聖域なき歳出改革を!(社会保障) 

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初稿執筆日:2013年8月2日
第2稿執筆日:2015年7月7日

日本は非常に厳しい財政状況にもかかわらず、社会保障に多額の国費を投じてきた。これまで、小泉改革を唯一の例外として、財政再建の努力は社会保障分野「以外」の分野でのみ行われてきた。その結果、教育や科学技術、子ども等への将来投資には十分な国費を回すことができなかった。

未来を担う子供達に良い日本を引き継ぐためにもこの異常な状態を一刻も早く止めなければならない。今すぐに社会保障費の削減に切り込まなければ、財政再建は行えず、未来への投資が行えなくなる。

社会保障費の削減は当然ながら痛みを伴う。しかし、歳出改革の本丸は社会保障費の削減であると言えよう。避けては通れない。

数字を分析してみよう。社会保障給付にかかる費用は毎年1兆円規模で増加し、2009年で約110兆円となっている。このうち、国費負担は約30兆円であり、GDPの6%、一般会計の30%を占める。

内訳は、医療費が、年間約42兆円(うち公費負担が約16兆円)、年金が約54兆円(うち公費負担が約12兆円)。生活保護に年間約4兆円(全額が公費負担)、介護に年間約9兆円(うち公費負担が約4兆円)となっている。

すべての分野で国費負担が尋常でないほどの規模になっている。本稿では、医療、年金、生活保護、介護の各分野に関して、社会保障費削減のための方策を大胆に提言していく。基本的には、医療保険、年金、介護保険は、保険料で自律的に賄える方向に持っていくのが望ましいと考えている。

1.医療

最新の2013年の国民医療費は、予算ベースで年間41.8兆円にもおよぶ。医療費の財源内訳をみると、保険料が48.5%(約20兆円)、患者の自己負担が13.4%(約5兆円)、公費負担が38.1%(約16兆円)だ。

現在でも国民医療費は巨大な額だが、厚労省の推計ではこれが2025年には54兆円まで膨れ上がると予想されている。

その医療費の費用構造の内訳を見ると医師等の人件費が47.9%と約半分を占め、医薬品が22.2%(約9兆円)となっている。

医療費の総額は、単純化すれば価格(P)×数(Q)で決まる。このため、価格(P)を下げ、数(Q)を減らす方策が必要となる。以下、順次論じていく。

(1)医療費の価格(P)の削減/後発医療品の使用を義務化せよ!

診療報酬の内訳で最大のものは医師等の人件費だ。地方を中心に医師のなり手が少なく、地方の病院崩壊や救急車のたらい回しが依然大きな社会問題となり、それらの問題が診療報酬のプラス改定によってある程度改善の方向に向かったことを考えれば、医師の人件費に関しては、特に病院の勤務医や救急医療に関しての配慮が必要であろう。

一方で、毎年約9兆円が使われている医薬品に関しては、医療費削減の余地が大きいのではないか。日本では、後発医薬品、いわゆるジェネリック医薬品が使われるのは、全体の約40%に過ぎない。厚労省は、これを5年後に60%以上にすることを目標としているが、低すぎはしないか。諸外国での後発医薬品のシェアは、アメリカで約90%、イギリスで約70%、ドイツで約80%などだ。

仮に、ある医薬品をすべて後発医薬品に置き換えた場合、医療費総額で1兆5300億円の削減となる。(そのうち公費は約5800億円)例えばフランスでは、一部の医薬品の償還額は後発医薬品を基に設定され、それを上回る部分については患者負担となっている。

日本でも、後発品のある医薬品の診療報酬上の薬価については、後発医薬品を基に設定し、患者が先発品を望む場合は金額が上回る部分を自己負担とすることで、後発医療品の使用を事実上義務化すべきだ。 また、後発薬の価格についても、現在は効能が同等の先発薬の約6割に設定されているが、必要以上に高いと言わざるを得ない。後発医薬品の市場拡大とともにその価格低減も進めることが必要だ。

2015年6月現在、安倍政権はこの後発医薬品使用の促進について検討している。政府の行政改革推進会議で低価格の後発医薬品の使用促進に関する中間報告がまとめられ、2020年度に使用率を8割に引き上げるとする厚生労働省の目標を前倒しすることや、先発薬を選択する場合に後発薬との差額を自己負担とする仕組みの検討を求めた。しかし、この報告の内容は同月に決定した経済財政運営の基本指針「骨太の方針」には反映されず、「例示」として示されるにすぎなかった。さらなる努力を求めたい。

(2)自己負担比率の引き上げを!

