「オフィスグリコ」と「ぐりこ・や」に学ぶ縮小市場での生き残り方 

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皆さんは、「オフィスグリコ」をご存じだろうか。B5サイズ、3段重ねのボックス。中には10種類程度、全24個の菓子が詰められ、上部にはかぱっと口を開いたカエルと、「100円入れてね!」の表示。菓子以外にアイスクリームや飲料の入るタイプもある。東京、大阪、名古屋など大都市圏の事業所約8万社12万カ所に細かく展開し、年間43億円を稼ぐ。とは言え、単体でも1470億円を売り上げる江崎グリコ全体からみれば、その額面は小さくも思える。1個100円の商品の売上を、12万カ所も巡って回収、賞味期限を守りながら商品補充する手間や管理を考えれば、利益貢献率が高いとも考えにくい。

そして「ぐりこ・や」。ターミナル駅や空港、高速サービスエリアなど15カ所に出店する、この直売店には、同社の人気商品「アーモンドチョコレート」などの製造工程を見せ、出来たてを提供できるキッチン機能を併設(一部店舗)、その他、限定商品の展開などにより耳目を引き、幅広い年齢層を広い商圏から集客している。とは言え、こちらも運営や商品開発の手間など考えると、さほどの利益を生み出すとは思えない。かと言って規模化すれば希少性を失う。実際、同社・江崎勝久社長もMSN産経ニュースの取材に応え、「単に拡大すればいいというものではない」とコメントしている。

ではなぜ彼らは、これらビジネスを推進しているのか。オフィスグリコに至っては1996年の構想開始以来、既に15年超が経過している。

「モノ」ではなく「コト」を売る

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「既存の売り方では限界が来るという、明確な危機感がありました」と、広報担当者は当時を述懐する。

1990年代、日本の人口動態は急速な少子化進行を示していた。大手菓子メーカーとしては主たる消費者である子どもの数が減少することは、ビジネスの縮小と直結する。そこで、「今までのない顧客像」や「今までにない売り方」が様々検討された。当時はまだ菓子が多く扱われていなかったホームセンターやドラッグストアなど、「今までにない売り場」をおさえる新チャネル開発や、もっと賞味期限の短い商品を流通させるなど「今までにない販売の仕組み」を展開する物流改革などである。それらのアイディアをさらにブラッシュアップし、商品をどう売るかという「モノ売りの発想」を越え、顧客の視点から菓子に触れる新しいタイミングやシーンを考えていこうという新しい取り組みが始まったのである。

最初に行ったのは「生活者の1日」を観察することだったという。小学生から60歳代までの数百名を対象に調査をした結果、「菓子を食べるシーン」として、約7割が「家庭」、約2割が「オフィス」という数字が浮かび上がってきた。今では当たり前となった「オフィスで菓子を食べる」という光景だが、当時の担当者にとって大きな驚きだったという。そこで、「働くこと」と「菓子を食べること」という2つのシーンをつなぐ、新市場創造の可能性が見出された。「オフィスグリコ」のアイディアの原型が誕生した瞬間である。

担当者が注目したのは、社会人がオフィスで菓子を食べ出すに至った背景だった。当時は1991年のバブル崩壊からの長引く不況の中、業績回復を目指し多くの企業が成果主義を導入。オフィスで働く人々にとっては労働の効率化や時間管理など、ストレスが増大し始めている時期だった。

「人間は一日中、集中できる訳はない。『ちょっとお腹がすいた』時、『あともうひとがんばり』という時、次の仕事に元気に向かうツールとしてお菓子は役に立つ」。そうした考えから、お菓子にオフィスでの「リフレッシュメント」という新しいコンセプトを創造したという。つまり、「モノとしての菓子」を売るのではなく、「ソリューション=コトとしての菓子」を売るという発想である。

一方の「ぐりこ・や」はどうだろう。「顧客に対してワクワク感を提供することに一貫して注力している」と、同企画部門のマネージャーは言う。「オフィスグリコ」は働く場という、ハレとケでいえばケの場で用いられるのに対し、「ぐりこ・や」はギフトやパーティーの場での消費というハレの日需要を切り拓いた展開である。

そのルーツを辿れば、古く1989年の「ジャイアントポッキー」に行き着く。その後、1994年の大手菓子メーカー初の地域限定お土産菓子「ジャイアントポッキー<夕張メロン>」へと続き、それ以降も顧客に「ワクワク感」を届ける商品を開発し続けた。「モノではなく、ワクワク感を売る」という発想である。

