海猿・海上保安庁の能力の抜本的な拡充を! 

  • このエントリーをはてなブックマークに追加
  • このエントリーをはてなブックマークに追加

初稿執筆日:2014年4月18日
第二執筆日:2016年3月30日

「どんなに絶望的な状況でも、可能性はある。あきらめるな!」

 映画「海猿」で俳優の伊藤英明さん演じる仙崎大輔は、厳しい訓練の後、海難救助の最前線である潜水士となった。「海猿」だ。彼らは、海難事故が起きたときに真っ先に現場に駆けつけて救助にあたる。過酷な現場でも絶対に諦めずに海を守るのだ。映画やドラマで人気を博した「海猿」によって、海上保安官たちの過酷な現場を知り、海を守る仕事の重要性を認識した人も多いだろう。

 世界で6番目に広大な日本の排他的経済水域・国土の12倍もの広さの海、6800を超える島々を守るため、海難救助、国境警備、密輸・密漁捜索など危険と隣り合わせの最前線で、海上保安官たちは命がけで活動している。

 特に、2010年に起きた尖閣諸島中国漁船衝突事件以降、相次ぐ不審船・工作船の接近、大規模な海難事故なども多発し、国境の最前線で日本の海を守る海上保安庁の重要性は大いに高まっている。

 しかしながら、海上保安庁の定員は13000人弱、予算も1800億円程度と、東京という一都市を守る警視庁と比べても定員・予算ともに約1/4であり、国土の12倍もの水域を守る役割と比べてその規模は極めて小さい。日本の国益を守るため、海上保安庁の機能強化は不可欠だ。

1. 海上保安庁の体制・予算・人員・装備の抜本的強化を!

 2010年9月7日、尖閣諸島付近の海域をパトロールしていた海上保安庁の巡視船「みずき」が中国籍の漁船を発見した。日本領海からの退去を命じるも、それを無視して中国籍漁船は違法操業を続行、逃走時に巡視船「よなくに」及び「みずき」に衝突し2隻を破損させた。海上保安庁はこの悪質な行為に対し、同漁船の船長を公務執行妨害で逮捕し、石垣島に連行した。

 2010年に発生した中国による尖閣諸島漁船衝突事件は、中国の膨張主義の常套手段だ。中国は戦争ではなく「平時」の海において、民間たる「漁船」による「侵略」ならぬ「侵出」を繰り返し、それを徐々に常態化させていく。その民間たる漁船を守る、すなわち「関係海域周辺の漁業生産秩序を維持し、漁民の生命・財産を保護する」ことを目的として、政府の農業部漁民局所属の漁業監視船を派遣し行政権の行使を既成事実化していく。そして、徐々に警察権の行使、そして防衛権の行使と既成事実を広げていくことで、版図の拡張を狙っているのだ。

 2013年7月22日には、正式に農業部漁民局(いわゆる漁政)を含めて、中国海警局が発足し、同月26日に中国海警局の公船「中国海警」4隻が尖閣諸島の領海を初めて領海侵犯した。

 現代の領土・領海防衛においてここで分かることは、軍事ではない、非軍事の行政権・警察権の機能の重要性だ。軍事権の行使による国際紛争になる手前の警察権の行使の段階で、日本の海を守る非軍事の機能強化が日本にとっては重要なのだ。特に隣国にあからさまに海域の侵出を狙っている大国がある以上、日本にとって海上保安庁の機能強化は待ったなしの状態である。

 幸い、尖閣事案以降、海上保安庁の任務の重要性は高く認識され、新たな1000トン級巡視船の整備、海上保安官の増員などが進められた。これらに加えて石垣港の係留施設を整備し平成27年度末までに大型巡視船14隻相当による専従体制を確立し、尖閣諸島周辺海域における中国の大型公船への対応が行なわれている。また、2013年には、安倍総理の肝入りで、初めて海上保安庁長官に生え抜きの現場出身者が抜擢された。海上保安庁の長官ポストは、これまで国土交通省のキャリア官僚、もしくは旧運輸省から出向したキャリア官僚の指定席となっていたが、これで現場の海上保安官の士気は多いに鼓舞されたであろう。

