東日本大震災の教訓を活かし、災害に強い国へ! 

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初稿執筆日:2014年4月4日
第二稿執筆日:2016年3月2日

 東日本大震災で我々日本人は、死者1万5883人、行方不明者2676人という大きな犠牲を強いられた。被害にあわれた方々やご家族の方々に改めて心からの哀悼の意を捧げます。僕自身、KIBOWの活動を通じて、茨城県から福島県、宮城県、岩手県、そして青森県に至るまでほぼ全ての被災地を訪問した。震災からの復興にこれからも変わらず微力ながらも力を入れていくことを、この場を借りて宣言したい。

 日本列島は、歴史的に多くの災害に見舞われてきた。世界で発生するマグニチュード6以上の地震の約2割が日本周辺で発生しているほか、分かっているだけでも約2000の活断層が存在し、さらに世界の活火山の約7%にあたる110の活火山が分布しているのだ。

 古来、大河の氾濫などの自然災害から社会を守ることは、国家の極めて基本的な役割であった。現代社会においても、災害から国民・社会を守ることは、他国の侵略から国民を守ることと同じくらい重要な政策だと言えるだろう。

 東北沖を震源とする東日本大震災の発生から間もないが、日本列島は近い将来、南海トラフを震源とする大地震に見舞われる可能性が大きいと言われている。

 日本列島の南に横たわる南海トラフでは、100年から150年程度の周期でマグニチュード8クラスの海溝型地震が発生しており、東海、東南海、南海地震の三つの震源域で過去地震が発生している。近年では、安政元年(1854年)に安政東海地震と安政南海地震が、昭和19年(1944年)に昭和東南海地震が,昭和21年(1946年)に昭和南海地震が発生している。周期で考えれば、東海地震の領域は発生から159年が経っており、今世紀前半にもこの地域での地震の発生が懸念されているのだ。

 加えて、関東大震災のような首都直下型地震、富士山噴火といった火山噴火も、100年単位で見れば、発生する可能性があると考えた方が自然であろう。こういった近い未来に予想される大災害への対策に加え、近年気候変動の影響で多く見られる「これまでに経験したことのない」規模の豪雪や豪雨などへの対応も含め、自然災害から街や住民を守る取り組みが必要だ。

 東日本大震災の辛い経験から最大限の教訓を得て、近い将来起こりうる大災害に備える必要がある。

1.    災害時には政府・自治体の役割を限定させ、自衛隊・民間・NPOが機動的に動ける仕組みを作れ!

 東日本大震災は、自然災害に上限はなく、災害の発生を防ぎきることは不可能であること、つまり、「想定外」の災害が起こること、したがって、被害の最小化を図る「減災」の考え方が重要であることを教訓として残した。

 復旧・復興活動において自衛隊が果たした役割は大きかった。機動的な自衛隊の行動と、民間企業・NPOが現地に入って果たした役割は極めて大きかったと言えよう。一方、政府や自治体を通した行動は極めて遅かったし、非効率だった。

 震災後KIBOWの活動で早い時期に被災地に入ったが、被災地では食べ物等が不足しているにも関わらず、急ごしらえの補給センターに行ってみると救援物資が積み上がったままで、現地に届いていなかったのを見て、憤りを感じたことを、今でも鮮明に覚えている。

 近い将来起こりうる大災害に向けては、政府や自治体は自らが行動を起こすよりも、情報収集したものを積極的に情報公開することにより、自衛隊や民間、NPO等をうまく活用する発想が必要となろう。自衛隊・民間・NPO等の役割を明確化し、ボランタリーなネットワークを最大限活用できる体制を、整備しておくことが重要だ。

 加えて、災害発生時の政府・自治体の危機管理体制を改めて整理し、迅速な対応が可能な体制を整備しておくことが必要だ。

2.    最新の科学技術を総動員し、予知と警報を徹底し、ネットや民間活用の情報伝達・連絡網の整備を!

