感情に働きかける(2) 

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前回は、ファシリテーションのもうひとつの重要な側面である「感情」の扱いについて、特に「場の空気」が議論の場に参加する人の思考や言動に与える影響を中心に考えました。今回は、参加者が持つ「強い感情」について考えていきます。

議論の場において参加者が抱く感情には、大きく2つの対象があります。
・そこで議論されるテーマや内容に対してどのように感じるか?(対内容)
・議論の場自体や、そこに参加する人に対してどのように感じるか?(対メンバー・集団)
です。まず「内容に対する感情」から見ていきましょう。

内容に対する感情——「ポジティブ」「ネガティブ」「無関心」

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テーマや内容に対する感情には様々なものがありますが、「ポジティブ」「ネガティブ」「無関心」の3つで捉えてみるとよいでしょう。

ここで「ポジティブ」とは、そのテーマや内容に対して、「その件について積極的に話をしたいと感じている」「その件について、自分として思い入れがあり、自分の考えを人に積極的に伝えたり、説得したいと感じている」といった状態を指します。

逆に「ネガティブ」とは、「その件について気になっているが、公の場で議論されることを恐れたり、避けたいと思っている」「その件に関して支配的な意見などに対して強い反発を感じている」といった状態。

そして「無関心」とは、その件について特段の関心もなく、また自分にはあまり関係が無いと思っている。このため特にその件に関して特段の感情を抱いていない状態と捉えてみましょう。

■感情に気を配り、備える
「ポジティブ」な場合、参加者は議論の場において、その強い関心や意見をしっかり表明する機会を求めています。その機会を十分に与えること、それもできるだけ早い段階で想いを吐露する機会をつくることが重要です。

「ネガティブ」な場合は扱いが難しくなります。恐れを感じている人は、ときに沈黙を選択し、話をすること自体を避けようとします。また反発を感じている人は、しばらくは沈黙して人の話を聞いているようでも、心の中では反対の感情が渦巻いており、冷静に話を聴いて理解することができません。もしくは、最初から激しい調子で反対意見を述べ、人の意見に耳を傾けようとしない、といったこともあります。多くの人はネガティブな感情を持っていることを無意識に隠そうとするので、なかなか表に出ず、周囲から理解しづらいことも扱いを難くします。

ここで重要なことは、事前に参加者がどういう感情を持っているのかを予想し、特にネガティブな感情を持っている場合には、その扱いをどうするか、作戦を立てておくことです。たとえば、早めに意見を言う機会をつくるなど、「感情を適切な形で表出させる機会をつくる」ことがポイントです。強い感情を抱えたまま沈黙していると、心の中で悪感情が増殖していきます。何よりもまずは想いを吐き出させることが重要です。

同時に、「その感情を持つことを認める」ことも効果的です。「この件は○さんにとってはあまり気持ちのよい話ではないと思いますが・・・」「この案は○さんの立場では理解しがたいと思われるかと思いますが・・」など、結論の是非ではなく、相手がそのように感じること自体、またそのように感じる状況に理解を示します。そうすることで、「この議論の場には自分の気持ちを判ってくれる人がいるのだ」という安心感を持ってもらうことができ、感情が爆発したり、ネガティブな方向に増殖することを防ぐことができます。

ここで注意が必要なのは、「感情」の存在を認識し、それを認めるからといって、それに対してこちらも「感情的」に対応しないこと。また「感情」自体をネガティブに指摘することは避けるということです。たとえば、感情が乗って興奮気味で話をしている人に、「怒らないでください」「興奮しないでください」などと言っても逆効果です。「わかります」「そうですね」「それは悲しいですよね」「○○と感じるのですね」といった形で静かに、共感をもって対処することが重要です。

■「無関心」に対応する
そして、実は最も扱いづらいのは「無関心」、つまり「そもそも興味や関心が薄く、議論すること自体に積極的でない」場合です。「この話は自分には関係がない」と議論に参加しなかったり、「わざわざ議論する必要性を感じない。そこに時間を使うのは無駄だ」といった消極的な反発を感じている場合などです。はっきり反発が見える場合はまだ対応しやすいのですが、そうでない場合は意見を求めても、「別に。」といった答えがかえってくるばかりで、議論の場の空気を冷やし、周囲にも悪影響を与えます。かといって放置しておくと、結果として発言が無い、決まった内容に対して当事者意識が持てないままといった状態に陥ります。

また、「無関心」は「関心を持っている人」の感情にも悪影響を与えます。たとえば、ある状況についてある担当者は「問題だ」と認識し、「解決のためにこうしたい」と訴えかけているにも関わらず、他の参加者がその訴えにそもそも関心を示さないと、その担当者は、「自分がこれだけ真剣に考え、話しているのに、なぜ他の人はまともに取り合わないのか?」と不満や疎外感を感じてしまいます。

ファシリテーター自身がその件に強い関心を持っている場合は特に注意が必要です。自分はそのテーマについてずっと考えてきていると、他の参加者も同じように関心を持ってくれているように錯覚しがちです。そして思ったようは反応が得られないと、「どうもやる気が無い」といった捉え方をしてしまいがちです。

この状態を避け、「無関心」の人にも興味関心を持ってもらい、議論に積極的に参加してもらうためには、まず関心が持てない源泉に手を打つことを考える必要があります。そのうえで、「一定レベルの認識を形成する」「感情を刺激する」ことを考えるとよいでしょう。

関心が持てないのは、「状況が理解できていない」「状況の持つ意味が理解できない(たとえば起きていることが問題であると認識していなかったり、その重大性を感じていない)」「その状況と自分とのつながりが見えない(たとえばある問題の発生は、本当はその人にも関係があるのだが、そのことを理解していないなど)」ために「関心が持てていない」と捉え、それらに対して手を打つことを考えます。

状況が理解できていないのであれば、状況を理解できるようにするための情報をできるだけしっかり共有する。状況の持つ意味が理解できないのであれば、その状況が【その人にとって】どういう意味を持つのか?背景となる考え方を共有する。そして自分との関係が見えないのであれば、「この状況は○○さんの仕事に□□の影響を与えると思いますが・・・」など、その人との繋がりを具体的に示したり、「この問題が起きると、△△さんの部門にはどういった影響が出るでしょうか?」など、つながりを相手に考えてもらう質問をしてもよいでしょう。言いかえれば「関心のなさ」の背景には、「認識の薄さ」があり、その「認識」を深めるための段階を踏むことが肝要なのです。

そして、その件について、必要なレベルの認識が形成できたら、どうやったら相手の感情を刺激し、その件に思い入れを持ってもらうか?を考えます。面白そうだ、もっと詳しく知りたい、といったポジティブな感情、もしくはたとえネガティブな感情であっても、疑問がある、言いたいことがあるといった反応を起こすことができれば、その件について自分のこととして感じ始めているサインです。

このように、「関心が無い」という状態から、「興味がある」「強い興味を持ち、何らかの主張を持つ」、そして「どうしてもそれを実現したい、自分こそがその件についてリードしたいといった強い意欲と当事者意識を持つ」といった「感情のステップ」をイメージし、そこを段階的に進めていく道筋を考えていくとよいでしょう。

今回は「内容に対する感情」について考えてきました。次回は「他のメンバーや集団に対する感情」に話を進めたいと思います。

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