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レノアハピネスアロマジュエルに見るP&Gの徹底した「引き算戦略」

投稿日:2012/07/06更新日:2019/04/09

ブランドの中核価値を捨て、付随機能の香り付けに焦点をあて大ヒットに

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先頃発表された日経MJ(流通新聞)紙の「2012年上期ヒット商品番付」。その西の前頭三枚目に異色の商品が列せられた。P&Gの「レノアハピネスアロマジュエル」である。「レノア」といえば多くの人が知る同社の衣類柔軟仕上げ剤のブランドだ。だが、この商品は衣類をふんわりと仕上げるという機能、つまり柔軟仕上げ剤の機能がない。「香り付け専用」なのである。

「レノアハピネスアロマジュエル」の売上は凄まじい。2012年2月中旬より発売開始をしたところ、「発売後1カ月半で年間販売数量の半分を売り切り」(2012年4月11日付日経MJ「1〜3月ヒット商品——定番にひと工夫、ニーズ取り込む。」)、「生産が追いつかず発売1カ月で出荷停止に」(2012年6月20日付日経MJ「2012年上記ヒット商品番付—ひとつ上へ価値磨く」)までなった。ヒット商品番付で前頭三枚目に列せられた理由もそのあたりにあるのだろう。

フィリップ・コトラー氏の「製品特性分析」に則るなら、柔軟仕上げ剤の「中核」価値は、「衣類をふんわりと仕上げること」にあり、それを実現する「実体」価値である「より肌触りの良い仕上げ」に各社がしのぎを削る。しかし、P&Gが米国を中心に販売していた柔軟仕上げ剤「ダウニー」の香りが日本でも大ヒットしたことから、近年、「付随機能」である「良い香りの仕上げ」が注目されるようになってきた。実際、「この数年は香りが長く残る商品がけん引役となり、市場規模は10年間で約2割増えるなど拡大傾向にある」(2012年5月11日付日経MJ「衣料用柔軟剤、香る「フレア」鼻差で首位、花王、水分に反応の新技術(ヒットを狙え)」という。コモディティ、成熟市場である柔軟仕上げ剤は、もはや中核価値、実体価値での差別化は困難になっていたため、主戦場が付随機能に移っているのだ。

付随機能を中核価値にすることで、他社製品との共存が可能に

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成熟市場で製品の価値構造を変化させている例としては、カラオケボックスが挙げられる。業界1位のシダックスでは、カラオケボックスの中核価値である「歌を歌う」という要素を廃し、さらにそれを実現する実体価値である「カラオケマシン」までスポイルさせて「歌わないカラオケルームの使用法」を提唱している。用いるのは実体価値の「個室・防音」という要素と、付随機能の「飲み物の給仕」のほう。つまり、カラオケボックスの「会議室利用」を推奨しているのである。一般の貸し会議室より料金が安価であることから、特に日中は人気を博しているという。価値構造の中核と実体の一部を「引き算」して新たな価値創造を行ったのである。

「レノアハピネスアロマジュエル」は従来の柔軟仕上げ剤の価値構造を変化させ、中核価値はおろか、実体価値も全て捨て去り、カテゴリーの枠を飛び出した徹底した「引き算戦略」を実行したのである。

実は、P&Gは2009年にも「引き算戦略」の商品を上市している。衣類用洗剤の「さらさ」である。同商品は逆に、中核価値である「衣類の汚れを落とす」ことに徹底的にフォーカスし、実体価値の「より白くする」という機能は引き算した。つまり、漂白剤や蛍光剤成分を取り除いた商品として製品化し、「洗剤の余計な成分が気になる」という層をターゲットとしたのである。

さて、「レノアハピネスアロマジュエル」の引き算戦略の真価はどのように現れるのか。それは、P&Gの売上の総和を「+α」することにほかならない。

P&Gによると「レノアハピネスアロマジュエル」は、「使用量によって好みの香りの強さを実現できる」ほか、「他の柔軟仕上げ剤と組み合わせて好みの香りを作れる」という。ここで言う「他の柔軟仕上げ剤」は自社の製品に限らない。競合他社の商品との組み合わせも当然OKだ。

P&Gは柔軟仕上げ剤のシェア1位ではない。そして、トップから1位を奪取することは容易ではない。だが、徹底して「引き算」を行って価値構造を変化させた結果、柔軟仕上げ剤というカテゴリーの商品ではなくなった「レノアハピネスアロマジュエル」は、他社商品と共生できる無敵の存在となったのだ。

「顧客はドリルが欲しいのではない、穴を開けたいのだ」とは、顧客ニーズの本質についてセオドア・レビットが著した有名な言葉だ。

「顧客はふかふかだけが欲しいのではない、良い香りが欲しいのだ」。消費者のニーズは刻一刻と変化している。それを見極め、価値構造を変化させ、大胆な「引き算」を展開したP&Gの勇気が大ヒットにつながったのだと言えるだろう。

※追記。昨年、東日本大震災の影響で相次いで中止された東北各地の夏祭りが、この夏は2年ぶりに開催される予定で、これらへの参加は“被災地ツーリズム”、観光による復興支援として注目を集めています。例えば津波による甚大な被害を被った福島県いわき市では、海を楽しむ参加型イベント「おなはま海遊祭」や、音楽と花火のコラボレーションを特徴とする東北屈指の花火大会「いわき花火大会」が8月4、5日に開催されます。直接的な地元への経済効果はもちろんのこと、県外からの訪問は地元にとって大きな励みになるなど、復興への大きな力になることが期待されています。皆さんも、よろしければ是非、参加されてみては?本件、「被災地ツーリズム」という切り口でガジェット通信、マイナビニュースなどでも取りあげられています。

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