 東日本大震災では、自然の猛威は実施可能なハード対策の防災力を上回り、ハードだけでは被害を防ぎきれないことを我々は思い知らされた。災害時、最も重要なのは、「情報の伝達」だ。

 第一に、最新の科学的知見を総動員して、予知できる災害、被害の範囲などは可能な限り詳細に分析し、公表しておくことが必要だ。

 東日本大震災では、中央防災会議における想定を大きく上回る地震と津波が発生し、甚大な被害が生じたことは事実だ。今後想定されるのは、直近では南海トラフ地震、それに加えて、首都圏直下型地震、富士山等の火山の噴火等であろう。これまでの地震・津波の想定にとらわれず、最新の科学的知見を総動員し、起こり得る災害を想定するようにしなければならない。

 南海トラフの巨大地震に関しては、今まで考慮していなかった浅い地震による津波や広域破壊メカニズムなど、最新の科学的知見に基づき、あらゆる可能性を考慮した最大クラスのものとして推計がなされ公表された。今後も最新の科学的知見による自然災害の分析・研究を不断に進めるべきだ。

 第二に、災害発生時の緊急速報・警報の徹底だ。東日本大震災に始まる福島第一原発事故では、緊急時迅速放射能影響予測ネットワークシステム(SPEEDI)による、放射性物質の大気中濃度及び被ばく線量等の環境への影響予測計算が、事故発生から2週間近く経過した3月23日まで公表されなかった事態も生じた。災害時に最も重要になる情報が、国民に公表されない事態はあってはならない。

 地震速報に関しては、気象庁と関係各所の努力により、テレビ・ラジオ防災無線に加え、携帯電話・スマートフォンでも受信が可能になった。気象庁では、地震による災害の防止・軽減を図るため、全国の地震活動を24時間体制で監視し、緊急地震速報、地震情報等の迅速かつ的確な発表に努めている。

 大規模災害が発生した場合には、内閣府において被害規模の早期把握に関して、地震発生後概ね10分で被害を推計する「地震防災情報システム(DIS)」も整備し稼働させている。

 また、台風や豪雨などの自然災害に関しても、気象庁の危機感を国民に分かりやすく伝えるため、2012年から、「記録的な大雨に関する気象情報」の中で「これまでに経験したことのないような大雨」等の表現を用いて災害が切迫している状況であることを短い文章で分かりやすく伝えるように改善していることも評価したい。

 一方、津波速報に関しては、かなり進歩・改善の余地があるのは明白だ。海岸に来て初めて高さがわかるようでは、お粗末としか言いようがない。衛星やレーダー等の先端の科学を駆使したり、現場の船舶の第一報等を収集したりして、津波の発生や高さを測定する方法を考案する必要があろう。津波到達の15分から30分前には高さを特定でき、到達予想地域に警報を鳴らせることができたら、被害は最小化することができよう。

 災害発生時には、正確な情報を可及的速やかに国民に公表できる体制を整備しておくとともに、肝心の電話・テレビ・インターネットの情報網がパンクしないよう、整備しておくことが重要だ。

 東日本大震災では、ツイッター、フェイスブック等のネット情報が大いなる力を発揮した。阪神大震災では固定電話がパンクして、携帯電話が力を発揮した。一方、東日本大震災では今度はその携帯電話がパンクしてしまい、ネットによる情報伝達が圧倒的に有効であった。

 僕自身がツイートした情報が数千以上もリツイートされたのは、この時期以外に過去無かったし、今後も無い予感がする。それほどまでに、災害時にはネットが活用されていたのだ。マスメディアでは、マス向けの限られた情報が一方向にしか流されない。一方、ネットでは広範囲なニッチな情報を、双方向にやり取りすることができる。しかも、主役は現場にいる民間と物資を補給する民間だ。今後は、これら民間のネットの情報を積極的に活用する発想が必要であろう。

 あと苦言を一つだけ。災害時におけるメディアの在り方は大いに再考する必要があろう。政府が情報統制を行うことは論外だが、東日本大震災に始まる福島の原子力発電所事故においては、公共の電波を使ったメディアの過熱報道がパニックを煽り、その結果、不必要な風評被害が起こしたことは紛れもない事実である。

 メディアには、冷静な科学的見地にたった冷静な報道を求めたい。

3.    「てんでんこ」の教え・防災教育・防災訓練の徹底を!

