イノベーション人材の輩出を! 

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初稿執筆日:2014年1月10日
第二稿執筆日:2015年12月25日


 竹中平蔵氏とテレビ番組「ニッポン未来会議」で議論した際、竹中氏は英The Economist誌が出した「2050年の日本」を引用して、こう述べられた。

 「日本が世界で生き残るためには、世界におけるシュンペタリアン競争を日本がリードする存在でなければならない」。さもなければ「1人当たりGDPで中国とそれほどの大差はなくなり、アメリカや韓国の半分程度と、もはや先進国とは言えないレベルに落ち着いてしまう」。だが、希望もある。「労働層の付加価値を高めることで、労働者1人で多くの高齢者を支えられるようになるかもしれない」。

 つまり、人口が減少する中、日本の存続を決めるのは、付加価値を高めるイノベーションによるということだ。社会を進化させるのはイノベーションである。イノベーションのない社会は衰退していく。

 言うまでもなく、イノベーションの源泉は「人」である。戦後、日本の高度成長は、ホンダの本田宗一郎やソニーの井深大といったイノベーターによって成し遂げられた。

 ところで、イノベーションとは何か。これはもちろん、技術の「革新」だけには留まらない。ビジネスモデル、文化、社会、いかなる分野にもあり得るものだ。常識を疑い、「違うもの、異質なものを組み合わせて新しいものを創ること」である。言わば「破壊と創造」の繰り返しだ。したがって、最も大事なことは、先入観にとらわれない「自由」な発想を持つことである。

 そのイノベーター人材の中で、今の日本で深刻なのはイノベーションに必要な理工系人材の量的・質的不足だ。

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ラフは、日本における工学部受験者数の推移だ。理科に対する子供の興味・関心の低下、大学における理科系学部志願者の減少など、「理科離れ」の深刻さは指摘されて久しい。日本の将来の成長に向けて大きな危機感を抱かざるを得ない。

 また、今後は「理工系」の枠組みを離れた学際的なイノベーションができる力や、さらにはプログラミング能力も必要となろう。今回の「100の行動」文部科学6では、イノベーション人材の育成に関して提言をしたい。

1. 小・中・高校における理数系教育の強化を!

イノベーションを担う理工系人材の量的拡大を図るには、まず、子供の頃から「理科好き」を増やし、理工系人材の裾野を広げることだ。本来、子供は身の回りの現象に対して「なぜ?」と強い好奇心を持つ、理科好きである。

 これが学校での勉強が進んでいくうちに年齢とともに理科が嫌いになる場合が多い。子供自身が「理科離れ」をするのではなく、学校・大人の側が「理科離し」をしているのが実態だ。そもそも、現代の社会人には論理的思考力や課題解決力が必須であり、その能力を高めるには理科や数学の学習が適している。優秀なビジネスパースンを育成する意味でも、理数系教育を強化していくことは重要だ。

(1)小学校1・2年生における「理科」の復活を!

 1992 年実施の学習指導要領で小学校1年生・2年生の「理科」と「社会」が廃止され、「生活科」が設置されたため、今の小学生は3年生になって初めて理科を学ぶ。しかし、生活科の授業内容は、担当教員によって左右され、理科的要素が少なくなることが多い。子供に理科を系統的に学ばせるには、可能な限り早期に理科の授業機会を確保すべきであり、小学校1・2年生の生活科を廃止して「理科」と「社会」を復活させるべきだ。

(2)小・中学校の理科系教員の拡充・質の向上を!

 子供の学力向上は、教員の指導力に大きく依存する。子供の理科離れは、理科好きな教員が少ないことに起因する側面も大きい。実際、小・中学校においては、理科系出身の教員が極端に少ないのが実態だ。したがって、教員養成課程における理科系科目の拡充や、理科系学部でも教員免許の取得を可能にするなど、教員の理数教科のスキルアップをはかるべきだ。また、企業や大学の研究者・技術者による出張授業の機会を増やすなど、子供たちの理科への関心を高めるカリキュラムを増やすべきだ。

(3)スーパー・サイエンス・ハイスクール(SSH)の拡大を!

 2002年度に導入された「スーパー・サイエンス・ハイスクール(SSH)」は、先進的な理数教育を実施する高校を文部科学省が指定し、学習指導要領によらないカリキュラムの開発・実践を可能にする取り組みだ。目的は、将来のグローバルな科学技術系人材を育成することにある。SSH 指定高校の卒業生は理科系の大学・大学院への進学割合も高いなど、成果を上げつつある。

 たとえば、SSHに指定されている横浜市立横浜サイエンスフロンティア高等学校(YSFH)では、先端科学技術の知識を活用して、世界で幅広く活躍する人材の育成を目標にしている。同校では、理数教育、英語教育に重点を置き、生徒には、先端科学技術の実験や国際交流・海外研修などを通して「驚きと感動」を与えるという。

 最大の特長は、ノーベル賞受賞者などのスーパーアドバイザー(計5名。うち常任1名)や、「サイエンスリテラシー」や「サタデーサイエンス」などでの講演や実験・実習などを担当する科学技術顧問(研究機関7名、大学25名、地域に立地する企業等31名。常任はこのうち1名)の支援を得て教育を展開していることだ。また、海外研修旅行をはじめ、科学研修、語学研修などを計画的に実施し、「サイエンス」および「英語」に優れ、国際社会で活躍する人材の育成を図っている。

 成果が上がりつつある、こうしたSSHのベスト・プラクティスを共有・展開していくべきであろう。

2. 高校卒業までにプログラミング教育を全ての子どもたちに!

