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2020年東京五輪を目標に、日本文化のすそ野を広げ世界へ発信せよ!

投稿日:2014/02/07更新日:2019/04/09

初稿執筆日:2014年2月7日
第二稿執筆日:2016年1月15日

 2013年は、ユネスコが富士山を世界文化遺産に、和食をも世界無形文化遺産に登録するなど、世界的に日本文化への関心が高まった年であった。折しも、2020年の東京オリンピック開催が決まり、世界中から多くの外国人観光客、著名人、外国マスメディアなどが日本を訪れ、大いに日本に注目することが確実になった。

 その2020年をひとつの目標にして、今こそ国を挙げて日本を文化大国に磨き上げるべきだ。オリンピックによる日本への注目度の飛躍的な向上を一過性のものにすることなく、それを機に日本文化の魅力を海外に発信し、日本文化のプレゼンスを圧倒的に高める。そのためには、今から明確なアクションプランを立て、日本の文化・芸術に磨きをかけていくことが必要だ。

 もとより、国家の「国力」を考える際、軍事力などのハードパワーだけでなく、文化力などのソフトパワーの重要性は極めて高い。ジョセフ・ナイの提唱したソフトパワーは、「国家が軍事力や経済力等によらず、その国の文化や価値観に対する理解、共感、支持を得ることにより、他国を味方につけて、国際社会からの信頼や発言力を獲得する力」のことで、国家間の直接的な軍事衝突の蓋然性が低下した今日の相互依存的な国際社会において、その重要性を増している。「100の行動18外務4」において、日本のソフトパワーを高めることの重要性について述べたのはそのためだ。

 したがって、国家の文化力を高めることは、我々日本人の個々の人生・生活を豊かにすることはもちろんだが、それだけでなく、国家のソフトパワーを高めることにもつながり、政治的にも国益に適うものだ。さらには、映画やアニメ、音楽などのコンテンツ産業、インバウンド・観光産業を含めた文化関連産業の拡大によって経済にも寄与する。

 世界から日本文化への関心が高まっている今、改めて文化大国日本を目指し、日本の文化の裾野を広げ、世界へ発信したい。

1. アートにマネジメントの視点を導入せよ!

日本人の文化度の高さ、洗練さは世界が認めるところだ。クラシック音楽、最近ではバレエ、建築、映画、漫画アニメ、村上春樹など、多様な分野で日本人の芸術性と美意識が評価されている。また日本ほど古代から現在までの文化財が蓄積され、大切に保管され、広く深く残っている国はない。中国も欧州も、他民族の征服があるたびに、地域の伝統が壊され、文化財が破壊されてきた。

 結局、文化への潜在的需要が強い(内閣府の調査では「心の豊かさ」を求める人の割合が、高度成長期の40%から、今や60%強に増えている)にも拘わらず、また、すばらしい才能や文化財があるにも拘わらず、それがうまくつながって来なかったのは、いわゆる「アートマネジメント」がお粗末だったからだ。

 三ツ星級のシェフと、おいしいもの好きの消費者が並んでも、そこには何も起こらない。朝早く良い食材を手に入れ、季節らしいメニューをつくり、しゃれた内装のレストランをつくり、それをHPで紹介する役割を果たす人が必要なのである。日本の政府も学校も、才能ある人に任せっきりで、文化の需要と供給を結ぶシステム(学芸員やプロデューサーの育成と支援、つまりレストラン経営者の支援)をやってこなかった。レストランがなければ折角のシェフの能力も生かせないのだ。

 これがアートマネジメントである。個々の美術館や音楽ホールでのマネジメントと同様に、国レベルでのアートマネジメントが必要である。そのためにも、アートにお金を出す国民を増やし、特色がある美術館や博物館を増やし、伝統文化を身近なものにして、税制優遇をして市場の裾野を広げる努力をするとともに、アートのマネジメントができる人材を育成する必要がある。グロービス経営大学院でも積極的にアートマネジメントのコース等を新設して、この動きを後押ししたい。

 また、2012年に成立した「劇場法(劇場、音楽堂等の活性化に関する法律)」は、国全体にそうしたアートマネジメントの機能が強まることを究極の目的とするものである。(近藤誠一前文化庁長官の寄稿に基づき執筆)

2. 学校・家庭で幼少期から伝統文化に触れる機会を増やせ!