 災害が起こった際に人命を救う上で最も重要なのは、私たち一人ひとりの行動であるという教訓も東日本大震災から我々が学んだものだ。岩手の「てんでんこ」の教え。「てんでんこ」とは、海岸で大きな揺れを感じたときは、津波が来るから肉親にも誰にもかまわず、各自がてんでばらばらに一刻も早く高台に逃げて、自分の命を守れという教えだ。

 この教えに基づいて津波からの避難訓練を8年間重ねてきた岩手県釜石市内の小中学校では、約3000人の生徒たちが即座に避難し生存率99.8%という「釜石の奇跡」を生んだ。

 したがって、大規模災害を生き抜くことができるよう、一人ひとりが情報を得て、自ら判断し、行動する力を備えるような教育・学習を学校や職場で行うことを徹底するべきだ。学習指導要領における防災教育の位置付けを明確化し、指導時間を確保するなど、学校における防災教育の強化が必要だろう。

 また、国土交通省防災情報提供センターでは、災害発生時に住民が適切な避難行動をとれるよう、避難場所や避難経路等を記した全国の各種ハザードマップを閲覧できるインターネットポータルサイトを開設している。平時からこういった情報の周知徹底が必要だ。

 また、あらゆるレベルにおける防災訓練の継続も当然必要だ。市町村や町内会レベルでの訓練で、住民、企業、物流事業者、学校、医療機関、NPO、NGO等関係する様々な団体が連携して訓練を実施する必要がある。

 政府レベルでは、首都直下地震を想定し,首都中枢機能の停止に伴う各種障害等への対応を協議する緊急災害対策本部会議等の訓練や、南海トラフ巨大地震を想定し,広域医療搬送に関するDMAT及び患者輸送,広域搬送拠点臨時医療施設運営等支援等の総合的な実動訓練、地震に伴う津波による被害の軽減を図るため、防災関係機関等が協力・連携した「津波防災訓練」などを行っている。今後も緊張感を継続して防災訓練に取り組んで欲しい。

4.    ハードに頼る発想を捨てよ!防災に名を借りた公共事業の無制限の膨張を許すな!

 東日本大震災は、堤防などのハードによる防災の限界を露呈させた。完璧な防災対策など存在しないという考え方を徹底し、限られた資源の中で優先順位をつけて合理的なハード面での防災対策を進めていくべきだ。

 被災地においては、海岸沿いにコンクリートの防潮堤をつくる計画が数多く出てきている。聞くところによると、地方の有力者や高齢者の方々の要望で、そのコンクリートが建つことに決まったという。若者は、壁に遮断された生活を望んでいない。高い壁は、景観を損ない、住民が海と触れる機会を減らす。若者は、壁に遮られた生活を送るのを望んでいないのだ。

 実際、2013年末の国会で制定された国土強靱化基本法には、高度成長期に土建国家といわれた伝統的な自民党政治への回帰ではないかという危惧も抱かれた。安倍内閣が2012年度の補正予算と2013年度の当初予算で用意した公共事業予算は10兆6000億にも上ったのだ。

 東日本大震災の教訓を生かし、近い将来起こりうる南海トラフ地震などに備えるために、災害に強い国家を作ることは重要だ。しかし、その防災対策が、公共事業を大規模に展開する意図に使われては本末転倒だ。限られた予算の中で優先順位をつける、合理的なハード面での防災対策を進めていくべきであろう。

