初めての園遊会 

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3月中旬のある日、出勤すると会社の机の上に大きな薄黄色の封筒が、置かれてあった。封筒の表紙には、「堀義人殿 同令夫人」と縦書きに大きく毛筆体で書かれてあった。封筒を開くと、宮内庁長官が差出人で、「天皇皇后両陛下には来る四月十七日赤坂御苑において御催しの園遊会にお招きになりますのでご案内申し上げます」との招待状が入っていた。

何と、園遊会への招待状が届いたのである。「園遊会」をネットで調べてみると、「天皇・皇后主催の園遊会は 皇太子をはじめ各皇族も列席する催しであり、招待客に内閣総理大臣、国務大臣、衆議院議長・参議院議長及び副議長、主な国会議員、統合幕僚長(旧統合幕僚会議議長)、最高裁判所長官、裁判官、その他に認証官など三権各機関の要人、都道府県の知事・都道府県議会の議長、市町村の首長・議会の議長、各界の著名人(芸能人、著者など)、功績者(勲章の受賞者:メダリストなど)と、その配偶者を含めた約2,000名が招かれる」と記載されており、1880年開始の「観菊会」、1881年開始の「観桜会」に遡る由緒あるものだと理解できた。

「これは偉いことになった」と思い準備を始めた。服装は、「モーニングコート、紋付羽織袴、制服又は背広」と記載されていた。紋付羽織袴は既に購入済みなので、その点では安心だった。当日の車をどうするかも考えたが、ハイヤーは既に完売状態で予約できずで、黒塗りのタクシーを午後一杯借り切ることにした。

数日前には不覚にも風邪をひいてしまったが、「這ってでも、園遊会には出るぞー」と言い聞かせながら、当日を迎えた。昼前に妻の友人に着付けに来てもらい、紋付羽織袴姿に変身した。グロービス経営大学院の学長として毎年各地のキャンパスの入学式で着ているので、着なれたものだ。この一カ月で何と5回も着ることになっていた。

午後一時に、黒塗りのタクシーに乗り込み、赤坂御苑へと向かった。東門に入ってからは、僕にとっては未知の空間だ。駐車場近辺は多少混雑しており、10分程度ノロノロ運転して、所定の場所で降車した。受付を済ませ、名札を付けてもらい、庭園へと向かった。緑が美しい季節に、春の優しい日射しが差し込み、遅咲きの桜が池に映えて、とても美しかった。

メイン会場の近くの三笠宮テント近くに来ると、首長の友人たちと会うことができた。長野県の阿部守一知事、福岡市の高島宗一郎市長、三重県の鈴木英敬知事ご夫妻達だ。そして三宅伸吾ご夫妻や田嶋要ご夫妻などの政治家の友人にも、会うことができた。人だかりができていたのは、葛西選手や羽生選手の周りだ。招待客が、一緒に写真を撮ろうと順番待ちをしている雰囲気があった。

ふと周りを見渡すと両陛下のお道筋に従って、既に列ができ始めていた。僕らは、「先ずは全体の様子を知ろう」と思い、前へ前へと散歩し、また戻ってきたりしながら立ち位置を探した。行く先々で友人と会い、挨拶をした。 テレビカメラが設置され、著名人が居並ぶ正面は、既にずっと前から並んでいて混雑していたので、どうしても二列目以降になってしまう。そこで、奥の方へと場所を変えることにした。

かすかに空いているスペースがあったので、そこで待つことにした。その途中で、G1サミットに参加されている伊原木隆太・岡山県知事ご夫妻と湯崎英彦・広島県知事ご夫妻、そして黒田東彦・日銀総裁ともご挨拶することができた。 僕らが待っていた近くには、東京都知事の舛添要一ご夫妻、京都市長の門川大作ご夫妻、そして鈴木英敬・三重県知事ご夫妻も来られて、賑わっていた。

春の日差しが心地よく顔に当たる中、参列者は静かに談笑しながら両陛下が来られるのを待っていた。 不思議な光景だ。黒田日銀総裁や都知事等の要人も、ひたすら両陛下のご登場をじっと待ち続けているのである。

40~50分ほどして、両陛下が、腕を組み寄り添いながら、とてもにこやかに軽く会釈をされながらお通りになられた。そのあとに皇太子殿下、秋篠宮殿下ご夫妻、眞子様、そして高円宮妃殿下久子様が通られた。僕は、ひたすら何度もお辞儀をしながら、心の中で「お招きありがとうございます。日本国のために尽力します」と言い続けていた。

隣の京都市長、三重県知事、そして東京都知事とのお言葉の中に、両陛下の日本への強い愛情、そして招待客への労いと敬意の念を強く感じ取ることができた。僕も、皇室の方より一言だけお言葉を賜った。胸がジーンと暖かく感じる瞬間でもあった。

都心のど真ん中に位置する広大で、且つ美しく整備された庭園の中で、国家の中枢を担う人々が、正装に身を包み、整然と並んでいる。そして、天皇陛下と皇室の方々が、丁寧に時間をかけて一人一人に労をねぎらうこの場・機会の、何と崇高なるものか。

天皇家の身のこなしの美しさ、参加者との対応に感じる強い相互崇敬の念、そして参加者側の礼儀作法の良さ。日本の国家としての伝統と、文化性の高さを強く実感することができた。と同時に、この日本という国家を更によいものにしたい、貢献したいという強い衝動が湧きあがってくるのを感じとれた。

身体の中にある感動と衝動が入り乱れた心地よい余韻を大切に維持したまま、メイン会場となっている三笠宮テントに戻った。その途中で、内閣官房副長官の世耕弘成さん・林久美子さんご夫妻と会うことができた。しばらく談笑をして、4人で記念撮影をすることにした。とても大事な写真として一生の記念にとっておきたいものだ。

お二人に別れを告げて、三笠宮テントで林芳正・農林水産大臣ご夫妻に挨拶して、美味として有名なちまき寿司とジンギスカンを頂いた。そして、テントの前の木製の椅子にゆっくりと腰をかけた。庭園の景色の中で、紅茶を楽しむことにした。まさにガーデン・パーティ(園遊会)における、ゆったりとした午後の紅茶の一時だ。

名残惜しいが、だんだん招待客もまばらになってきたので、ゆっくりと駐車場に向かい歩き始めた。お菓子をお土産として頂き、駐車場で待っていた黒いタクシーを呼びだして帰路についた。心の中はとても暖かいもので満たされていた。

自宅に戻り、紋付羽織袴を綺麗に脱いで、普段着姿に戻った。園遊会の帰りに頂いた菊のご紋が入った和菓子を、両方の両親におすそ分けして、宅急便で届けることにした。

その夜は米国よりハーバード時代の友人が、子供を連れて我が家に遊びに来ることになっていた。手巻き寿司でのおもてなしだ。日本好きの彼らは、日本がいかに凄いかということを口ぐちに興奮しながら喋っていた。僕は、「そうだよ。日本は本当に凄いんだぞ」と強く心の中で頷いていた。その夜の食事会の一時も、やがて終わりを告げた。

長い一日が終わり、就寝時となった。日本人として生まれ、園遊会に招かれるという有り難く貴重な機会を賜ったことを天に感謝しながら、寝床に入った。「日本国にもっと貢献したい」という願望が更に強くなっていることを、容易に自分の中で確認することができた。

2014年4月18日
千代田区一番町の自宅にて執筆
堀義人

名言

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