議論をさばく(13)対立をマネジメントする(1) 

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前回まで、「議論をさばく」の基本動作、すなわち「発言を引き出す→発言を理解し、共有する→議論を方向づける→結論づける」についてじっくり見てきました。今回は「さばき」の応用編として、ファシリテーターが議論の場でしばしば直面し、恐れ、対応に苦慮する「参加者同士の意見の対立をどうさばくか?」について考えてみます。

人はなぜ対立するのか?

ビジネスにおける議論のほとんどは意思決定に関するものです。もう少し具体的には、「制度をAからBに変えるべきか否か?」「社員に研修を実施すべきか否か?」「Z氏をマネージャにすべきか否か?」といったあるアクションの決定について賛成か反対か、もしくは「発注先をXにすべきか、Yにすべきか?」「キャンペーンの企画はAにすべきか、Bにすべきか?それとも別の案にすべきか?」といったアクションの選択を迫るものです。

こうした決定に際し意見の対立があると、我々は「価値観が違うから」とか、「○○さんはXが好き/嫌いだから」といった要因に対立の原因を安易に帰属しがちです。確かにそうした場合もありますが、他の要因が存在することも多いのです。また「価値観の違い」も、もう少し詳しく考えていくことで、乗り越えることが可能になります。

意見の対立にどう対処するかを考える前に、そもそも意見の対立が生じるのかを考えてみましょう。

なぜ人はある意思決定に対して、異なる意見持つようになるのでしょうか?人があるアクションを選択するまでのプロセスを考えてみましょう。おそらく以下のようなプロセスになるでしょう。
(1)情報に接する
(2)情報を解釈する
(3)何らかの判断基準にあてはめて問題・課題を認識する
(4)その問題に対する解決策を思いつく(ひとつか、複数)
(5)何らかの判断基準に基づき、ある解決策を選択する
おそらくこうした流れになっているかと思います。

ここで、基本的ながら見落としがちなのが、(1)と(2)です。そもそも接している、入手している情報が異なれば、判断は変わってきます。たとえば、「競合がある機能を追加した新製品を投入する予定である」という情報を知っているのとそうでないのでは、「当社の製品を改良すべきか」という問いに対する判断は異なるでしょう。そして、同じ情報に接しても、着目するポイントが異なれば解釈が異なっています。たとえば、競合が製品に追加する機能が製品価値に大きな影響を与えるものなのか、軽微が変更と見るかは人によって違います。

「機能が追加されること、そしてその機能の追加が大きな変更だ」を同じように認識理解していたとしても、それに対して「当社がそれに対して対抗策を考えるべき重要な課題だ」と認識するかどうかは、人が持つ判断基準によって異なります。ある人は「この製品分野においては、機能追加は顧客にあまりアピールせず、当社製品の売上への影響は少ない。むしろ価格が決定的に重要だ」という前提を持っているならば、「対応策を取るべき」という結論にはならないでしょう。

更に、「競合製品の機能追加は対応すべき重要問題だ」と認識したとしても、それに対する打ち手はいろいろあります。「同様の機能を追加した対抗商品を投入する」「異なる機能を追加した対抗商品を投入する」「製品には手を加えず、現在の商品の魅力をより的確に訴えかける広告に力を入れる」「機能はそのままで価格を下げて対抗する」「小売店への販売のインセンティブを強化する」「営業パーソンの商品説明の力点を変える」などです。

そして最終的には、何らかの判断基準に基づき、アクションが選択されます。たとえば、「製品の売上維持こそ今優先すべきことだ」なのか、「売上が落ちても利益を確保することが重要だ」と考えているのか、判断軸が違えば選ばれる解決策も異なることになります。

このように見てくると、対立の原因はいくつかに整理できます。

認識の相違や考え付く解決策の内容・幅の相違が対立要因となる

ひとつは「基本となる認識の相違」であり、(1)情報に接する、(2)情報を解釈する、等が関連します。見えているもの、見ているものが異なれば、当然判断も変わる訳です。実は多くの対立の原因がここにあることが多いのですが、これを「考え方の違いだ」と解釈してしまうことが多いのです。「認識の相違」を乗り越えるためには、情報の格差を無くし、認識を揃えるとともに、それぞれが見ているものと「異なる見方が存在するという事実」を理解できるようにし、多様な情報、多くの人の認識から自身の判断を見直すように促すことが重要です。