(耐震)
 東日本大震災のあの大規模な地震にも関わらず、建物の倒壊はごくわずかであった。だが、古い建物を中心に、倒壊があったのも事実だ。震災発生直後の4月12日にKIBOWの活動の一環でいわきを訪問した際に、前日の余震によって倒壊した家屋を目の当たりにした。政府は、住宅の耐震化率を2020年までに95%とする新たな目標を定めている。大いに進めていくべきだ。

(津波対策・都市計画)
 津波対策については、堤防などの整備だけに頼るのではなく(高い壁は不要である)、海岸防災林の整備や浸水リスクを考慮した土地利用・建築制限などと合わせて、都市計画などを立てることが必要だ。

(発電所などの重要インフラの防護強化)
 原子力発電所などの重要施設に関しては、二度とあのような事故が起きないようにするための対応が必要だ。特に非常用電源の確保などの津波対策が重要である。

5.災害の歴史を風化させるな!3月11日を震災を考える日として後世に教訓を引き継ごう

 2011年の東日本大震災においては、世界から日本に対して惜しみない拍手が送られた。史上最悪の大震災、津波、原発事故を国民が耐え抜いたこと。数多くの尊い命が奪われながらも、社会的なパニックに陥ることなく、被害に遭われた方一人ひとりが自らの役割を担ったこと。暴動や盗難がほとんどなかったこと。このように、日本人の絆の精神が大災害で発揮されたことにより、世界から称賛を受けた。

 だが、数多くの尊い命は失われた。今後も次世代に教訓を引き継いでいくことが必要だ。

 陸前高田の「奇跡の一本松」が保存されていることは、とても良いことだと思う。一方、南三陸の防災センターは解体されることになった。様々な理由があるとはいえ、この悲劇を繰り返さないためにも、あの大震災を風化させてはいけない。

 関東大震災に由来する9月1日の「防災の日」は国民の間に広く認識されているが、2010年に制定された「津波対策の推進に関する法律」による11月5日の「津波防災の日」や、阪神淡路大震災に由来する1月17日の「防災とボランティアの日」などはより広く国民に定着させることが望まれる。

 2011年3月14日に、KIBOWは発足した。「大震災の前では人間はちっぽけな存在だ。だが、ちっぽけな存在でも連携すれば大きなことができるかもしれない」と思い立ち、希望(Kibou)のかけ橋(Rainbow)の意味を込めて、KIBOWと名付けた。

 大災害は必ず来る。だが、その大災害の被害を最小化することは、日本人の知恵と強固な社会によりできると思う。そのために、東日本大震災の教訓を活かし、災害に強い国にする必要がある。

 


 

京都大学工学部卒、ハーバード大学経営大学院修士課程修了(MBA)。住友商事株式会社を経て、1992年株式会社グロービス設立。1996年グロービス・キャピタル、1999年 エイパックス・グロービス・パートナーズ(現グロービス・キャピタル・パートナーズ)設立。2006年4月、グロービス経営大学院を開学。学長に就任する。若手起業家が集うYEO(Young Entrepreneur's Organization 現EO)日本初代会長、YEOアジア初代代表、世界経済フォーラム(WEF)が選んだNew Asian Leaders日本代表、米国ハーバード大学経営大学院アルムナイ・ボード(卒業生理事)等を歴任。現在、経済同友会幹事等を務める。2008年に日本版ダボス会議である「G1サミット」を創設。2011年3月大震災後に、復興支援プロジェクトKIBOWを立ち上げ、翌年一般財団法人KIBOWを組成し、理事長を務める。2013年6月より公益財団法人日本棋院理事。いばらき大使、水戸大使。著書に、『創造と変革の志士たちへ』(PHP研究所)、『吾人(ごじん)の任務』 (東洋経済新報社)、『人生の座標軸』(講談社)等がある。

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