日本文化の価値を高めるためには、何が必要か。文化を守り、育てるという目的のために、よくクリエーターや芸術家を育てたり、文化・芸術関連の協会・団体へ補助金を出したりと、文化・芸術の「供給者」の方ばかりを支援する政策に偏りがちだが、本当に文化・芸術を育てるには、その「需要者」を育てることの方がはるかに重要だ。人々に必要とされなければ、その文化は結局廃れていってしまうからだ。

 20年前のJリーグ開幕以来、日本のサッカーは発展し、今では世界レベルの選手を輩出するようになったが、日本サッカーの成功はサポーターを育成してきたことが大きい。文化・芸術・アートの分野でも、サポーター・需要者を育てることが重要だ。

 そのための施策は様々あるが、その一環として子供のうちにそれぞれの地方の陶磁器、織物、漆器等の伝統工 芸に接する機会を学校教育を通して増やすことを提案したい。例えばアメリカでは、学校の授業で美術館が使われる。フランス語の語学の授業を美術館で行い、印象派の絵を見せ、ランチにフランス料理をリーズナブルに食べて文化を知る。そのうえで印象派の絵画について、レポートを提出させる。そういった美術館の使い方がアメリカでは行われている。日本でも京都市では、西陣織や京友禅をはじめとする伝統工芸の職人を小中学校に派遣する事業を行ってい る。学校指導要領の改訂を行って、小・中学校のカリキュラムに伝統工芸の体験活動を加え、子供のうちから伝統に接触する機会を増やすべきだ。 

3. 民間の力を活用して特色ある美術館・博物館を増やそう!

世界の主要な美術館等への入場者数をみると、パリのルーブル美術館の972万人、ニューヨークのメトロポリタン美術館の611万人、大英博物館の557万人などに比べて、日本の美術館は、東京国立博物館の150万人、森美術館の106万人、国立新美術館の99万人と少ない。これは、私たち日本人が、幼少の頃から美術館や博物館に行く習慣付けがなされておらず、美術館等の敷居が高いことが大きいだろう。

 一方で、各地方などで特色のある美術館・博物館等が多く出てきているのも事実だ。「京都国際マンガミュージアム」は、マンガ学部のある京都精華大学が、廃校した小学校の土地を市から提供を受けるPPP(Public-Private Partnership)方式で運営されているが、特色ある運営によって、大学付属の博物館としての利用者数はトップクラスだ。海外からの取材や視察も多いという。

 蓑豊氏が館長をつとめていた金沢21世紀美術館では、普通の美術館では年3-4回しか行わない各種イベントを、毎週開催して美術館を子どもが楽しめる場所にし、近隣のすべての学校生徒が来られるシステムをつくり、人口46万人の都市で年間来館者150万人という驚異的な入場者を集めた。

 個人による開設の美術館でも素晴らしいものは多い。島根県にある足立美術館は、実業家・足立全康氏によって開設され、横山大観作品と日本庭園が有名だ。広尾にある山種美術館も、実業家の山崎種二氏によって開設された日本画専門の美術館だが、これらの美術館は、個人コレクションを中心に、特色がある経営が行われている。

 各地にある美術館・博物館にはその地域独特の文化資産が保管されている。そのような資産を後世に引き継いでいくためにも、地域行政と民間がコラボレーションをしながら、地域の人々に受け入れられる形で美術館・博物館を盛り立てて、文化資産の継承をしていくことが肝要であろう。

4. 伝統文化の敷居を下げ、 現代に合わせたビジネスモデルを確立せよ!

当然だが、今や伝統文化である人形浄瑠璃の文楽も、江戸時代には、大阪の町人のポップカルチャーであったのだ。それが、いまでは高尚な伝統文化になってしまい、政府や自治体からの補助金なしでは立ち行かない代物になってしまっている。しかし、それでは長期的にみればその文化が廃れていってしまうのも無理はない。以前、大阪の橋下市長が文楽に対する補助金を廃止にして物議を醸したが、筆者はその判断はおおむね正しいと考えている。

 結局、同時代の一般人・大衆からのニーズのない文化、大衆に受け入れられない芸術は、廃れていってしまうのだ。文化・芸術を守る、ということは、補助金をつぎ込んで延命させることではない。伝統文化を現代の一般の人々に受け入れてもらうようにすることでしか、文化は守れないのだ。

 このため、伝統文化の敷居を下げ、伝統文化はとっつきにくく、退屈だというイメージを払拭することが必要だ。そして、現代に合わせたビジネスモデルを生み出すなどのイノベーションが必要だ。歌舞伎の世界で行われているように、伝統の殻を破りスーパー歌舞伎を始め、海外公演や英語での公演、さらに歌舞伎役者がテレビに進出してファンを増やす等の経営努力が必要である。 

 このように、役者や工芸家が伝統の維持という殻に閉じこもらず、現代のファッションや世界の潮流に接し、鑑賞者・消費者と交流することで、古く良いものを現代風にアレンジできるようにする。こうすることにより、アートマーケットが生まれる。舞台を観に出かけていく観客や工芸品を買う人がいなければ、どんな芸術も立ち行かなくなり、結果的に政府の補助金漬けにして、博物館の陳列物になるだけである。「生きた」伝統文化であって初めて将来に残るし、国民がそこから学びやインスピレーションを得ることが可能になる。

 中国のチャイナドレスは、清代の満州民族の民族衣装が由来だが、昔は日本の着物のように着るのがとても面倒な代物で、一時期廃れてあまり着られなくなった。しかし、現代になってジッパーで簡単に着られるように改善されてから、人気が復活したという。筆者は日本の伝統である着物も、もっと着やすいように改良されれば、活用の機会は大いに増えると考えるが、いずれにしても、伝統文化はイノベーションによって現代に受け入れられれば、廃れずに繁栄し続けられるのだ。

 政府の政策においても、各種伝統文化にアニメやファッション、ゲームなどのポップカルチャーの要素を大胆に組み込むなど発想の転換によって、いかに現代人に受容してもらえるかという視点を重視してもらいたい。

5. 補助金に頼らず税制を優遇し、アートの裾野を広げる努力を!

