ITを教育に活かし、伝える力、創造性に富む日本人の育成を! 

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初稿執筆日:2013年12月20日
第二稿執筆日:2015年12月3日

 TSUTAYAに市営図書館の運営を民間委託して公設民営の成功事例を作った佐賀県武雄市の樋渡市長は、教育現場へのIT導入にも積極的だ。武雄市では、2014年4月から小学生全員に、15年春には中学生全員にタブレット端末を配る計画を立てている。

 2011年から佐賀県では、電子黒板などのIT教材の配備を進めており、武雄市では、さらに実験的に2つの小学校でタブレットを使った事業を既に行っている。その結果、子どもたちを対象にした調査で「授業が分かりやすくなった」と応えた生徒が約8割となるなど、成果をあげている。

 武雄市の公立学校におけるIT教材は、「電子黒板」が小中学校の学級数に対して約50%、2013年度末には80%まで整備する予定。「デジタル教科書」は、国語、算数、理科、英語などで小中学校の教師用に導入されている。タブレッットに関しては、小学校2校(4~6年生)で1人1台ずつタブレットを導入しており、そのコンテンツはドリル学習アプリ、学習内容定着確認アプリ、電子黒板とタブレットの連携アプリなどだという。

 教育現場にITを活用することで、学校現場でできる教育内容が変わってくる。この動きを日本全国に拡げて、子どもたちへの教育の質をぜひとも向上させたい。

1. すべての生徒にタブレット端末を配布し「個別化教育」を導入せよ!

武雄市の例のように、教育にITを取り入れるメリットはたくさんある。まず、情報量の多い電子黒板や電子教科書を使い、タブレットで教育アプリを使うことによって、子どもたちは先生ごとのスキルに左右されにくい最良の「わかりやすい」授業を受けることができる。また、ITを導入することで、校務に忙殺されている学校の先生たちの負担を軽減することが可能だ。さらには、塾・予備校が産業として定着している日本では、授業動画配信が発達しており、生徒にタブレットを持たせれば、「今でしょ!」で人気の林先生の授業を日本の高校生全員が自宅で受けることも可能だ。これはあくまで例え話で、筆者は林先生の授業を受けたことがないので、そのレベルは存じ上げないが、ITを教育現場に導入すれば、場所を問わず質の高い授業を動画配信でどこでも受けることができるのは事実だ。

 ITの教育現場への導入で是非とも実現したいのが、一人ひとりの能力に合わせた「個別化教育」だ。すべての生徒にタブレット端末を配布し、基本的な授業は自宅で動画で見て、応用を教室で行うのだ。これは武雄市でも導入する計画のものだが、もともと近年アメリカの小中高校で広がってきた教育スタイルだ。

 普通の授業は、「学校の教室で授業を受け、家で復習や宿題を行う」が、「個別化教育」では、「授業そのものは家で動画で視聴し、教室では他の生徒や教師と一緒に分からなかった箇所の復習や応用問題に取り組む」というスタイルとなる。これまでとは反対に「授業を受ける」こと自体が宿題になる。

 個別化教育では、生徒は授業の動画ファイル(授業ビデオ)を入れたタブレット端末を持ち帰って、自宅でその動画を視聴する。授業ビデオは、その分野の専門家や人気講師、スポーツ選手や文化人などの著名人に出演を依頼して撮影することが可能だから、この手法によって、人気講師や著名人、専門家による授業をすべての生徒が受けることが可能となり、授業の質はそれ自体で上がる。

 さらに、教室では授業ビデオでわからなかった点を教え合いながら、応用問題などを解くことで、従来の詰め込み教育ではなく他人とコミュニケーションをとりながら協同して授業を進めることができる。これによって、「生徒の知識習得効率が向上する」「生徒の理解度の把握が容易となり、落ちこぼれを防止できる」「授業の中で他人と話し合うことが増え、コミュニケーション能力が習得できる」といったメリットがでてくる。

 アメリカでも、個別化教育の導入によって、高校での落第率の劇的な低下や生徒の学習評価の向上などの研究成果も出ており、是非とも日本でも小中高校に個別化教育を本格的に導入したい。

 そのためには、日本全国のすべての生徒にタブレットを配布する必要がある。武雄市は市内のすべての生徒にタブレット端末を配布する計画だが、市の人口は5万人、小中学校の数も16校と少ない。一方で、日本全国でみると、小学生が689万人、中学生が357万人、高校生が334万人であり、莫大な予算が必要かにみえる。

 タブレットを日本全国の高校生までのすべての生徒たちに配るとしよう。今、アップルのiPadは高価格戦略で6万円以上するが、アマゾンのKindleは1万円代から購入可能だ。「超」がつく程の大量購入によるバーゲニングパワーで1台1万円と計算すれば、児童手当のたった1か1ヶ月分だ。(現在、児童手当は、3歳まで毎月1万5000円。中学卒業まで毎月1万円が支給されている。所得制限:年収960万円。)

 総額では小学生が689万人、中学生が357万人、高校生が334万人だから、約1400億円と高額に見えるが、耐用年数を3年とすれば、年ごとの必要予算は、約450億円。何より、児童手当の小学1年の最初のたった1か月だけを教材費用として自動徴収するだけで日本全国のすべての生徒へのタブレット支給が可能となるのだ。(その後タブレット端末の更新のたびに、児童手当を1か月分徴収すればよい。)

 是非とも全生徒へのタブレット端末支給を実現して個別化教育を導入し、学校現場における教育の質的改善を図って欲しい。

2. 子どもたちのクリエイティビティ・パッションを伸ばす教育を!

