守りから攻めの発想へ転換を —日本の農業を世界へ! 

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初稿執筆日:2013年11月29日
第二稿執筆日:2015年11月26日


 人口減少社会である日本においては、農産物の国内市場を拡げようとしても限界があろう。一方で、グローバルに見れば、世界的な人口増加、新興国の所得水準の上昇などから、農林水産物市場は非常に有力な成長市場だと言える。

 現在340兆円の世界の食の市場規模は、2020年には680兆円に倍増すると予想されており、特にアジアの成長が大きく、中国・インドを含むアジア全体で考えると、市場規模は2009年の82兆円に比べ、2020年には229兆円へと約3倍増となる予想だ。

 残念ながら、現状では原発事故の影響や円高によって輸出は大きく落ち込み、農林水産物・食品の輸出額は、約4500億円(2012年)に減少している。しかし、幸いにも、日本食の人気はアジアでも欧米でも高い。日本食が世界無形文化遺産に登録されることも、日本食の世界的な人気の証左だろう。問題は、これらのブランド価値をどう輸出に結びつけられるかだ。戦略を間違わなければ、日本の農林水産業は輸出産業として世界に打って出られるのだ。

1. 【農業】オランダをベンチマークせよ!

 世界第1位の農業輸出大国はアメリカだが、第2位がどこかと言えば、意外にも国土の小さいオランダである。オランダは、九州と同程度の土地面積であるのにもかかわらず、2008年の農業輸出額では、1位のアメリカの約10兆円に続いて約7.5兆円と世界第2位の先端農業大国となっている。ちなみに、日本は先述のように0.5兆円弱で大きな差がある。

 オランダの農業に競争力があるのは、少数の農家が大規模化し、IT技術を取り入れて企業家になったからだ。一方で日本は、減反政策や補助金による農地の塩漬けで零細農家を温存させる「政策の失敗」によって農業の競争力を下げている。このことは政策転換によって農業の競争力を取り戻すことが可能であることを示唆していると言えよう。

 このため、オランダの成功事例を徹底的にベンチマークして政策に取り入れればよい。オランダが近郊型農業の先端国となった成功要因として、政府主導で輸出競争力を持つ野菜や花などの近郊型農業への重点化を行って品目別に栽培地域を集結したこと、食物工場などの農業の工業化、農業へのイノベーションの導入(CO2再利用技術やLED照明技術等によってハウス内を最適化する制御システムの導入)などが上げられている。また、フードバレーと呼ばれる異業種融合促進地域を設立し、1500近い食品関連企業・研究機関の集積・連携による新品種や技術の開発と普及も行っている。

 こういったオランダ型農業政策をベンチマークとしつつ、日本の強みを発揮する政策を進めるべきだ。

(1)世界で勝てる農業への選択と集中を!

 日本の農業の輸出競争力強化のためには、農業の競争力を強化することが必要だ。

 まず、世界で勝てる農業への選択と集中が必要だ。土地集約型農業と言えるコメや小麦といった農産物に関しては、農地の集約・大規模化を図り、少数の農家が効率的な経営を行うように規制や補助金で誘導する。一方で、知識集約型農業と言える野菜や花、フルーツなどは、民間での成功事例を集積させ、IT等の技術革新の導入を促す政策を、補助金やオランダのフードバレーの事例等に倣って進めるべきだ。

(2)ブランディングによる輸出・海外生産(「made by Japan」)を!

 次にブランディングだ。先述のように、日本食の人気はアジアでも欧米でも高い。こういったブランド価値を高め、維持するためには「日本版モンドセレクション」などのブランディングの促進や「クールジャパン」との連携を続け、積極的に発信していくことが必要だ。

 先に紹介した岩佐大輝氏のGRAは自社のイチゴを「ミガキイチゴ」としてブランド化し、インドにも展開している。インドではイチゴは高級品で、単価は日本国内と変わらないのだが、気候と栽培技術の問題で糖度が低くて酸っぱく、生では食べられないような代物だという。そこでGRAの岩佐氏は、自社の栽培技術そのものを輸出し、インドでイチゴ生産に乗り出す「made by Japan」の発想で海外展開に成功している。

 現地生産は厳密には輸出拡大にはならないが、日持ちのしない農産物の特性と島国である日本の地理的特性を考えれば、日本の農業の海外戦略は海外生産「made by Japan」を含めて考えるべきで、それが長期的な日本の農業の競争力強化に繋がるはずだ。

(3)輸出・海外生産に政府のバックアップ体制を強化せよ!