次に、医療の個数(Q)を抑える方策だ。医療にかかった場合の患者の自己負担は現在、70歳以下が3割、70歳から74歳が法律上2割、75歳以上が1割となっている。しかし、現状では70~74歳の患者負担について、毎年度約2000億円の予算措置を行って、1割負担に凍結している。これについては早急に法律上の自己負担率である2割に戻すことが必要だろう。

加えて、なるべく医者にかからないようなインセンティブを国民に与える観点で、中長期的には自己負担比率を一律で3割負担とするといった、自己負担比率のさらなる引き上げが必要であろう。年齢に応じて負担額を減らす発想を改め、何歳であろうが30%の自己負担とするのが、シンプルで望ましい。当然、生活保護受給者にも同様に30%自己負担を求めるのが、自然な発想であろう。

(3)医療サービスの利用実績に応じた保険料制度の導入を!

医療の個数(Q)を抑えるには、上記の自己負担比率の引き上げに加えて、私たち国民がなるべく医療サービスを使用せずに健康を維持するインセンティブが必要だ。それには、国民健康保険の保険料に関して、民間の保険と同様に、医療費を多く使った場合には、次の年の保険料が引き上がる、といった仕組みの導入を検討すべきだろう。こういった制度改正によって、医療の個数(Q)を抑えるインセンティブが国民に与えられるようになる。

2.年金

日本の年金制度では、現役世代はすべて国民年金の被保険者となり、高齢期になると基礎年金の給付を受ける。この基礎年金が「1階部分」と呼ばれるもので、2012年に実施された社会保障と税の一体改革において、消費税増税とセットで、この基礎年金の国庫負担の割合が2分の1に引き上げられたものだ。加えて、民間サラリーマンや公務員は厚生年金や共済年金に加入し、基礎年金の上乗せとして報酬比例の年金の給付(いわゆる「2階部分」)を受ける制度となっている。2012年度の給付総額は53.8兆円であり、うち国庫負担は、基礎年金部分の2分の1で12.4兆円となっている。

(1)年金支給開始年齢の引き上げを!

近年先進諸国では年金支給年齢の引き上げへの動きが相次いでいる。アメリカで65歳→67歳(2027年までに)、イギリスで65歳→68歳(2024年以降)、ドイツで65歳→67歳(2029年までに)などだ。

世界最高水準の長寿国である日本においては、高齢者雇用を政策的に進展させることとセットで、年金の支給開始年齢の引き上げも十分検討されるべきだろう。

財務省の試算では、仮に基礎年金の支給開始年齢を1歳引き上げると、毎年約5000億円の公費負担削減効果が見込まれるという。高齢者雇用を促進し、70歳、そしてゆくゆくは75歳への引き上げについて早急な検討が必要だ。

(2)高所得者への基礎年金の減額を!

所得の高い高齢者への基礎年金の調整に関しては、年金は、40年保険料を支払い続けて来た当該個人の財産権にあたるため慎重な意見もこれまで見られた。しかし、基礎年金の支給額のうち半分は税金が投入されていることや世代間の公平を図る観点を考えれば、基礎年金の国庫負担分に関しては、一定以上の高所得者に対して、支給額を減額する制度を導入すべきだろう。

(3)デフレ下でもマクロ経済スライドを着実に実施せよ!

原則として、年金額は、毎年度物価や賃金の変動に応じて自動改定する仕組みになっており、物価が上がれば年金額も上がるが、物価が下がれば、年金額も下がるのが本来である。

しかし、2004年の改定以降、年金給付の名目額の下限を設けたために、日本経済はデフレが続いているにもかかわらず、年金の支給額は減額されていない。この結果、本来あるべき水準と実際支払われている年金の額に2.5%の開きが生じている。今後、さらなる少子高齢化が進む中で、年金制度の持続可能性を高めるためには、年金給付の名目額の下限を撤廃してマクロ経済スライドをデフレ下でも着実に実施し、年金額を抑制することが必要だ。

この点、2015年に安倍政権は年金給付を自動的に削減するマクロ経済スライドを初めて発動しており、率直に評価したい。

具体的には、2015年度の名目年金給付額は、2014年に消費者物価が上昇したため16年ぶりに増加するが、本来であれば、物価上昇を加味した名目手取り賃金上昇率2.3%を年金給付に反映させるところ、今回の改訂では、マクロ経済スライドによる0.9%と、過去のデフレ期に年金給付を下げなかった特例水準の解消分0.5%を差し引き、0.9%の増加にとどめた。この結果、4月分の給付から適用される新たな年金月額は、国民年金で満額6万5008円(前年度比608円増)など、名目では上昇するものの実質では減額された。

今回のマクロ経済スライドの実施はインフレ下でのものであったが、今後デフレ下でも実施できるよう、制度の改正が望まれる。

3.生活保護

生活保護受給者は、リーマンショック以降急激に増え、2013年で216万人に達した。安倍政権下での好景気でもこの傾向は変わらず、2015年3月には217万人を超えている。これは、戦後1951年の205万人を抜いて過去最高を更新し、日本の全人口の1.69%におよび、生活保護費支給額は2013年で約3.8兆円である。早急な改革が必要だ。

(1)生活保護支給費を基礎年金支給額と同額にせよ!