教育現場にITを積極的に投入し、個別化教育も導入すれば、授業が効率化されて余裕が生まれ、従来は手の届かなかった教育を子どもたちに提供することが可能となる。その余裕ができた時間を使って、子どもたちのクリエイティビティを伸ばす教育に重点を置くことができる。

 DeNAファウンダーの南場智子氏は、世界で最も成功した女性起業家だ。彼女の設立したDeNAは今や3万人の学生が就職を求める企業に成長した。しかし、南場氏が多くの学生と会っても、パッションやリーダーシップを持つ若者を見つけられることは少ないという。それは、日本の学生たちが、「解答用紙があり、解答欄に正しい答えを書いて○をもらう」という教育に長い間浸かってきたせいではないかと彼女は指摘する。箱の中に正しい答えを入れるという発想ではなく、OUT OF BOXの発想が無いとアントレプレナーにはなれない。

 南場氏は友人のジョン・ルース前駐日大使の夫人との会話で驚いたことがあるという。スージー夫人が、日本人の小学校3年生の女の子と話をし、女の子が趣味で集めていたコレクションについて聞いた際、その女の子に「それを学校で話したの?」と聞いたところ、その女の子は、「自分の趣味は学校とは無関係だから学校では話してはいない」と答えたそうだ。それを聞いたスージー夫人は、むちゃくちゃビックリしたという。その話を聞いた南場氏は、スージー夫人のあまりの大きな驚きにむしろ驚いたということだ。

 スージー夫人がなぜ驚いたかと言えば、アメリカの小学校では、毎週のように「家からあなたの一番好きな物を持って来なさい」「昨日何に感動したのか発表しなさい」といった訓練を、低学年のうちから徹底的になされるのが普通だからだ。日本では、自分の個人的な趣味を学校で語らせる、といったことはほとんどされない。しかし、そういった自分の思いや夢、好きなこと、パッションを共有し、共感を得ようとトライする訓練を幼少期から子どもたちにさせることが非常に重要なのだと南場氏は指摘する。

 初等教育から他人に自分の夢や情熱を伝えるという訓練を続けることが、情熱をもったリーダーを育てることにつながるはずだ。日本でも、子どもたちのクリエイティブさを伸ばす教育に重点を置くべきだ。

3. プレゼンテーションやディスカッションをする能力を伸ばす教育に力点を置け!

加えて、日本の学校におけるカリキュラムに、子どもたちが他人にプレゼンテーションで効果的に自分の考えを伝えたり、ディスカッションにおいて論理的に他人を説得したりするコミュニケーション能力を身につけさせる授業を取り入れるべきだ。

 アメリカの小学校では、1年生のうちから生徒たち一人ひとりに毎週プレゼンテーション(発表)をさせる授業があるのが一般的だ。年間を通して毎週それぞれのテーマに従って、一人あたり2~3分のプレゼンをクラス全員の前でさせられる。

 教師は、毎回生徒のプレゼンを評価し、例えばある小学校の例では、最低の1点から最高の4点まで、

1点:「準備ができていない」
2点:「すべてメモを見ながらの発表」「聴いている人へのアイコンタクトなし」「声が小さい」「先生の手助けが必要」「序論と結論がない」
3点:「大きな声で発表ができた」「聴いてる人へのアイコンタクトができた」「メモを見るのは時々」「序論と結論がわかりやすく伝えられた」
4点:「3点のチェック項目全部できた」「トピックについてしっかりした説明ができ、質問にも的確に答えられた」「発表の方法に工夫が見られた(ビジュアルなど)」「発表内容を暗記していた」

 これほどの要求水準の高いプレゼンテーションを小学校低学年から求められるアメリカ人は、さすがにプレゼンが上手くなるはずだ。

 翻って、日本の小学校の授業参観に行くと、生徒たちはかわいらしく「小さな声で」「すべてメモを見て発表する」のが多いのではないか。アメリカの小学校では落第だ。

 日本の将来を担う子どもたちがグローバルに活躍できるよう、ITの活用を契機にプレゼンテーションやディスカッションに力点を置く教育を進めるべきだ。

4. 道徳・志(こころざし)・リーダーシップ教育の強化を!