 こういった日本の農業競争力強化・輸出拡大・海外展開を、海外生産も含めて政府主導で進めていく戦略を策定し、強力に進めることが必要だ。いわゆる「海外輸入から守る」という発想ではなくて、「競争力を高めて世界に打って出る」行動だ。

 まずは、輸出の支援だ。自力で海外展開できる企業はよいが、そうではない農家が大多数であり、また、今の農協に海外展開のノウハウは薄い。企業への情報提供、輸出先国ごとに規制緩和や関税撤廃の交渉、輸出先国における販売チャネルの拡大、検疫の問題、現地マーケティングの強化など、政府にできることは数多くある。 

 そして輸出支援体制の確立だ。JETROや政府と密接に連携して、政府の関連部署を一元化し、関係省庁、民間、JETROなどが連携・協力して政策を進め各国のマーケティング情報を集積し、直接農家と結びついて生産・流通する体制を構築するのだ。

 先に述べたように、2013年2月に国と民間の共同出資によって、株式会社農林漁業成長産業化支援機構(A-FIVE)が開業している。輸出戦略の一環として、このA-FIVEの資金を活用して、A-FIVE出資による日本の農産物の輸出を目的とした輸出株式会社を創設するのも一案であろう。

 このように積極的に海外展開を進めることで、逆に国内の生産・流通への刺激にもなるはずだ。そのためには、後述する人材育成や研究開発も極めて重要になる。

(4)人材育成と研究開発に本格的に取り組め!

 オランダの成功事例を見れば、農業への先進技術の導入やイノベーションが国際競争力を押し上げる要因となっているのは明らかだ。日本でも、先述の岩佐大輝氏のGRAでは、それまで熟練農業従事者の勘に頼っていた温度管理等の栽培工程をIT管理し、生産を安定化した事例だし、日本の食物工場の技術は世界的にも非常に進んでいる。競争力強化・輸出拡大に向けて、農業への新技術の導入や新たな研究開発の促進などを政府・民間企業・大学などが連携して積極的に進めるべきだ。

 さらに重要なのは人材育成だ。特に、農業をいかにしてビジネスとして成り立たせるかという、農業経営に関する教育はこれまで軽視されてきた気がする。「100の行動」農林水産編で紹介してきた成功事例を見ても、岩佐氏は元々IT関連サービスで起業した経営者で、かつグロービス経営大学院のMBAホールダ―だ。オイシックス株式会社の高島宏平氏はマッキンゼーで経営に関わっていた人材、和郷園の木内博一氏も農業者大学校で農業経営を学んだ人物であり、農業における成功者の共通点は経営能力に長けている点とも言える。

 農業大学は国立の東京農工大、各道府県の道府県立大学など数多くあるが、農業経営に関する大学は、木内氏の卒業した農業者大学校の後身となる農業経営大学校や都立日本農業経営大学校くらいだ。農業の競争力強化に必要なのは技術とともにそれを活かす経営人材だ。競争力強化・輸出拡大戦略においては、農業経営教育を徹底的に強化すべきだ。それと同時に、グロービス経営大学院で学んだ優秀でやる気があるMBAホールダ―も積極的に農業の世界に参入することが望ましい。岩佐氏以外にも、宮崎県にある赤字農園の再生を手がけ、ITと経営委管理手法を用いることで黒字化を果たしたグロービスMBAの生駒祐一氏の事例もある。今後のさらなる活躍を期待したいところだ。

2. 【林業】日本の森林は宝の山。経営の集約化を進めるとともに、生産現場と加工、エンドユーザーまでを直結させ、林業を基幹産業にせよ!