「ぐりこ・や」は、2001年に談合坂サービスエリアにオープンした。ジャイアント菓子や地域限定品だけでなく、一般の店舗では購入できない半生タイプの「ポッキーケーキ」、「ビスコのカステラ」なども扱って人気を博し、順調に店舗拡大するに至った。ただ、競合の相次ぐジャンボ菓子への参入や、コンビニスィーツの進化による半生菓子の魅力の低下などで、顧客の「ワクワク感」は次第に薄れていった。そこで導入したのが2012年、「ぐりこ・や」の要素に作りたて菓子を提供するキッチン機能を併設した「ぐりこ・やkitchen」(東京駅一番街)である。そこで参考にしたのは、1988年にオープン、2011年には来場者数150万人を突破した、工場と企業ミュージアムが合体した見学施設「グリコピア神戸」だった。

アンゾフで考える「オフィスグリコ」「ぐりこ・や」の戦略的位置づけ

さて冒頭の疑問に戻ろう。江崎グリコの展開は、フレームワークで考えるとその狙いが明確にわかる。

経済学者のイゴール・アンゾフは、企業の成長戦略を4つにパターン化した。いわゆる「アンゾフのマトリックス」である。既存の顧客を対象にするのか、新規の顧客を狙うのか。既存の製品を用いるのか、新製品を開発するのか。顧客・製品、新規・既存の掛け合わせの4つだ(下の図)。

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江崎グリコは、「既存製品×既存顧客=市場浸透」が少子化によってこれ以上は図れないとの危機感から、「顧客接点を多様化させる」プロジェクトを発足させた。

その一つの方向性である、「オフィスグリコ」は、「既存製品×新規顧客=新市場開拓」である。菓子を食べるという習慣が低かったオフィスシーン、特に菓子を食べていなかった層を開拓し、現在の利用者は7割が男性だという。しかも一度、押さえた12万という点と点を結ぶ面は、そう簡単に競合に覆せるものではない。ちなみに当初、彼らが想定していた顧客層は女性だったとのこと。「若い男性たち(主として未婚)は、朝食代わりにリフレッシュボックスのお菓子を食べるようです。30代以上の男性(主として既婚者)は、メタボがどうという以前に、とにかくストレスを軽減し、あるいは空腹を満たすことを優先して食べているようです」(『利用者の7割が男性!オフィスグリコの仕掛け人に聞く』、2012年6月29日、ビジネスメディア誠)。

そしてオフィスで味を覚え、それまでにはしなかった仕事場での間食という愉しみを覚えた男性たちは町でもグリコの商品を手に取るようになった。「当初は『コンビニエンスストアなどの売り上げを圧迫するのではないか』という懸念を口にする人々もいました。でも、実際には圧迫するどころかその逆で、新規需要を創造することになっていると私は判断しています。オフィスグリコは今や“有料試食”と言うべき位置付けになっていると思います」(同)。冒頭の私自身の疑問への答えはオフィスグリコ仕掛け人・相川氏のこの言葉に凝縮されているように思うがいかがだろうか。

さて、もう一つの方向性である「ぐりこ・や」「ぐりこ・やkitchen」は、「新製品×既存顧客=新製品開発」である。菓子を通常食べている顧客層に対して、今までに見たことのない、他では手に入らない商品を提供することで、「ワクワク感」を醸成し、需要を喚起しているのだ。

無論、これら店舗や新製品が提供するワクワク感がメディアなどを通じ拡がっていくことにより、ブランド基盤を強固にし、日常、既存商品の拡販につながるメリットもあるだろうし、ここで消費者インサイトを掴み、全国展開できる商品開発につなげる意図も充分にあり得るだろう。卸や小売店など複雑な流通経路に載せて自社の商品を展開するメーカーにとって、直接に生活者と触れ合い、或いは自身の思うままに棚割を設計できる直販店の存在は、存外に大きい。そしてその重要度は、売り場さえ確保すればモノが売れた時代から遠く離れた今、さらに増しているからだ。

日本の人口縮小はもはや逃れられない所まできている。それは、少子化という危機に直面した製菓業に限ったことではない。その環境下で、「何」を「誰」に売っていけば生き残りが見えてくるのか。

「モノからコトへ」は言われて久しいが、それを具体的にどのように展開するのか。江崎グリコの場合は「オフィスのソリューション」であり、「ワクワク感」であった。その二つは、菓子というカタチを借りて、顧客への具体的な「働きかけ」を行っていることで通底している。

「顧客は誰か?」を考えることはマーケティングの基本である。江崎グリコの場合は潜在需要を持った新規顧客を開拓し、さらに既存顧客の需要を新たに喚起した。そうすることで、今までの新規顧客・既存顧客という枠を越えて「コトを満たすニーズを持った顧客」というターゲット顧客の再定義をしたのである。

黙っていれば市場と共に縮む運命。それをどう切り拓いていくのかの一つのヒントが、ここにあるように思う。

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