 東シナ海における中国からの脅威は益々高まっており、今後、海上保安庁の重要性はさらに高まっていく。しかしながら、海上保安庁の予算は平成27年度、平成28年度においても1800億円強で推移しており、抜本的な拡充とは言い難い。また、保有する約450隻の巡視船艇なども1970年代に配備されたものが多く、老朽化、速力不足が深刻だ。国境の最前線で日本の海を守る海上保安庁の人員・装備を抜本的に強化する必要がある。

2. 海上保安庁による国際協力の拡充を!

 当然ながら海は世界とつながっており、海上保安庁の任務はグローバルだ。このため、海上保安庁と諸外国の沿岸警備隊との協力は重要だ。特に石油などの資源を海上輸送に頼る日本という国家にとっては、中東からのシーレーンの安全の確保のため、インド洋、太平洋の各国と海の安全の分野で協力関係を強化していくことが国益に適うこととなる。

 2014年3月に発生したマレーシア航空370便行方不明事案では、海上保安庁は、国際緊急援助隊の枠組みによって専門家28名と航空機を派遣し、消息不明機の捜索活動に協力した。

 緊急時の救援のみならず、平時においても、フィリピン、インドネシア、マレーシア、ベトナムなど中国と領有権の問題で共通の脅威を感じている東南アジア諸国や、ミクロネシア各国に対して、日本の海上保安庁の専門家を派遣し、ノウハウや知見を途上国に対して提供している。

 また、シーレーン沿岸各国と協力して海賊対策を万全とするため、沿岸諸国の海上法執行能力の向上のための協力や、インドネシアに対する巡視船の供与なども行っている。

 今後もこれら諸国との協力関係を強化し、協力して海の秩序維持に努めるとともに、信頼関係を維持・構築していく必要がある。

3. 海上保安庁「航空警備隊」の創設を!

 日本の海は広い。世界で6番目の広さを誇る排他的経済水域が海上保安庁の守備範囲だ。この海を効率的に警備するには、空からの監視能力を強化するのがよい。現在、海上保安庁は約30機の航空機、約40機のヘリコプターを保有しているに過ぎないが、航空機と航空機搭載船の拡充を進め、海上保安庁航空警備隊を創設すべきであろう。

 東シナ海、南西諸島方面では、中国船籍の漁船による航行が常態化しており、この領域における警察執行能力の重要性は既述のとおりだ。その海上における警察機能を担う海上保安庁において、航空能力の拡充による機能強化が必要だ。

 2013年11月23日、東シナ海防空識別圏を設定することによって、中国は新たな挑発を仕掛けてきた。領海侵犯の場合には、海上保安庁が対応できるが、領空侵犯の場合にはどうするのか。航空自衛隊が対応すべきであろうか。前項で述べた通り可能な限り非軍事で対応したいものである。

 安全保障法制整備に係る閣議決定(平成26年7月)においては、海上保安庁の対応能力の向上も求められ、これに対応する形で、尖閣諸島周辺海域における航空機による24時間監視体制の構築のための新型ジェット機の整備が進められることとなっている。

 自衛隊においても、452機の航空機を保有する航空自衛隊の他に、陸上自衛隊に448機、海上自衛隊に176機の航空機が配備されており、海上保安庁においても少なくとも現状を大きく上回る航空能力が必要ではないか。そして、主に南西方面に重点的に配備することが必要となろう。

4. 領海警備法・領海侵犯罪の制定を!