生活保護制度では、医療費が無料になり、税金や社会保険料等の支払い義務も免除され、家賃を含めた生活費が保障されるため、最低賃金でまじめに働くよりも生活保護に入るほうが得となり、当事者に生活保護から脱却するインセンティブが働かない。

したがって、適正な生活保護費支給額の切り下げは必要だろう。憲法で保障された生存権との関係にも考慮が必要であろうから、少なくとも、まじめに国民年金を支払い続けてきた人々が手にできる基礎年金の支給額と同額程度にすることが妥当であろう(その基礎額に、扶養義務に応じて子育て等必要な手当てを付加するのが一案だ)。

そもそも生活保護の需給を受けている人が、最低賃金を上回る逆差別の状況は、即刻に解消すべきだ。

(2)生活保護受給者の医療費の自己負担の導入を!

また、支給費3.8兆円のうち、約半分が医療費である。どれだけ多く医者にかかっても医療費が無料であることがモラルハザードを生んでいる。生活保護受給者にも医療を受けた場合に3割負担を求めるのが自然な発想であろう。

(3)生活保護受給者に一定の社会奉仕義務や就労義務を!

加えて、生活保護に入ったことによって、税金や社会保険料等の支払い義務が免除され、当事者に生活保護から脱却してまじめに働くことへのディスインセンティブが働いてしまっては本末転倒だ。もちろん、健康上の理由等で働くことができない人々には手厚く対応すべきだが、健康な勤労世代の生活保護受給者には、一定の社会奉仕義務や就労努力義務を課すことで、少しでも早く国家財政に頼る状況から脱却してもらうべきであろう。

4.介護

2000年に始まった介護保険制度は、当初の給付費3.6兆円、保険料は全国平均2911円でスタートしたが、現在、給付費は9.4兆円(2013年予算ベース)、保険料は4972円(全国平均)となっており、この急激な膨張傾向はとどまりそうもない。厚労省の推計では2025年には介護保険制度の給付費が21兆円まで膨れ上がると予想されている。

介護保険制度では、介護にかかる費用の1割を被保険者が負担し、残りの9割を制度で支払う。給付費は、税金50%、保険料50%で折半だ。

自己負担1割の現状の制度で保険料と公費負担が無制限に増えていっては、いつかは介護保険制度自体が破綻してしまう。社会の高齢化に伴いどんどん増大する介護ニーズに対して、制度を継続させるためには、保険料を無制限に上げるのではなく、増大するニーズと費用をいかに抑制するかという視点で制度改革をする必要がある。このため、

(1)少なくとも医療保険と同様に自己負担比率を3割に引き上げ、介護サービスの利用率をある程度抑制する

(2)要介護認定数に上限を設ける

(3)家庭での介護にインセンティブをつける

(4)要介護1以下は介護保険料給付の対象外とする

といった、利用抑制のための仕組みを介護保険制度にビルトインすることが必要だ。

さて、上述のように医療保険、年金、生活保護、介護保険などの問題点を列挙し、行動を提案してきた。すべての問題点は、1)少子高齢化、2)財政負担を減らすインセンティブの欠如にあると言えよう。

今後さらなる高齢化社会を向かえると、今の仕組みでは社会保障費が毎年1兆円も増え続ける。このままでは、国家財政が破綻してしまいかねない。

総論として検討されるべきは、上述の財政負担を減らすインセンティブ制度の導入と、社会保障費の国庫負担についてGDPや税収と連動させて上限を設ける、「社会保障費のGDP/税収キャップ制度」の検討であろう。

少なくとも社会保障の国庫負担を、GDPの5%以内に収める必要はあろう。社会保障のGDP比が5%でも既に、防衛費が占めるGDP比1%と比較しても多すぎると言えよう(現状は社会保障費のGDP比は6%程度)。

日本は、防衛費の5、6倍もの国庫を、増大する社会保障費に充てているのである。「外にある敵」よりも、この増大する「内なる敵」と真正面から対峙し、改革を始めることが、何よりも重要である。

名言

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