都市を出店候補地として検討対象とした。その方が、自社が地元九州の小規模商圏で培ってきた経営ノウハウが活かせるからだ。実際に九州外最初の進出先の富山市、金沢市は人口40万人台だが、次に行ったいわき市は30万人、福井市は20万人都市だ。しかも結婚式におカネを使う土壌がある地方を選んでいる。

28382

また、競合が未参入の場所であっても後から来ることもありうる。現在の状況のみならず将来の変化も考えておく必要がある。式場の施設は一度つくったら、そう簡単に変えることができないだけに、交通インフラや周辺環境の将来的開発予定も考慮し検討した。一般には出店計画を立てる際、10年間の採算を考えるというが、同社は20年間勝てることを基準に慎重に吟味した。出店候補地には、実際に足を運び、土地の広さや形、周囲の環境、そのエリアの顧客特性を考慮し施設のコンセプトを練りに練った。検討対象となった候補地の内、実際に出店にGOサインが出たのは1%にも満たない。新規出店ペースは年1〜3件。市場全体がどんなに拡大していようとも安易な拡大に走ることなく、長期的に勝ち続けられる立地を厳選するスタンスを堅持した。

戦略2:競合が真似できない柔軟な顧客対応

不毛な競争を回避する立地の選定とあわせ、いかに自社の強みを生かし競合に勝てる戦い方をするかを考えた。上述の通り、競合大手のブランド力は手ごわい。施設の建物の洗練されたデザインとバリエーション、一流デザイナーのウエディングドレス、有名シェフのレシピによる高級フレンチフルコース等々、ハードの品質の勝負で優位に立つのは容易ではない。ただ顧客が求めているのは、それだけではない。ハードの魅力が一定レベル以上にあるのは競争の土俵に上がるための条件ではあるが、もっと大切なのはスタッフの心のこもったサービスにある。アイ・ケイ・ケイは、ハードに加え、卓越したソフト面の魅力を武器にしようと考えた。

九州外で最初に進出した北陸地方は、ハード面の強みよりも自社のソフト面の強みが有効なエリアだった。たとえば料理に対するニーズにも特徴がある。特にホテルや従来型の結婚式場ではなく「我が家でのおもてなし」というコンセプトに共感してハウスウェディングを選ぶ顧客は、料理についても特別のこだわりがあった。列席の来賓の方々へのおもてなしとして、古くから地元の人が慣れ親しんだ郷土料理をふるまいたい、あるいはそれぞれの家で受け継がれてきた家庭料理をメニューに加えたい、といったリクエストが他地域よりも多いのだ。

ただし、こうした要望を実現するのは容易ではない。今でこそメニューのカスタマイズに対応する施設は珍しくないが10年前は難色を示す方が普通だった。顧客の好みの家庭の味を再現するというカスタマイズの手間がかかることもあるが、それ以上に厨房をあずかる料理人がそうした要望に応えたがらないことが大きなハードルだった。一般に料理人は職人気質が強く、自分が美味いと思った料理を食べてもらうことが仕事だという自負がある。自分が認めていない料理を作って客に出すなどということはプライドが許さないのだ。特に最高級フレンチフルコースのような自慢の料理を売りにするほど、そのプライドは高くなる。それに対しアイ・ケイ・ケイの料理人たちは、「自分たちらしいおもてなしをしたい」というお客様の気持ちを第一に考え、メニューのカスタマイズに柔軟に対応することで顧客からの信頼を勝ち得ていった(もちろん同社の料理人にも同様のプライドはあったが、それをいかに乗り越えたのかは次回で詳細に見ていきたい)。

28383

大都市中心の競合にとって優先順位が低い地方都市の隙間エリアで、画一フォーマットが基本の競合には真似のできない料理のカスタマイズなど柔軟な顧客対応を武器に攻めていったのは、先行する大手の強みを逆手にとった巧みな戦略といえよう。

戦略3:勝ちパターンの見える化

全国展開のためには進出先の拠点の支配人を任せることのできるリーダー人財が多数必要だ。だが最初から数多くのリーダー人財が揃っているはずはない。一般にウェディング業界は長期勤続が難しくベテランが育ちにくい。挙式が集中するので土日に休めず挙式前の打ち合わせは平日夜間に及ぶという厳しい勤務環境のため、スタッフの大半は2-3年で入れ替わる若手社員だ。したがって多店舗展開を進めるには、経験の浅い人でも支配人として拠点のマネジメントができるようなサポートの仕組みが必要だった。

28384

その仕組みづくりの任を担ったのが営業の菊池旭貢氏(現取締役、上の写真)である。彼は新卒採用一期生として同社に入社し金子社長から直接薫陶を受けて鍛えられてきた。菊池氏はすでに立ち上がっていた既存店での営業、オペレーションのプロセスをくまなく洗い出した。どんなプロモーションをするとどのぐらいの見学者の来訪が見込めるか、来訪者の内の何割が成約するか、挙式までに何回ぐらい打ち合わせをし、料理や衣裳にいくらぐらいかけるのか、お客様は何を高く評価し、何に不満を感じるのか等々。IBM出身で中途入社してきたIT専門家と組んで、それらを指標化し見える化できる営業支援システムをつくりあげた。これによって今どのぐらいの見込み顧客がいるのか、商談中の顧客がそれぞれどんなステイタスにあるのか、担当しているスタッフごとに成約率や顧客からの評価がどう変化しているか等の経営状況がリアルタイムで把握できるようになった。データを分析すれば、そのエリアごとの顧客の特性もわかり、成果を高めるために必要なサポートをタイムリーに行えるようになったのだ。

勝ちパターンが見える化されることによってそれまで培ってきた経営ノウハウを形式知として新規出店の際にも水平展開することができる。また既存エリアと新規エリアの違いも解析でき、現地の支配人の勘に頼ることなく適切な戦略修正が行える。この仕組みは全国展開を推進する上で大きな武器になった。

理念との関係は?

こうした取り組みによりアイ・ケイ・ケイは、新たな進出先でも成功を収めることができた。これまで出店した全国14拠点すべてにおいて黒字経営を達成している。この成功に理念はどう作用しているのだろうか。確かに、勝ちパターンを見える化し、それを見ながらサポートすることで経験の浅い人でも新規店舗を任せやすくなるという効果はあるだろう。しかし、ただそれだけで、パートも含め100人規模の拠点スタッフを束ね、高品質サービスを実現するマネジメントのできるリーダーが増えるのだろうか。また頑固な職人気質の料理人たちは、どうしてメニューのカスタマイズを受け入れるようになったのだろうか。そもそも市場全体が成長する中でも安易な拡大志向に走ることなく勝てる立地を厳選する慎重なスタンスに徹することが、なぜできたのだろうか。次回は彼らの経営のベースにある理念との関連を掘り下げてみたい。

「アイ・ケイ・ケイ(2/4)—地方企業から全国企業への飛躍を支えた理念経営」はこちら

名言

PAGE
TOP