文化は金がかかるだけで、経済効果が低いという誤解を正すことも重要であろう。文化関連事業の生産誘発係数は1.5~1.8で、公共事業の1.8~2.2よりやや低いが、数字にならない心へのインパクト(癒し、明日への勇気、やる気、イノベーシション力など)を考慮すれば、文化への投資の価値は公共事業に負けないほど高い。その視点による政府の文化事業への支出が必要となろう。だが、そうは言っても、現在の財政状況ではなかなか支出を増やすのは難しいことは理解できる。

 アメリカのクラシックコンサートホールなどでは、イベントなどを行う際、たとえば、3億円の予算が必要であれば、そのイベントを3カ月やることで100億円の経済波及効果があるといったプレゼンテーションで寄付を集めることが普通だ。一方、日本では国や地方自治体からの補助金で運営費用がまかなわれているコンサートホールなどが多い。このため、たとえば3000万円の予算でイベントを開催し、結果として人が入らなくても、誰の責任でもないということになりがちだ。こういった仕組みや意識を変える必要がある。

 芸術を育てるには、それをサポートする「パトロン」「タニマチ」が必要である。ポーラ美術館やMOA美術館のように企業の冠をつけて、政府の補助金ではなく、民間の力でサポートできる仕組みを育んでいくことが必要だろう。だが、なかなか日本では寄付がなりたちにくいのが実態だ。

 そこで、芸術に対する寄付への税制優遇を強化することを勧めたい。アメリカ、オーストラリア、フランス、ドイツなど多くの国が利用している美術税制は、建築物を建設またはリフォームする際の経費の1~5%(国によってさまざま)の美術品を購入しなければ税金で徴収する仕組みをとっている。

 また、ドイツなどでは公の資本が投入されている企業ではアート税が課せられ、生きている作家の美術品を年間経費の1%以上購入することが求められている。

6. 今こそ強力に日本文化を海外へ発信せよ!

クールジャパンに関しては、「100の行動」13.【経産7】」に記載するとともに、これまで何度も取り上げてきた。ゲーム・マンガ・アニメなどのコンテンツ、ファッション、日本食、デザイン、ロボット・環境技術などのハイテク製品まで含めて、海外へ力強く発信する。「100の行動」で取り上げて以降、政府はクールジャパン推進会議などで強力にこの政策を進めており、大いに評価したい。

 日本の伝統文化や日本食、茶道、華道などの無形文化にまで世界中からの関心が高まっている今、現代文化のクールジャパンと伝統文化を縦割りで区別することなく、一体として世界に発信していくべきだ。外国人にとっては、進撃の巨人やワンピースのような日本マンガやゴスロリなどの日本の若者ファッションがクールであるのと同時に、華道や茶道、おもてなし文化もクールなのだ。

 最も効果ある「発信」は、外国の若手アーティストを多数日本に招いて住んでもらい、自由に創作活動をしてもらう、「アーティスト・イン・レジデンス」を拡大することだ。日本の魅力は、下手な日本人の説明によるより、繊細な外国人の「体験」とそれを体現した「作品」によって、より普遍的に世界に広げる方が得策である。また、文化勲章も日本人だけでなく、海外で日本文化の紹介に貢献した人に出すことを勧めたい(日本でも多少授与しているが、非常に稀なケースである。フランスなどは、日動画廊の長谷川夫妻や吉井画廊の社長クラスにまで勲章を授与している)

 海外発信の具体策についてはクールジャパンの稿などでも既に述べているが、日本の文化の良さを海外に発信する一番簡単な方法は、実際に日本に来てもらうことだろう。東京オリンピックでは何もしなくても海外から重要人物やメディアが日本にやってくるだろう。それを一過性にさせることなく、「JAPAN国際コンテンツ・フェスティバル」や「東京国際映画祭」などのように、国際的なイベントを日本で開催し、世界の人が日本に集まってくるような仕組みをつくることも重要であろう。

 ダボス会議を主宰する世界経済フォーラムは、2017年に日本で「スポーツ・文化ダボス」を開催することを計画している。

 2020年の東京五輪に向けて、官民一体となり、日本の文化のすそ野を広げ、世界に発信する行動を進めていきたい。

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