感情に働きかける(3) 

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前回は議論の場において参加者が抱く感情のうち、議論されるテーマや内容に対してどのように感じるか、そしてそれにどう対処すべきかについて考えてきました。今回は議論の場自体や、そこに参加する他の人に対してどのように感じるかという、「メンバー・集団に対する感情」についてみていきましょう。

議論の場に参加するメンバーが、他のメンバーに抱く感情には、2つのレイヤーがあります。ひとつは個々のメンバーに対するもの、そしてもうひとつは「議論の場」という集団に対するものです。個人に対する感情については、「参加者の状況を押さえる」「対立をマネジメントする」でもある程度触れましたので、ここでは集団に対する感情について考えたいと思います。

「集団」の進化ステップ

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ばらばらの個人が、あるまとまりをもった「集団の一員」となり、その中で積極的に役割を果たしていくようになるまでには、いくつかのステップがあります。これには様々なモデルが提唱されていますが、概ね以下のようなステップをイメージするとよいでしょう。

最初は互いのこともよく知らず、自分がその集団の一員であるという意識もあまり強くありません。この段階では、各自がそれぞれ持つ、それまでの考え方や、他に属している集団での価値観、振舞い方に基づいて考え、話し、行動しています。集団の共通の目的や判断軸などもまだはっきりしないか、明確に存在していても各人まだそれを理解、納得、内面化してはおらず、各自がそれぞればらばらに感じ、動いている段階です。

しばらくすると、互いが他のメンバーの考え方や性格、言動の特徴などを知るようになり、個人的な関係も深くなってきます。自分が集団の一員という自覚も高まり、自分がその集団に貢献したいという意欲も高まっていきます。と同時に、それぞれが自身の意見を主張しはじめ、様々な意見の対立が起こるようになります。議論される具体的な意思決定の結論はもちろん、仕事の進め方や善し悪しの判断軸、さらには集団が目指すゴール自体など、様々なレベルでの「違い」が目につくようになります。但し、まだ何が支配的な考え方や価値観なのかは明確に定まっていないため、放っておくと対立が激化したり、コミュニケーションが困難になるなどして、集団の活動が停滞、時には崩壊の危機に直面することもあります。

こうした時期をなんとか乗り越えると、次第にその集団において支配的な価値観、スタイル、行動の規範等が形成、共有化され、各自がそうした考え方や規範に沿って行動するようになります。そして一人ひとりがその集団を「自分の居場所」と強く感じるようになり、集団への帰属意識、当事者意識も高まります。集団の中で自身の役割をしっかり果たし貢献活躍したい、そして他のメンバーから信頼や尊敬を得たいという意欲が高まり、コミュニケーションもスムーズになり、分業と協働が効果的、効率的に行えるようになります。結果、集団としての成果も大きくなってきます。同時に、他の集団との違いやライバル意識を持つようにもなり、自分が属する集団とその仲間を守ろうといった意識も強くなってきます。

しかし、しばらくすると、集団固有の考え方や価値観、スタイルや、集団内の人びとの関係性が固定化し、かつそれを維持強化しようという圧力が強まってきます。そのままでもしばらくは上手くいく(むしろ集団として最も成果が出て、かつ各人にとって居心地が良いのがこの時期でしょう)のですが、気づくといつの間にか、外部環境の変化などからその集団が生み出すべき成果や集団のあるべき姿が変化しているにも拘らず、その変化を察知、対応できなくなってきます。そうなると、外部の他の集団との関係が悪化したり、また集団内部でも「閉塞感・停滞感」を感じる人が出てきます。結果、集団の在り方を「変革」する必要性が出てきます。

集団の進化に適応し、また変革を促進するファシリテーター

こうした集団の進化のステップを理解し、議論の場においても、いつでも同じようにファシリテーションをするのではなく、ファシリテーションの目的と方向を変えていくことが必要です。今、この集団はどの段階にあるのかを認識し、メンバーの気持ちや言動の状態が想定する。そしてその状態に合わせたファシリテーションを心がけます。更に、集団が進化の段階をできるだけ早く駆け抜け、メンバーが集団の一員として最大の成果が出せる状態に至らせることを目指します。そのためには、集団が次の段階に自然に進むためには、今ここでは何に注力し、どのような場をつくることが必要なのかを考え、ファシリテーションの目的や力点を変えていくべきです。

たとえば、まだ互いを良く知らない初期段階の集団では、互いを理解するためにそれぞれに意見や考えを話してもらう必要性が高い一方、様子見で自分の意見を明確に表明しない人も多いものです。そうした状態にあることが判っていれば、いきなり議論の本題に入らず、まずは軽い話題、皆が発言できる話題、程度に幅広い意見が出て議論が盛り上がる論点を選択し、できるだけ多くの人が気軽に発言できる状態をつくる(Ice-Break)といった工夫ができます。こうした議論では結論を出すことよりも、各自が自身の考え方や経験を吐露し、相互理解や共感を促進することが目的となります。そうすると、まずは話しやすいような問いかけや、率直な自己開示を促すリラックスした雰囲気を維持することに心を砕くべきです。

メンバー間の意見が激しく対立する場面も、それが集団の進化のうえで必要なステップであるならば、無理に対立を抑え込むのではなく、まずはしっかり対立できる状態をつくる。そしてその真剣な議論を通じた深い相互理解を実現することを狙います。更に、参加者が「自分たちで対立を解決しよう」と感じるまで粘り強く待つことで、そのプロセス自体を自分たちで乗り越えた事実が互いの絆をさらに深めるきっかけになります。むろん、こうした難易度の高い状況を上手く乗り越えるためには、重要かつ必要な対立点を明確にする論点のコントロールや、安易な妥協を許さず考え続けることを励ます、そして感情的な反発を深めることに終わらないよう、冷静な議論を促すなどの高度なコントロール、そして冷静なファシリテーションが必要になります。

集団の一体感を高めたい段階であれば、意見に多少の違いがあっても、むしろ「共通点を見つける」「共感を生みだす」ことに力点を置きます。「同じところはどこか?」「もし同意できるとしたらどういった点か?」といった質問を徹底的に増やす、「2つの案は一見違うが、○○を重視するという点では同じ点を重視していますね」などといった、「共通点を強調する方向」で議論を整理していくなどが効果的でしょう。

このように、論理的には同じ論点であっても、集団の進化の段階によってどのように議論をファシリテートするかは大きく変わります。論理的な議論の仕込みに加え、感情のステップの観点から、今、何を狙いとしてどのように議論をするのかを設計していきます。こうしたファシリテーションは難易度が高いですが、同時にこうしたことを考え、仕掛けをし、働きかけていくところにこそ、ファシリテーションの醍醐味があると言えるでしょう。

集団が進化のステップを踏むうえで、「議論の場」は大きな役割を果たします。人びとが顔を合わせ、意見を出し合い、共に考える場こそ、相互理解を深め、一体感を醸成する最大の機会ともいえます。こうした場をどのように設計し、ファシリテーションを行なうかが、集団の進化を促進できるかどうかの分かれ道と言っても良いでしょう。ファシリテーターはそれだけの責任と可能性を持っているのだ、という意識で議論の場に臨んでいきたいものです。

次回、いよいよ最終回です。

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