 日本の林業産出額は、1980年の約1.2兆円をピークに、長期的に減少傾向で推移していて、最近はだいたい約4000億円程度となっている。木材価格も下落の一方で、杉丸太で言えば1980年に38,700円/m3だったのが、2011年には12,300円/m3にまで下落している。

 なぜ林業は衰退産業に陥っているのか。1つには、これはやむを得ないことではあるが、これまで日本の木が若すぎたということだ。戦後復興期に植林された木が、細くて使える状況にないものが大半だったことだ。それが、今ようやく資源として使える段階に移行しつつあるわけで、これはチャンスだと言える。

 また、日本の森林の個人所有者のほとんどが、林業に長いこと携わってこなかったので関心も知識もなく、所有者のための組織である森林組合もほとんどは公共事業に奔走してきたという背景がある。だから日本の林業は、大規模化できず、今まで規模が小さいものにとどまってきたというのが実態だ。

 さらに、日本の林業は、生産現場と加工、小売をつなげてマーケティングするシステムもなければ、道路や生産管理のインフラもないなど、林業を基幹産業化するシステムがないことも問題だ。

 しかし、重くてかさばる木材を扱う林業は、地産地消が有利な産業であり、莫大な森林資源を有する日本の林業は、やり方次第で外国木材に負けない競争力のある基幹産業に変えることが可能だ。

 参考となるのは、ドイツの林業だ。ドイツは日本の森林面積(2512万ha)の半分以下の森林面積(1108万ha)でありながら、近年の改革で、木材生産力、従事者を著しく増大させ、日本の3倍もの木材を毎年安定的に生産し、85万人もの雇用を生み出している。日本の林業従事者数は5万人を切っているのに、だ。

 何が違うのか。ドイツでは生産から加工・利用する木材サプライチェーンが地域で成立している。経営意欲の高い農家林家が、森林所有主体となり、森林官とよばれる専門家が、一定の面積ごとに配置され、生産可能な森林資源の適切な把握(=在庫調査)、木材需要の把握などICTを活用してマーケティングし、効率的な木材供給を実現している。

 ドイツでは、木材加工も徹底的に自動化、そして、木材供給地域に、木材加工者以外に、住宅メーカー、家具会社、楽器製造会社等エンドユーザーに直結する企業が入り込んだサプライチェーンが成立している。例えばハウスメーカーからのニーズの変化は森林官を通じて木材生産現場に直結する仕組みになっているのだ。

 ここから3つの方向性が見える。

(1)経営集約化を進め、生産効率を上げよ!

 ドイツの例を見れば、やるべきことは明確だ。林業の経営を集約化し、規模の経済を働かせ、生産効率を上げてコスト競争力をつけさせることが第1のポイントとなる。意欲のある経営主体に森林経営を集約化し、必要な設備投資ができるように、林業への新規参入と森林の集約化を自由化することが必要だ

(2)顧客ニーズと直結するマーケティングを!

 日本の場合は、需要を無視して一方的に集められた木材が一層の価格下落を引き起こしている。住宅メーカーの求める木材精度に対応した設備投資もなされていないため、外国からの輸入材に太刀打ちできないのだ。

 このため、日本でも、林業の生産現場とエンドユーザーまでを直結する仕組みを作り、マーケティングを強化することが必要だ。戦後植林された木が太ってきた今、日本の宝の山に適切なマーケティングとICTなど先端技術を活用すれば、木材産業は先端産業となり、地方創生の基幹産業に変えられるはずだ。

(3)持続可能な林業の構築と人材育成を!

 顧客ニーズにあった技術開発とそれに応じた植林を継続的に行い、将来に向けた投資を続けることも重要だ。例えば、いくつかの森林研究所では、花粉症を根絶するために無花粉スギの技術開発なども行われている。顧客ニーズを見据えた木種の研究開発という視点は重要だろう。

 また、ドイツでは、大学卒の学生の憧れの職業には医者と並んで、先ほど述べた森林官がトップを争うほどだという。林業はサイクルの長い事業であり、持続可能な林業の構築のために、ドイツの森林官のような役割を担う人材育成も重要となろう。

 林業を発展させ、雇用を生み、花粉症を解決できるならば、一石三鳥である。

3. 【水産業】漁業への新規参入を自由化し、水産資源の減少が危惧される魚種には個別漁獲枠制度の導入を。そして、養殖産業の技術開発を!