次に、同じ認識を持っていても、人によって「考えつく解決策の内容・幅に違いがある」((4)その問題に対する解決策を思いつく(ひとつか、複数)、に関連)ということに手を打つことが必要です。先の例では、「製品を変える」ことだけを考えている人もいれば「製品以外に手を打つ」をまずは思いつく人もいます。そして、自分が考えている以外のオプションについては、そもそも考えていないことも多いのです。

また、複数のオプションを考えている場合も、我々はえてして「自分の考える案のメリット」と「他の案のデメリット」を重く考え、逆の「自分の考える案のデメリット」「他の案のメリット」は見過ごしていることがほとんどです。ここでは、まずは同じ課題の解決のために「取り得るオプションが複数あり得ること」をしっかり共有・認識させること。そして双方の案のメリット・デメリットを冷静に洗い出し、バランス良く考えるように促すことが重要です。

そして、最後に「判断基準の違い」が存在します((3)何らかの判断基準にあてはめて問題・課題を認識する、(5)何らかの判断基準に基づき、ある解決策を選択する、に関連)。これはここまで見てきた対立の原因に比べると根が深いものですが、解決できない訳ではありません。

まず、判断基準として考慮すべき点は何か?を洗い出し、共有します。たとえば、「価格・品質」だけで考えている人に対して「納期やサービス」など、他の判断軸も考慮すべき点であることを理解してもらうようにします。

そのうえで、複数ある判断基準の中で、どの判断基準を重視して意思決定するかによって結論が変わるわけですが、この「優先順位の違い」が対立の原因になっていることが多いのです。人はそれぞれの立場や置かれた状況によって重視するポイントが違います。たとえば営業の立場であれば、顧客の要望にすぐに対応できるようフレキシブルに生産対応できることを重視するでしょうし、逆に生産の立場では、生産の効率性や安定性、コスト等を重視するでしょう。このままの状態で議論をしていても、それぞれの立場ではもっともな理由からそれぞれが自説を展開し譲らないといった状況になってしまいます。

この状況を乗り越えるためには、「目の前の判断基準」そのものではなく、「判断基準に影響を与えるもの」に視点を向けることが必要です。いろいろな要素がありますが、特に強く影響を与えるのは、「その意思決定に係る業務の目的、あるべき姿は何か?」ということでしょう。このように考えると、判断基準の相違を解決する上では、合意可能なレベルまで、その業務の目的やあるべき姿を遡り、合意を引き出したうえで、そこから段階的に合意をつくっていくことが解決策になります。より具体的には、営業、生産はそもそも何のためにやっているのか?より上位の経営戦略上、今は何が重要なのか?を考える。上位の目的に遡っていけばどこかで共通点、合意点が見つけられるはずです。そこが握れたら、今度はその共通点から見て、それぞれの立場で今、何を重視すべきか、という方向に落としていくことで、当初の状態よりは判断基準上の共通点を見つけやすくなるはずです。

ファシリテーターが意見の対立に直面した際、いきなり、この対立をどう解決するか?どちらの意見にするか、どうやって間をとって双方痛み分けにするか、そして反対意見をどう封じ込めるか、などを考えてしまいがちですが、まずは一息おいて「この対立はどこから生じているのか?」に目を向けるようにしましょう。そしてその原因を取り除くべく、情報の共有を促す、オプションを洗い出し、それぞれの良い点と悪い点を洗い出してみるように促す、そして目的やあるべき姿を問いかけて握れるポイントを探る、などの働きかけをチャレンジしていくとよいでしょう。

ここまでご説明してきたのは、「対立の原因を明らかにし、それを論理的に解決する方法」です。これはこれで重要なのですが、これだけでは「対立」が解消しないこともあります。次回はその理由と対処法について見ていきたいと思います。

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