情報化社会の現代では、プログラミング技術が、自分の発想や思考をコンピューターで具現化するツールとなる。プログラミング技術を子どもたちに身につけさせることは、日本の将来を担う人材に大きな可能性を与えることにつながる。義務教育段階からプログラミング教育を検討すべきだ。

 実際、サイバーエージェントやグーグルが実施している、小学生を対象としたスマホアプリやパソコンゲームのプログラミング言語を学ぶ有料講座が活況を呈しているという。

 総務省の調査によると、先進各国では、日本よりも本格的なプログラミング教育が義務教育において必修化されている。

NASDAQへの上場数が米国に次ぐ2位につけているイスラエルでは、2000年から高校のプログラミング教育を他国に先駆けて必修化し。

イギリスでも2014年9月のカリキュラム改定で、5~16歳でのプログラミング教育を必修化。オーストラリアでは2016年からの新カリキュラムにおいて8~13歳、フィンランドでも2016年から7~16歳でのプログラミング教育が必修化される。

 日本でも、既に2012年度から実施となった新学習指導要領で、技術家庭科において「情報に関する技術」を教えることとなっており、その中で「簡単なプログラムが作成できるようにすること」とされている。政府の成長戦略でも、「義務教育段階からプログラミング教育を推進する」と決定している。

また、2014年10月には、小学校におけるプログラミング教育の実証実験として、佐賀県武雄市立山内西小学校の1年生に対して、プログラミング教育を目的とした全8回の授業の実施も決定された。

 日本では今後、教える側の人材のレベルアップを含めて義務教育課程からのプログラミング教育に力を入れ、高度情報化時代の言語としてプログラミングスキルを高校卒業までに全ての子どもたちに標準装備させることを目標としていくべきであろう。

3. 高等専門学校出身人材の積極活用を!

高等専門学校(高専)は、中学校を卒業した生徒に対して、修業年限5年間の課程のもとに工学・技術系の専門教育を施す教育機関である。

 筆者は、この実践的技術者を養成する高専の社会的評価を高めて、高専卒業者を産業界でより積極的に活用すべきだと考えている。実際に筆者がお会いした高専出身の方には、大成功した起業家が存在する。

 義務教育終了後に、全員が普通の高校から大学に進学する画一的な教育システムよりも、専門的な技能を身に付けた幅広い技術者・職人を多く育成できる教育システムの方が、多様性が増し、優れていると言えよう。

 実際にドイツでは、職業教育が広く普及しており、義務教育課程を終えた生徒たちにデュアル・システムと呼ばれる公的職業教育課程を用意し、約7割の生徒がこの職業教育を受ける。通常3年間、職業学校と民間企業で理論と実践を学び、幅広い職業に関する基礎知識と、特定の職業に必要な専門能力を身につけ、即戦力となる技術者・熟練工を養成している。

 教育課程の修了後に試験が実施され、試験に合格するとその職種に関する公的な職業資格が「マイスター」等として付与される。ドイツでは現在約200 の専門士としての公的資格があり、近年では経済環境の変化でこの制度が自由な経済活動を阻害するといった面も指摘されるが、こうした徹底した職業教育による質の高い人的資源がドイツの工業力を伝統的に支えてきたわけだ。

 日本でも、高等専門学校出身の優秀な人材は数多くいる。例えば、高専卒の学位を、学士ではない「準学士」から、短大卒と同様に「大学士」の一種に格上げするなど、社会の高等専門学校への評価を再検証すべきではないか。優秀な技術者や熟練労働者を訓練する高等専門学校を再評価し、産業界はもっと積極的に高専出身の人材を活用すべきであろう。

4. 科学オリンピックを盛り上げよう!

理工系人材の裾野を拡げ、トップクラスの人材をさらに伸ばすために産業界ができることとして、科学技術振興機構や、2007年設立の日本科学オリンピック推進委員会などの理工系人材の育成・支援を目的とした組織と連携して、科学オリンピックやロボットコンテストなどのイベントを支援することも有効だ。

 現在、理工系の「科学オリンピック」は世界で行われ、日本でも高校生を対象に数学オリンピック、物理コンテスト、化学グランプリ、情報オリンピック、生物学オリンピック、地理オリンピック、地学オリンピックなどが行われている。

 国際科学オリンピックは、1959年にルーマニアで数学オリンピックが初めて開催され、科学的才能に恵まれた子どもを見出し、その才能を伸ばすチャンスを与えること目的として開催されている。スポーツと同様に、理工系の分野でも世界のトップを目指す目標ができることで、科学オリンピックは日本の子どもたちの理工系の能力を伸ばす役割を果たしている。

 産業界は積極的にこうした取り組みを支援していくべきであろう。

 政府がやるべきことは、イノベーションの基礎となる理工系人材、プログラミング人材、さらには技能職等の幅広い多様性が高い人材育成を、長期的視野に立って進めることだ。その人材こそが日本をイノベーション大国にし、2050年になっても、世界に冠たる国として存続する唯一の道である。

 BS-TBS番組「ニッポン未来会議」の最終回のテーマは、「ニッポンのイノベーション」であった。2020年に実物大のガンダムをロボット技術を使って歩かせるという発想も出て来た。大いに夢があって良いではないか。

 やはり、「ニッポンの未来を決めるのは、あなた達だー!」という気概が必要なのである。

http://globis.jp/article/3090
 

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