 漁業法では、養殖を行うための「区画漁業権」や定置網漁業のための「定置漁業権」の場合、漁業権の免許は①漁協、②漁業者世帯の7割以上が所属する法人、③漁業者7人以上が株主または社員の法人、の順とするよう定めており、漁協に優先権が与えられている。このため、漁業権に守られて各地の漁協が漁業を事実上独占してきた。新規参入のない産業にイノベーションは発生しない。日本の漁業はジリ貧だ。

 実際、日本の水産業は1980年代のピーク時には約3兆円の産業であったが、現在ではその半分、1.6兆円程度まで生産額が減少している。このため、漁業従事者は、過去40年で3分の1にまで減少し、その半数は60歳以上の高齢者という状況だ。

 一方で、販路開拓などのイノベーションに成功している事例ももちろんある。例えば沖縄県石垣島の八重山漁協だ。石垣島は、多くの水産資源に恵まれているものの、離島という立地条件のため、鮮魚の出荷は、沖縄県内に限られていた。だが、販路拡大を図るため、全国の水産物商社などに幅広い販路を有する水産加工業者との連携をはじめ、石垣島から首都圏までの鮮魚流通ルートを構築した。また、鮮魚だけでなく、切り身や加工品の開発を進め、高付加価値化も図っている。

(1)楽市楽座で水産業への新規企業参入を促し、高付加価値化で儲かる水産業に!

 成功している八重山漁協のように水産業を成長産業化するには、閉ざされた水産業にイノベーションを起こして高付加価値化を図ることが重要だ。

 一つの有力な方法は、漁協が事実上独占してきた漁業権の設定方法はゼロベースで見直す「楽市楽座」で、企業の新規参入は自由化する手法だ。漁業法の見直しは国家戦略特区で一部取り組まれている。漁業権設定の優先順位を撤廃し、やる気のある普通の個人、企業が一定の参入・撤退ルールの下で漁業に直接新規参入できるようにすべきだ。

(2)水産資源の減少が危惧される魚種に関しては、漁業権の代わりに個別漁獲枠制度の導入を!

 日本の水産業の漁獲量は現在、ピーク時の1282万トンの半分以下の559万トンだ。これはブリ、クロマグロなど、数年かけて成長する魚種に関して、資源の回復力を超えた漁獲が進められてしまっていることが原因だ。

 一方で海外では、ノルウェー、ニュージーランド、米国などの先進国で「個別漁獲枠制度」が導入され、十分な産卵親魚を確保できるように全体の漁獲枠を設定した上で、早獲り競争を防ぐために漁獲枠を個々の経営体に配分する資源管理手法が取られている。各国では、個別漁獲枠制度の導入により、水産資源の回復力が向上し、長期的に水産業の市場拡大に成功している。

 魚種の資源状況によっては一定期間減収となることも想定されるが、厳格な資源管理を実施することで、長期的には水産業の成長、地方における雇用の確保につながる。

 このため、楽市楽座で漁業への新規参入を促進する一方で、同時に、水産資源の減少が危惧される魚種に関しては、漁業権を廃止した上で、 

①国が総漁獲枠を設定し、漁獲枠を各漁業者に配分する。

②科学的根拠による資源管理を円滑かつ公正に実行するため、資源量の評価および調査、漁獲量の適切な監視及び統制を実施できる体制を整備する。

③政府は、それぞれの港の水揚げ量をチェックし、漁業者が漁獲枠を超えて漁獲した場合、水揚げ代金を国に返納させる。

といった科学的な根拠をベースとする厳格な個別漁獲枠制度を日本でも導入し、水産資源の維持拡大につとめることが必要だ。

(3)近大マグロの成功事例に続け!養殖の研究開発と事業化力強化を!

 近畿大学水産研究所は2002年、世界で初めてクロマグロの完全養殖に成功した。この近大マグロは、まさに水産業におけるイノベーションと言えるだろう。それまでの、天然の稚魚を獲ってそれを生簀の中で育てる養殖方法とは異なり、「ふ化→成長・産卵→ふ化」という世代交代サイクルを養殖施設内で行う完全養殖が産業化した。これによってクロマグロの水産資源減少を防ぐことが可能となる。

 近大マグロは、同大学発ベンチャー企業の株式会社アーマリン近大によって事業化されている。同社は2004年に「完全養殖近大マグロ」として販売を開始し、マグロのほかに、同大学の研究所で養殖されたハマチ、シマアジ、ヒラメ、トラフグ、幻の高級魚といわれるクエなども販売している。

 近大マグロの成功までには、研究開始から32年もの時間を要した。「なめんなよ茨城県」でも、つくばにおいて民間企業が10年以上の年月をかけてチョウザメの完全養殖を実現し事業化している。数十年後を見据え、日本の水産業の持続可能性確保、成長産業化のため、養殖の研究開発と産業化により重点を置くべきであろう。

 まさに漁業も「狩猟民族型」から「農耕民族型」へと発想を転換すべきであろう。

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