 尖閣事案を受け、2012年に「海上保安庁法及び領海等における外国船舶の航行に関する法律」の改正法が成立した。これにより、日本の周辺海域・遠方離島における犯罪について、海上保安官が対処できる仕組みや、領海において停留・徘徊を行うやむを得ない理由が明らかにない外国船舶に対して、立入検査を経ることなく勧告を行った上で領海から退去を命ずることができる制度が導入された。しかし、この改正を経ても、海上保安庁の執行権限は十分に強化されていないのが実態だ。

 海上保安庁が不審船を取り締まる際、現状では「領海侵犯罪」がないため、領海侵犯に対しては「漁業法」や「入管難民法」などで対処している。先述のように、尖閣諸島沖での中国漁船に対しては、公務執行妨害での逮捕であったし、石川県能登半島沖の日本領海内に北朝鮮の不審船2隻が侵入した際も漁業法違反容疑での追跡だ。

 海上保安庁が法律上十分に権限を行使できる制度にすることが極めて重要だ。

 昨今の尖閣諸島の事案などで領海侵犯への対処は喫緊の課題となっている。早急に領海警備法を制定し、海上自衛隊とも連携して、海上保安庁の海上における捜査権・警察権の執行権限を拡大する必要がある。

5. 海上保安庁と海上・航空自衛隊との連携強化を!

 装備や能力の面において、海上保安庁より海上自衛隊や航空自衛隊のほうが勝っているのは当然だ。この自衛隊の能力を重要性の増す海上警察任務に活用できないのでは、国益を損なう。現状でも、海上自衛隊は、尖閣諸島などを含む周辺海域において、P-3C哨戒機などによる警戒監視活動を実施しており、その情報を海上保安庁と共有するなどの連携は行われている。しかし、法律上、自衛隊は警察権の行使が不可能であり、海上警備任務において直接的に海上保安庁と連携することはできない。

 このため、領海警備法の制定によって領海警備の任務を法令上明確に海上自衛隊にも付与し、法律上海上保安庁と自衛隊の連携・協力を明確化し、あらゆる事態にシームレスに対処できるようにすべきだ。軍事力の無制限の拡張といった批判を免れるよう、海上自衛隊の担う任務や協力業務を限定列挙する形で制限すればよい。

 昨年、「100の行動24防衛編2」でも触れたように、自衛隊においても南西諸島における中国海軍の動向に対処するため、「基盤的防衛力」構想から脱却し、南西方面の島嶼防衛能力を強化することが求められている。自衛隊の対象となる軍事的脅威と平時を担う海上保安庁の警備任務とは隣接・類似し、その区別が非常に難しくなっているのが現代の国境防衛の現実だ。そうであれば、両者の連携を強化することは極めて重要である。

 そのためには、この行動に記載した通り、(1)海上保安庁の体制・予算・人員・装備の抜本的に強化し、(2)海上保安庁による国際協力を拡充し、(3)海上保安庁「航空警備隊」を創設し、(4)領海警備法・領海侵犯罪を制定し、(5)海上保安庁と海上・航空自衛隊との連携強化をはかることが重要になる。

 海上保安庁の役割がとても重要である。その認識をもとに、十分な対応策を練り、行動する必要がある。日本の未来を決めるのは、僕らだからだ。

(この「行動」の執筆には、元防衛副大臣の長島昭久さんにコメントを頂きました)


 

京都大学工学部卒、ハーバード大学経営大学院修士課程修了(MBA)。住友商事株式会社を経て、1992年株式会社グロービス設立。1996年グロービス・キャピタル、1999年 エイパックス・グロービス・パートナーズ(現グロービス・キャピタル・パートナーズ)設立。2006年4月、グロービス経営大学院を開学。学長に就任する。若手起業家が集うYEO(Young Entrepreneur's Organization 現EO)日本初代会長、YEOアジア初代代表、世界経済フォーラム(WEF)が選んだNew Asian Leaders日本代表、米国ハーバード大学経営大学院アルムナイ・ボード(卒業生理事)等を歴任。現在、経済同友会幹事等を務める。2008年に日本版ダボス会議である「G1サミット」を創設。2011年3月大震災後に、復興支援プロジェクトKIBOWを立ち上げ、翌年一般財団法人KIBOWを組成し、理事長を務める。2013年6月より公益財団法人日本棋院理事。いばらき大使、水戸大使。著書に、『創造と変革の志士たちへ』(PHP研究所)、『吾人(ごじん)の任務』 (東洋経済新報社)、『人生の座標軸』(講談社)等がある。

名言

PAGE
TOP