経済や社会のグローバル化が進んで久しいが、グローバル社会になればなるほど、日本人としての道徳や歴史観、アイデンティティーが重要になることは海外との関係を持つ人ならば誰しも理解していることだろう。グローバルに通用する人材とは、そういった価値観やリーダーシップ、志を持っていることが重要だ。教育において最も重要なことは、知識の詰め込みではなく、子どもたちが将来どういった形で日本や世界に貢献するかといった志を植え付けることや、その志を成し遂げる為のリーダーシップや意思の強さを鍛えること、さらにそれらの前提となる道徳や歴史観、アイデンティティーを伝えることであるといっても過言ではない。

 世界で活躍し、日本社会をリードできる人材を育てるため、初等教育の段階から、日本の歴史や伝統を教え、子どもに意思力や志を持たせる教育、また、地域と触れ合う地域学習などを重視して取り組むべきだ。

 現状、小中学校における道徳教育に関しては、正式教科としてではなく、教育課程で年間35時間が割り当てられている。文科省の調査では、学校現場では、「効果的な指導方法が分からない」「適切な教材の入手が困難」「指導の効果の把握が困難」といった課題を感じる教員が多いという。

 そういった課題は、教育現場へのITの活用によって相当程度克服できよう。過去の偉人や現代活躍する人々、日本の伝統や文化等に関するクオリティの高い教材や授業ビデオを日本の英知を集めて作成し、それを全国で共有することが可能だ。

 もちろん、個々の学校での先生による直接の指導も重要であることは変わりない。そこで小中高校の先生には、グロービスでも必読図書に指定している、哲学者森信三先生著「修身教授録」を是非とも読んでもらいたい。同書は森信三先生が昭和12~13年当時、大阪天王寺師範学校(今の大阪教育大学)において教師を目指す大学1年生の生徒たちを対象に行った「修身」の授業を基に編集されたものだ。当時の徳目的に偏った検定教科書を嫌ってそれを使わず、森先生独自の口述で全心身を挙げた授業の様子が綴られている。あたかも、論語で孔子が弟子たちに教えを述べているかのような優しさと情熱と気迫が迫ってくる名著であり、教育者としてだけでなく現代を生きるすべての人に人生の意義や生き方の本質を学ばせる内容だ。

 子どもたちに生き方を指導する学校の先生たちには是非とも読んでほしい一冊だ。あと、お勧めは、内村鑑三氏が書かれた「代表的日本人」だ。日本人であることに誇りを持つためにも、日本の偉人達の考え方、生き方、精神性に触れることがとても大切だと思う。

5. 良いものは残す。チームワークや協調性を育てる教育を!

これまでの日本の教育のすべてが悪いわけではなく、世界と比べて日本人の特質として優れているところはたくさんある。その1つは、何かをなす時のチームワークの強さや協調性を重んじる文化であろう。そういった日本人の強みは、これまでの学校教育における指導によるところが大きい。部活動での指導や、学校生活での掃除、給食、各種当番などの生活指導なども同様だ。さらに、運動会や文化祭で見せる規律ある行動と献身的な働き方は、称賛に値する。筆者は米国で小学校を体験し、子供が豪州の小学校に短期で滞在した。その経験からも、日本の初等教育の優位性は理解できる。

 今の学校教育のすべてを否定するのではなく、これまでの教育の良いものは積極的に肯定して残した上で、最新のITを導入して個別化教育などで定型的な学習は学校の外に出し、クリエイティビティ、プレゼン、志や道徳といった新たな分野を強化することが大事だ。

 日本人の協調性やチームワークの強さは、グローバル競争を勝ち抜くための大きな武器であり、その特質を育てる日本の教育は今後も残していきたい。

これらの「行動」は、BS-TBSで放映された「ニッポン未来会議—第9回_学力世界No.1を取り戻せ!_ニッポンの教育」でも議論されてきた。

まさに、「ニッポンの未来を決めるのは、あなたたちだー!」である。

京都大学工学部卒、ハーバード大学経営大学院修士課程修了(MBA)。住友商事株式会社を経て、1992年株式会社グロービス設立。1996年グロービス・キャピタル、1999年 エイパックス・グロービス・パートナーズ(現グロービス・キャピタル・パートナーズ)設立。2006年4月、グロービス経営大学院を開学。学長に就任する。若手起業家が集うYEO(Young Entrepreneur's Organization 現EO)日本初代会長、YEOアジア初代代表、世界経済フォーラム(WEF)が選んだNew Asian Leaders日本代表、米国ハーバード大学経営大学院アルムナイ・ボード(卒業生理事)等を歴任。現在、経済同友会幹事等を務める。2008年に日本版ダボス会議である「G1サミット」を創設。2011年3月大震災後に、復興支援プロジェクトKIBOWを立ち上げ、翌年一般財団法人KIBOWを組成し、理事長を務める。2013年6月より公益財団法人日本棋院理事。いばらき大使、水戸大使。著書に、『創造と変革の志士たちへ』(PHP研究所)、『吾人(ごじん)の任務』 (東洋経済新報社)、『人生の座標軸』(講談社)等がある。

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